天国に一番近い場所
「今日で最後だね」
「うん」
ここは屋根裏部屋。
僕が小学生の頃、家族で借家としてここに引っ越してきた。
越して間もなく、僕は自分の部屋から繋がる屋根裏を発見した。
そこで遊んでた時に現れたのが、この幽霊の女の子だった。
僕と同年代の幽霊は、生前家族に虐待されていたという。
この部屋に閉じ込められ、何日も食事抜きだったこともあったようだ。
既に事件として家族は逮捕され、彼女も丁重に葬られたというが、地縛霊として屋根裏に縛られていた。
僕は暇さえあれば、彼女と遊んだり話をした。幽霊ということを除けば、普通の可愛い女の子だった。
世界を見ることなく亡くなった彼女に、社会情勢や流行などを教えたりした。
そして月日は流れ、幼い姿の彼女を追い越して、僕が青年となった時、この家の取り壊しが決まった。
借家のため、僕にはその決定を覆すことができなかった。
そして今日が最後の日。
僕は今までのように彼女と寄り添いながら、部屋の奥の暗闇をただぼんやりと眺めていた。
「ここが無くなったら、私どこに行っちゃうんだろう?」
「僕に取り憑けば一緒に引っ越せるんじゃないかな?」
「そうだねー 一生取り憑いちゃおうかな」
と、冗談ぽっく無邪気に笑って見せる。
でも、僕は本気だった。
できることなら、一緒に連れていきたかった。
「ありがとう」
「え?」
「私に2回目の人生を与えてくれて」
「……」
「天国って、あるのかな?」
「あるさ、きっと」
「どこに?」
「そりゃぁ、この上の、屋根よりも空よりも、もっと上の方にあるんだよ」
そうして2人して天井を見上げる。
僕は夜通し彼女と一緒にいた。
そして朝日が差し込むと同時に、彼女は
「ありがとう。またね」
そう言って光の中へと消えていった。
この時の失恋に似た喪失感は今でも忘れられない。
しばらくここまで通ってみたが、バリケードがはられ取り壊され更地となってしまった。
僕たちが過ごした場所は、何もない空間が浮いているだけで、彼女の姿はどこを探しても見つからなかった。
きっと天国に行ったのだろう。
僕は普通の生活をし、就職し、結婚もして、娘もできた。
そしてマイホームを建てるまでになった。
家族には内緒で自室の上に屋根裏部屋を作っておいた。
少年時代過ごしたあの空間を再現した部屋。
時おり屋根裏で思いに耽る。
この家で一番天国に近い場所。
ここなら彼女が近くにいるような、そんな気がして。
「君は今、天国で見てるのかな? 僕はなんとか生きてるよ」
お読みいただき、ありがとうございます。
もう一つのエンディングを置いておきます。
「お父さん?」
「ミヨ! どうしてここに?」
いつものように屋根裏にいると、隠し階段を登って幼い娘がやって来た。
薄暗い中、娘に駆け寄り抱きかかえる。
「どうやってここへ?」
「……なんとなく」
「危ないから、もう一人で来ないようにな」
「大丈夫だよ、なんども一人で来てるから」
「勝手に入ってたのか!?」
「ううん、今日がはじめて」
「??」
「はじめてだけど、前にも来たことがある……かも?」
「……そうか……そうなんだな」
天国は意外と近くに……
ここにあったみたいだな……