第13話 石清水八幡宮
石清水八幡宮は、京都府八幡市にある標高143mの男山山上に鎮座する神社です。
伊勢神宮並ぶ二所宗廟の1つ、日本三大八幡宮、などなど、古くから多くの信仰を集めてきました。
古典においても『徒然草』第 52段『仁和寺にある法師』に登場するなど、洛中の人にとってあこがれの神社だったようです。現在でも建物10棟が国宝に指定されるなど、その存在感を示しています。
こんな重要な神社なのですが、観光客はさほど多くありません。
私は、これには大きく2つの理由があると考えています。
1つは『るるぶ』等の観光ガイドブックでほとんど紹介されていないこと。
もう1つは、アクセスが少々面倒なことです。
市販されている京都の観光ガイドですが、ほとんどが、京都市内の情報です。
まあ、『京都』だから、京都市しか載せてないなら仕方がないと思います。市内だけで見所は山ほどありますからね。
でも、市外の施設でも、宇治市や長岡京市のものは掲載されていることがあるんです。なのに八幡市の石清水八幡宮は載ってない。
同じ山城国なのに、この差別は何でしょう?
やっぱり「行きにくさ」でしょうか?
宇治ならJRでも京阪でも行けます。長岡京でもJRでも阪急でも行けます。
しかし、八幡市は京阪でしか行けません。そのあたりがネックになっているのかもしれません。
加えて、もう1つの「行きにくさ」が、標高143mの山の上にある点です。
100m以上山を登るのは結構大変です。
普通に参道を上るとそれなりに時間がかかるため、なんと、最寄り駅前から山の上までケーブルカーが通っています(片道300円)。
ケーブルカーの運行は1時間に4本(※ちなみにそのうち2本は客がいないと運休します)。歩いて行くよりは格段に楽ではありますが、口が裂けても、これを「交通の便が良い」とは言えません。
そんなこんなで、石清水八幡宮は、神社が本来持っているポテンシャルの高さに比べて、大変観光客が少ない、『穴場』的な存在になっているのです。
ケーブルカーに乗るという手間はありますが、自然景観も歴史景観も素晴らしいのに、いつ行っても適度に空いている(※正月は行ったことがないのでわかりません)ことから、私の京都における定番ポイントの1つになっています。
さて、駅を出て右手に進むと、すぐにケーブルカーの駅が見えてきます。ここで往復切符(600円)を購入し、ケーブルカーに乗り込みます。
普段は片道だけ買って、帰りは参道を歩いて降りてくるのですが、現在時刻は3時半過ぎ、既に日が陰り始めている上に、今日はどんよりとした曇り空、帰り道はかなり暗くなっていることでしょう。
そして、神社の参道は、晴天の日中でも薄暗く、「山賊が出る!」と言われたら信じてしまいそうになるくらいの寂しさ。さらに、道は雨で湿っているし、腹も減りました。もう、徒歩で帰る気力は残されていません。
ちなみに、切符は片道を2回買っても、往復で買っても同じ値段ですから、自分の気力・体力と相談の上、片道だけ買って、帰りは山上で決めるのも手です。
※登りは30分ぐらいかかる参道ですが、下りは10分ぐらいで下りられます。
3分ほどの乗車で山上駅に着きます。ここから神社までは5分ほどです。
山上駅、出ると左手に石段があります。この石段を上がるとそこは展望所になっていて、そこから見えるのは、なかなかの絶景です。しかし、本来の目的は神社なわけですから、何よりまずは参拝です。
順路に沿って直進します。そして、木立の中に続く、よく整備された、緩い上り坂を歩くこと数分、左に現れた道に入ると……。
忽然と巨大な石清水八幡宮の境内が目に飛び込んできます。
右手を見れば一直線に続く石畳の道。等間隔に並ぶ石灯籠のずっと先に、三の鳥居の姿が望めます。
そして、左手を見れば、立派な南総門。その奥には壮麗な本殿も垣間見えます。
このような山深い場所に、このような荘厳な場所が存在している。
歴史価値云々は関係なく、それだけでも十分に感動を覚えることのできる場所です。
それを観光客でごった返すこともなく、落ち着いて味わい尽くせるのですから、こんな幸せなことはありません。
私にとって、何度でも訪れたいとっておきの場所。それが石清水八幡宮なのです。
本来でしたら、もっと隅々まで境内を楽しみ、帰りも薄暗い山道を歩きながら、『仁和寺にある法師』の世界に思いを馳せるところです。ですが、残念ながら、今日は時間が厳しい。ご挨拶を済ませたら、すぐに発たなければなりません。
名残惜しいですが、急いで参拝を済ませ、ケーブル駅に戻ります。てきぱきと行動したおかげで、幸い発車までは少し余裕がある時間に戻れました。
これならば、展望所にも行けそうです。
展望所から見る景色は、普段日中に訪れているときとは、一風変わったものでした。
眼下に流れる、木津川・宇治川・桂川の三川並流。こちらは薄暗くぼんやりとしていましたが、代わりに点灯が始まっているせいで、高速道路の車の流れは実に鮮やかです。
その光の流れを挟んで、正面には黒々とした天王山がそびえ、右奥には京都市街の灯りが見えます。
そして傍らには紅葉。
また1つ、知らなかった魅力を発見することができました。
 




