第11話 宇治にて④ 駿河屋
高揚感が解けると、一気に空腹感が戻ってきました。
御朱印をいただけなかったのは致し方ありませんが、空腹は何とかしたいところです。
駅への道中、飲食店っぽい店をいくつか見かけますが、どこにでもありそうなおしゃれなお店ばかりです。ここまで我慢した(?)のに、特色のあるものを食べないのは、負けたような気がします。
駅の近辺まで行けば何かあるだろう。
こんな思いで歩きますが、行けども行けどもそれっぽい店が現れません。これは、一度、宇治橋を渡り直さないとダメか!?
京阪宇治駅が視界に捉えられるようになり、ちょっと諦めムードが漂い始めたとき、遂に一軒の茶店を発見しました!
『茶店』と書きましたが、正しくは『和菓子屋に喫茶スペースの付いたお店』です。
こういう菓子屋の直営店は、かなり期待がもてます。この時点では何の情報ももっていませんでしたが、自分の直感を信じて入ってしまいました。
店の隅の喫茶スペース座り、メニューを見ると、『茶団子』と、何かねっとりとした生地の上に、煮た小豆がびっしりと載った、『水無月』というお菓子が推しのようです。
宇治と言えばお茶。そんな中でも推してくるわけですから、茶団子は美味いに違いありません。
そして、『水無月』。京都市内の和菓子屋さんを春夏に訪れたときに見た記憶がうっすらとありますが、この段階では、まだ口にしたことはありませんでした。
これはどっちも試したいものです。よく見ると、水無月1つに団子1本のセットがあります。注文はこれに決定です。
店のお姉さんを呼んで、注文すると、「水無月は茶・白・ニッキがありますが、どれになさいますか?」と尋ねてきます。
「全部!」と言いたいところですが、未食の食べ物を大量に頼んで、口に合わずに苦行を味わうのは、精神がやられます。今回は、宇治に敬意を表して、茶を選択しました。
平日の2時過ぎですから、喫茶スペースの客は私以外に1組。注文の品はすぐに運ばれてきました。
まずは茶団子から。見た目のサイズは少々小ぶりですが……。
うん! モチモチして旨い! 粘り着く感じがしないのも、私にとっては好印象です。
とりあえず保険のために、食べるのは1個だけにして、正体不明の水無月へ取りかかります。
出てきた水無月は、抹茶が練り込まれた緑色の生地の上に、びっしりと小豆(粒あん?)が乗せられていました。生地の方はふるふるして見えます。
さっそく和菓子切りで、一口分を切り分けようとすると……!
予想以上に弾力があります。寒天か羊羹のような感触を予想していたのですが、これは明らかに違う素材です!
切ったものを口に運び……。
あ、これ、外郎だわ。
そうなんです。水無月は、外郎に小豆をのせて固めた和菓子だったんです。
ちなみに、水無月という名前の由来は、旧暦の6月1日に氷を食べることで、夏バテを予防するという風習から来ているそうです。そして、昔は氷が高級品だったため、庶民の口には入らなかった。だから、氷に似せて三角形に切ったお菓子を食べることで代用した。それが始まりということでした(※小豆は邪気払い)。
後で調べたところ、京都の和菓子屋さんでは、季節の風物詩的に販売されることが多いようですが、こちらのお店は通年販売しているようです。
それだけ自信があるんでしょう。
実際、空腹と言うことを割り引いても、かなり旨かったです。
この手のお菓子は日保ちしないことが多いので、お土産にはしないことにしているのですが、買って帰ろうか、かなり悩みました。
箱入りが『6個入り』~だったので踏みとどまりましたが、『4個入り』の箱があったら、きっと買ってしまったに違いありません。
なお、このお店は『駿河屋』さんといい、団子では宇治で一番と評する人もいるようです(※京阪百貨店でも取扱店舗があるらしい)。また、お土産としては『茶の葉もち』の評判も高いようで、今ネットのクチコミと、お菓子のスペックを見て、「買っておけばよかった!」と真剣に後悔しています。
次に宇治に行くことがあったら、平等院を見ずとも必ず駿河屋に立ち寄り、水無月の白とニッキを食べ、茶の葉もちを買って帰る!
私はそう決意しました。
 




