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シャフツベリの仕立て屋  作者: アサミズ
シャフツベリ候
9/21

 お客様が到着されました、と従者(ヴァレット)が告げて、フィデルは万年筆を置く。

「有難う。殿下とトラヴィス卿もお呼びして」

 畏まりました、と最敬礼して従者が立ち去ると、彼は席を立ち執務室を突っ切った。

 友人が突き付けた条件をアデライン殿下へ伝えたところ、彼女は当然のように「元より工房へ出向くつもりだった」と返信を寄越してきたのである。流石にそれは大騒ぎになるだろうと窘めて、フィデルは改めて若い二人を領城へ招待したのだ。

 社交期(シーズン)はまだ続いているが、そろそろ各々が郊外の荘園屋敷(マナー・ハウス)へ移動して、客人を接待する頃である。元々、いつか招待すると殿下とは約束していたのだし、丁度いいと思ったのだ。斯くして、若い二人は昨日オルグレンに到着し、今はのんびりしているはずである。

 滞在中に何とかなるだろうか、とシャノンへ打診したところ、ふざけんな、と半眼で吐き捨てて、大仰にため息を吐いたのだった。

 城内の仕立て部屋へ顔を出すと、早速シャノンが城就きの者たちと何やら相談している。彼の傍らには栗色の髪をした女中型自動人形サーヴァント・オートマタがいて、フィデルに気付くと会釈した。

「無理を言って済まないな、シャナ」

「全くだよ!」

 遠慮もせずに吐き捨てるシャノンを、テーラーたちは愉し気に眺める。今回は彼らの手も借りることになっていて、トラヴィス卿の衣装は殆ど任せるらしい。フィデル専属テーラーは伎倆がいいから、と言われて、彼らも悪い気はしなかったようだ。

「取り敢えず、今日は採寸と図案起こして、型紙までは引いていきます。仮縫いまでは丸投げさせてもらいますが」

「きっちりやるさ、任せてくれ。それよりも、ドレスが手伝えなくて悪いな」

 全く門外漢でね、と肩を竦める親方に、シャノンは笑ってかぶりを振った。

「いえ、礼服だけでも引き受けてくださって助かりました」

 礼儀正しく口調を改めるシャノンは、落ち着いて育ちの良さを感じさせる。元々、生まれはいいのだ。社交界(ソサエティ)への出入りを許されるような、裕福な中産階級の家々が顧客についたというのも、彼の立ち居の美しさもあるのだろう。

 アデライン殿下とトラヴィス卿をお連れしました、と従者の声がして、テーラーたちが畏まった。そんな中で特に気負った様子もなく、シャノンが振り返る。

 そうして姿を見せたのは、美しいブルネットの髪と鳶色の瞳をした、将来の賢王だ。まだ年若く愛らしい彼女の姿に、テーラーたちの間から、ため息めいたものが零れる。

 彼女とは対照的な小麦色の髪をした婚約者に寄り添い、ひょっこりと顔を覗かせたアデライン殿下は、シャノンへ目を留めると迷わず前へ進み出た。

「あなたがオクロウリー氏ね? 無理を言ってごめんなさい」

「おや、殿下。良く解りましたね?」

 笑みを含んだフィデルの言葉に、彼女は「解るわよ」と明るく笑う。

「だって、ウエストコートがとても素敵だもの。ね、クレム。素敵でしょう?」

「そうだね、アリーナが好きそうな雰囲気だ。私に似合うといいんだけど」

「絶対似合うわ! 去年作品を拝見した時、あなたに着てもらいたいと思ったの」

 でも流石に殿方に詰め寄って確認なんて出来なかったんだもの、と軽く眉根を寄せる彼女に、テーラーたちは僅かに肩を震わせている。シャノンも苦笑を浮かべて、奇麗な所作で最敬礼してみせた。

「お目に留めていただいて光栄です、殿下。それでは、早速採寸から始めましょう。アマリア」

 振り向くシャノンの声に、自動人形(オートマタ)が優雅にスカートを摘む。

「殿下の採寸は、彼女に任せようと思います。シャフツベリ卿の女官たちにも介助してもらいますが……」

「まぁ、自動人形? 奇麗ね、わたくし初めて見ました」

「私の仕事を手伝ってくれる、優秀な女中(サーヴァント)です。彼女は言葉を話せませんので、筆談の無礼をお許しください」

「構いません。宜しくお願いしますね」

 自動人形に伴われて別室へ退出するのを見送って、トラヴィス卿は感心した風情で口を開いた。

「本当に、シャフツベリは技術の発展が目覚ましいですね。何故、自動人形を導入されたんですか?」

「縁あって淑女方(レディ)のドレスも任せていただけるようになりましたが、私が採寸を担当するといろいろと問題が」

 あぁなるほど、と苦笑したトラヴィス卿の横で、フィデルが軽く眉を持ち上げる。

「しかし、シャナ。おまえは某国でドレスメーカーをしてたんだろう。その時はどうしてたんだ」

「……古式ゆかしい王室では、あまり気にされない方も多いので」

「ほう。見放題だな?」

 ぶふッと誰かが吹いた。ああもう、と盛大に顔をしかめたシャノンは、勢い良くフィデルを振り返る。そうして、低い声で吐き捨てた。

「フィデル、煩い。黙れ」

「その辺りの話は聞かせてくれたことがないだろう。どうなのかと思って」

「ほほう、聞きたいのか。コルセットの中にガンガン詰物して盛ったうえに寄せてあげて涙ぐましい努力をしているその裏側を知りたいのか。はっきり言うが俺は冷めた」

 やっぱりそうなのか、と真顔で尋ねると、シャノンは半眼できっぱり答える。

「大体、何のためにコルセットやクリノリンやバッスルが発達したと思っているんだ。足りないから盛ってみたら際限なくなった結果だぞ、あれ」

「オクロウリーさん、仕事仕事」

 若いテーラーがこそりと囁きかけて、シャノンははたと口を噤んだ。そうして、トラヴィス卿へ頭を下げる。

「失礼致しました」

 いいえ、と可笑し気に笑う彼は、仲が良いんですね、とフィデルへ視線を向けた。

「ご友人だと伺っていましたが、忌憚のないやり取りができるのは羨ましいです」

「それだけ、付き合いも長いんですよ。さて、あまりお引き止めしても、シャナに怒られてしまう」

 こちらへ、とテーラーに誘われて、トラヴィス卿は頷いて踵を返した。その後に続きかけて、シャノンは行き掛けの駄賃にフィデルの背を叩いていく。

 遊び過ぎたか、と内心苦笑していると、従者が見透かしたようにため息を落とした。

「戯れが過ぎますと、愛想をつかされてしまいますよ」

「それは困るな、気をつけるよ。採寸が終わったら打ち合わせに移るだろうから、クリームティでも手配してくれないか」

 畏まりました、と従者が退出して行くと、フィデルは作業台の上に積まれた生地見本帳を興味深気に見下ろす。何気なく捲ってみれば、様々な色柄と材質の生地が、たくさん集められていた。

「これは、シャナが持ち込んだものかな?」

「はい。うちにも在庫を積んでますから、そちらから選んでいただいても宜しいかと。殿からの贈物という体なのでしょう?」

 その方が角が立たないだろう、と言ったのはシャノンで、どうやらフィデルに泥を被れということらしい。職人は機嫌を損ねると怖いぞ、と有難い一言をいただいた辺り、数々の修羅場を潜ってきたことが窺われた。

「それにしても、他所は怖いな。うちはそうでもなくて幸いだよ」

「それは、殿のお人柄でしょう。要望もすぐに検討してくださいますしね?」

「これで、もう少し融通が利くと嬉しいんだが」

「御冗談を。家令(スチュワード)様から外遊びの片棒を担ぐなと言い渡されておりますので。その代わり、外でお作りになる分には目を瞑っているでしょう」

 しれっと告げられて、フィデルは肩を竦めてみせる。どうやら、彼が思っていた以上に城内の者たちは彼に甘かったらしい。

「それは済まなかった。おまえたちに実害が行かないよう気をつけるよ」

「そこは信頼致しておりますよ、殿。今回の仕事は、若い者にもよい刺激となるでしょう」

 彼は良い職人ですね、と親方は目を細める。

「仕事がとても丁寧だ。基礎がきちんとしているのも解ります。あの自動人形の衣装も素晴らしかった。女官たちが羨んでおりましたよ」

「それは困ったな。あれは宣伝用の特別製らしいから」

「あれだけの職人が在野に埋もれているというのは、なんとも勿体無いことですな」

 暫くはのんびりしたいんだそうだ、と苦笑混じりに応じると、よほど大変だったんでしょうなぁ、と親方も苦笑した。

 そうしている間に、先にトラヴィス卿が戻ってくる。そうして、工房内を見回した。

「私の方が早かったのかな」

「女性は支度が大変ですからね」

 こちらへやってきたシャノンが相槌を打ち、手にした帳面を親方へ差し出す。無言で受け取った彼は、ふむ、と思案げに唸った。

「思ったよりもすらりとしておられる」

「堂々と見せたいんでしょうね。だったら、我々は敢えて細身に仕立ててみましょうか」

「殿下と並ばれた時に、目に優しく映る方が良いでしょうなぁ」

「多分、トラヴィス卿はあまり華やかなのはお好きじゃないと思うんです」

 こういう感じの、とシャノンは自分のウエストコートの襟を摘む。

 そうなのか、と内心訝りつつ、フィデルがちらりとトラヴィス卿を見遣ると、果たして彼は苦笑を浮かべていた。

「但し、殿下はこういうのが好みなんですよね。んん、どちらにも楽しんで袖を通してもらいたいから……」

「それじゃぁ、全体の線の出し方や、目につきやすいカフスに、おまえさんらしさを盛り込んでみるかい?」

「あぁ、それ以外は端整にまとめて? いいですね、それならカフスの作りを殿下と対にしてみましょうか」

 言いながら、シャノンは鉛筆と紙を手許へ引き寄せ素描を始める。親方と話しながら数枚描き散らすさまを、若いテーラーたちは興味深気に覗き込んだ。そのまま彼らともやり取りし、ざかざかと斜めに線を引いた数枚を放り出す。そうして、トラヴィス卿を振り向いた。

「トラヴィス卿、見ていただけますか」

 はい、と進み出た彼に場所を譲って、放り出された数枚を手に取る。

「これは、どうして駄目なんだ?」

 良い図案なのに、と首を傾げると、親方が苦笑した。

「私がやるなら問題はありませんよ。ただ、今回は若いのに触れさせたいんですよ。そうなると、ちょいと難しいので」

 ここらに技術がいりますね、と数カ所示されたが、フィデルにはいまいち解らない。そこが、職人とそうでない者の差なのだろう。

「仕立てというのは、大変なんだな」

 結局そう言うしかない彼に、親方は大らかに笑った。

「致命的に不器用でない限り、真面目に修練を続けていれば身につくものですよ。私らにしてみれば、殿が毎日采配していらっしゃるあれこれの方が、さっぱりですな」

 そういうものか、と相槌を打ってシャノンの方へ視線を向けると、トラヴィス卿に複数の図案を選ばせ、要望を聞いている。親方が言うには、あれらを前提にアデライン殿下の図案を作るらしい。トラヴィス卿の表情の明るさを見るに、どうやら好みに添うもののようだ。

 そうしている間に、アデライン殿下を伴って自動人形が戻ってくる。彼女に差し出された帳面を受け取り一瞥したシャノンは、意外そうに目を瞬かせた。

「あれ。素の採寸もしたの?」

「ごめんなさい、わたくしがお願いしたの。それで遅くなってしまったわ」

 小さく肩を竦めて嘴を挟んだ彼女は、こそりとシャノンに囁きかける。

「女官たちとお喋りしていて、彼女たちの下着について教えてもらったの。無理を言って見せてもらったのだけど、あれをわたくしにも作っていただける?」

「あー……、ロングコルセットでなくても平気なんですか?」

「だって、とても楽そうだったんだもの。わたくしはあまり絞めていないのだけど、彼女たちの方が活動的よね?」

 うむむ、と眉間にしわを寄せて腕を組んだシャノンは、暫く唸っていたものの、ふと顔をあげてフィデルを振り返った。そうして、びしりと指を突き付ける。

「いいか、フィデル。これから言うことはおまえの発案だ。きちんと頭の中に叩き込め」

「いいよ、言ってごらん」

「我がシャフツベリは特に技術の発展が目覚ましく、その中心たる領都オルグレンでは女性の社会進出も進んでいる。将来の女王陛下にも、その彼女らの機能的で活動をさまたげない衣装を体験していただけたらと思い、一式用意させていただいた。トラヴィス卿と揃いの散歩着に仕立てさせたので、お二方に受け取っていただけたら幸いである」

 了解した、と軽く答えると、アデライン殿下が目を丸くした。

「まぁ! そんな。フィデル卿にご迷惑……」

「構いませんよ、元よりそのつもりでしたから」

「それなら、コルセット不要の衣装に変更しましょう。コルセットが苦手な友人のために、幾つか考えていた案が丁度……」

 ばさ、と紙の束を引き寄せて、アデライン殿下へちらりと視線を向ける。

「殿下は、どういった衣装がお好みですか? 襟の形、袖の形、スカートの形。何でも仰ってください」

 そうね、と小首を傾げて挙げられていくそれらを、ざかざか図案に描き始める。手早く描き上げたそれを横に避けて、シャノンは全く別の形の図案を描き始めた。次々と描かれるそれらを覗き込んだテーラーたちが目を丸くしたところを見ると、どうやらとんでもない代物らしい。こそりと親方に確認すると、果たして彼は感心した風情で頷いた。

「恐ろしく手が込んでますな。素晴らしい仕事を目の当たりに出来そうです。殿には感謝しなくては」

 そうしている間に様々に特長が違う数点を描き上げたシャノンは、それらとトラヴィス卿用の図案を並べて、アデライン殿下へ示した。

「お二人で並んだ時を想定してお答えください。どれがお好みですか?」

 ふとトラヴィス卿を見上げたアデライン殿下に、彼は笑って頷く。

「私の方は、それで詰められているんだよ。あとはアリーナとの釣り合いで決めようという話になっていて」

「そうなの? そうねぇ、どれも素敵で迷ってしまうわ。良く着るのはこういう形だけど、こちらもとても好きだし……」

 あれこれ手に取って悩む間に、戻ってきた従者が支度が整ったとフィデルへ囁きかける。この後は布地を選ぶだろうし、ここから移動しない方が良さそうだ。きっとこのまま、シャノンは仕事に移るだろう。打ち合わせが終わった後、殿下たちを案内するべきか。

 済まないが、とその旨を伝えると、卒のない従者は一礼して踵を返した。

 二人で話し合いながら選ばれたそれぞれの図案を一瞥したシャノンは、そこへ更に手を加える。親方が解説してくれることによれば、それぞれの釣り合いを見て細部を直しているらしい。

 そうして出来上った図案を差し出して、これで宜しいですか、と尋ねる。横から覗き込んでみると、トラヴィス卿の衣装は細身ですっきりとした印象、アデライン殿下の衣装は華やかさもあるが全体に慎ましく纏まっている。笑顔で頷く彼らの前に、シャノンは生地見本帳を積み上げた。

「それでは、生地も選びましょうか。お好みの色はなんでしょう?」

 彼らの要望に応じてお薦めの生地を示し、手触りを確認させながら選んでしまうと、お疲れ様でした、と解放を宣言された。

 楽しみにしてます、と会釈する二人をお茶に誘い、彼らを伴って仕立て室を後にする。

 扉のところで一度立ち止まり、任せたよ、と手を振ると、シャノンは振り返りもせずに手を振り返した。

 二人を案内してやってきた談話室(サロン)には、すっかりお茶の用意が整っており、女官が静かに給仕してくれる。クリームをたっぷり付けたスコーンを嬉しそうに頬張ったアデライン殿下は、興味津々といった様子で身を乗り出した。

「ねぇ、フィデル卿。オクロウリーさんって、元々武門の方かしら?」

 そう見えますか? と首を傾げると、彼女は生真面目な表情で大いに頷いてみせる。

「自然に立っているようだけど、近衛長と雰囲気が良く似ているわ。それに、とても静か。余分な物音をさせないの」

 彼女の言に、少し驚いたようにトラヴィス卿が目を瞠った。どうやら、彼は気付かなかったらしい。

 アデライン殿下の慧眼に苦笑を浮かべ、フィデルは「内緒ですよ」と頷いた。

「生家はそうだと聞いています。ですが、彼には聞かないでやってください」

「事情がおありなのね? わたくしとしては、こうして仕立て屋になってくださって、嬉しい限りよ」

 愉し気に笑う彼女は、ふと表情を冴えさせた。

「それよりも、何か問題があったそうね?」

「何のことでしょう?」

「ブラックドックが工業地に出たと聞いたわ。それを手引きしたかもしれない者がいるらしいことも」

 件の話は、まだ宰相にしか話していない。フィデル自身も報せを受けてすぐにオルグレンへ戻ってきたし、暫く様子を見ると伝えて、情報は宰相個人のところで止めてもらっているはずだが。

「全く、宰相殿は殿下に対して口が軽い」

 苦笑混じりに零すと、アデライン殿下は軽く口を尖らせた。

「わたくしがオルグレンへ行くと言うから、心配して教えてくれたのよ。くれぐれも城を脱出して遊びに行かないようにって」

 思わず吹き出した男たちに軽く眉を持ち上げてみせて、アデライン殿下は憂鬱そうにため息をついた。

「楽しみにしていたのよ? オルグレンは、蒸気機関がとても発達していると聞いていたから」

「工業地帯も見学したかったね?」

「ね? いろいろ見たかったわ。勿論、フィデル卿の心遣いで快適に過ごせているけど、街並もとても奇麗だから、出歩けないのは残念」

 有難うございます、とにこりと笑って、フィデルはしれっと付け加える。

「また、騒動が収まった頃にお出でになればいいんですよ」

「ご招待してくださる?」

「新婚旅行先に選んでくださっても構いませんよ。大歓迎致します」

 まぁ、とアデライン殿下がほんのりと頬を染め、トラヴィス卿も少しだけはにかんだ様子で笑う。若い二人は、見ているこちらが微笑ましくなるくらいに初々しい。

「その際は、郊外の田園風景もご覧ください。産業が偏ってしまうと、あまり良くありませんから」

 曾て、機械産業へ比重が偏った時期が、シャフツベリにもある。その結果に訪れたのは、粗悪な飲食物の流通と、慢性的な栄養不足や中毒による平均寿命の低下だ。

 古い時代では貧富の差なく食べられた肉類の高騰、より利益を上げるため溢れる、混ぜ物の多い穀物や茶、牛乳等。中には健康被害を与える物も、平気で混ぜられていた。そうなれば、質の良い品が次々に姿を消していく悪循環がやってくる。

 大規模な農業改革を行い、双方が巧く技術交流できるよう整えた末、ヒトビトの生活水準が向上し落ち着いてきたのは、この十数年のことだ。

 そんな年寄りの話を真剣な眼差しで聞く若い二人を前にして、フィデルはこれからのウェルテの安寧を確信したのである。

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