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ロマンスファンタジーノベルを書こう

 配達人登録所の壁に地図があった。雪原や雪山、氷河などが描かれた絵地図だ。村や町を表す点がいくつかある。そこを訪れたら新たな点が表示されるシステムに違いない。ここ氷ドームの集落は、赤い点で示された、アイスドーム集落と書かれている所っぽい。



「配達は徒歩でも大丈夫ですか」


 受付のお姉さんに聞いてみる。


「出来なくはないです」

「徒歩で運べる大きさの物もあるんですね?」

「稀ですがあります」

「配達先でいちばん近いのはどこですか」

「その時出ている依頼によります」

「この集落内への配達はありますか」

「それはありません」


 ないのか。配達バイトは必ず別の場所へ行く。近場だと移動にどのくらいかかるのかな。壁に張ってあるのは絵地図なので、距離がわからない。お姉さんに聞いてみよう。


「となりの集落まではどのくらいで行かれますか」

「平均的大人の場合、徒歩で3日です」

「雪原でのキャンプ用品は買えますか?」

「物品販売は行っておりません」

「どこで買えますか?」

「この集落では販売しておりません」

「ありがとうございました」

「いいえ。登録お待ちしております」


 事実上徒歩での配達は不可能だと分かった。諦めてコツコツ資金を貯める。数日後、ソリレースで稼いだお金で犬橇を借りる。配達人の登録もした。依頼を受けたり報酬を貰ったりするのは別の建物だった。



 今のところ移動手段は徒歩と犬橇だけ。犬橇は購入もできる。かなり高額なのでまだまだ無理だったが。情報購入はとりあえずいいかな。配達人のバイトであちこち行ってみよう。そうやってのんびり過ごしながら、私は恋愛ファンタジー小説の手がかりを探す。


 ロノック世界の犬橇は徒歩の5倍程度の速さである。ソリの駐車場は今のところどの集落も無料で、集落の外れにあった。犬は外に放置するわけにはいかないので、犬橇屋に一旦預けにゆく。預ける料金はレンタル代に含まれていた。

 親切仕様の料金体系と、意識を現実に戻す方法でキャンプ用品要らずの行動方針を取れる点が、初心者に優しい。このお陰で順調な滑り出しである。



 3日目に到着した町クリフには商店街があった。商店街には犬橇屋もある。氷ドーム集落のソリレース屋は氷雪地域全域で展開している犬橇チェーンだとわかった。レンタル終了手続きもここで出来る。いわゆる乗り捨てシステムだ。大変便利である。


 商店街を見て回る。鞄屋でリュックサックを買い、そのあと文房具屋で紙とペンとインクを購入した。紙とインクは数種類あり、しかも量り売りという芸の細かさ。一度に買うと重いので、必要量のみ買う。


 予想はしていたが、紙はまとめ買いで紙束になった。ペンは数種類あるが、最初の本に出ていた羽ペンはとても高い。お財布と睨めっこしていると、文房具店主が話しかけてきた。この人はプレイヤーである。商店街には貸店舗があったらしい。ただし、現在テナントを募集しているスペースは残念ながらない。



 文房具屋は魔法族のおじさんだ。


「作家目指してるの?」

「はい。羽ペンが必要みたいで」

「魔法種の鳥が落とす白い羽があれば、クラフト教室でも作れるらしいよ」


 クラフト教室も商店街にある。


「うちは職人系のプレイヤーさんから仕入れてるけど、品質問わず一本でいいならクラフト教室でもいいんじゃないの」


 職人系に進まなくてもゲーム内での工作を楽しめるみたい。現実でも一回体験の工作会ってたくさんあるよね。楽しそう。



「その鳥はどこにいますか?」

「氷の森にいるけど、その格好じゃ難しいよ」

「寒いですか」

「寒いっていうか、狩り場だからさ」

「ああ、装備」



 落とすというのは、ゲーム的な意味である。普通に抜け落ちるわけではない。魔法種の鳥は狩の対象で、倒すと白い羽をドロップするということか。デモ映像でモンスターと戦うシーンがあったけど、あまり気にしていなかった。


「素材集めは今の装備や習得魔法では自殺行為だなあ。仕方ない、買います」


 狩りだの宝探しだのは、ロマンスファンタジーノベルを1作品完成させてからでいいや。羽ペンをここで購入すると残高が一桁になるが、また配達人バイトでコツコツ貯めればよい。犬橇が走行可能な地域は野生動物やモンスターは出ない。世界など無視してローカルライフを楽しむこともできる。

 たぶんそれだけでは用意されたロマンスファンタジーノベルは、多くても2、3種類しか完成させられないとは思うが。



 文房具店の買い物で、紙束と羽ペン、そしてインクが手に入る。その後、商店街の本屋で紫色の本を見つける。文房具屋まで行く前に一回本屋には寄った。だがその時はなかった本だ。つまり何かのフラグが立ったのであろう。期待できそう。


 棚から紫色の本を取り出して読む。


「物語の魔法を覚えるには、紙束、羽ペン、インクを持っていることが条件。その状態で要素イベントをひとつでも体験していれば物語を紡ぐことができる」


 多少抽象的だが、だいたいわかった。本屋を出て、転職可能な職業欄を調べると趣味作家という職種が生えていた。要素イベントとやらが何だったのかはまだ不明である。


 特定の施設を探さなくてもすぐに転職できるのがこのゲームの良いところ。冒険はおまけ要素なので、不要なストレスは要らない。さっさと趣味作家になる。



 本屋のNPCが話しかけてきた。趣味作家への職業変更がクエストのフラグだったらしい。


「お客さん、物語魔法を覚えたんですか」


 なかなかに不自然な発言だ。お客さんが手にした本を元に、聞かれもしないのにオススメしようと販促をしかけてくる。現実ではかなり不快な接客だ。しかしゲームなのでスルーする。対応しないと先へ進めないから。


「はい」

「そしたら早速書いてみると良いですよ!」


 本屋から青い本を貰う。渡されると、本屋は離れていった。くれるの?念のためレジへ行く。


「これは当店の商品ではありません」


 と断られた。くれたらしい。特に対価もなく、指南書を手に入れた。少し薄気味悪いが、仮想空間なのでよしとする。自らを納得させてから、青い本を開く。



「ロマンスファンタジーノベルを書こう1」


 クエスト開始だ。メインストーリーのチュートリアルっぽい。職業固有イベント欄が活性化する。いままでは無職(犬橇バイトは職業ではなかった)だったので、欄はあっても開けなかったのだ。


 一覧の中から「要素を選ぶ」を展開すると、項目が出てきた。クエストとは関係なく体験した要素が、随時追加表記されるらしい。幼児を模したガイダンス音声がそう告げた。

 ガイド妖精的なマスコットはいない。あるいはプレイヤーのレベルが上がると姿が見えるようになるのかも知れないが。今後の楽しみのため、あえて調べないことにした。



 さて、要素が表示される項目は全部で九つ。先ずはメインキャラクターだ。これが決まらなければ話にならぬ。



 主人公

 お相手

 ライバル



 この三項目には共通して、本屋、文房具屋、魔法使いという選択肢が表示されている。商店街をあちこち覗いて回れば選択肢も増えるかな?まだ選ばないでおく。


 主人公と相手役の性別及び年齢は選べる。それぞれ不明、秘密、なし、という選択肢もあった。年齢なし?不明とは違うのだろうか。フェニックス的な自ら生まれ変わるタイプのことかな?


 種族はこのゲームに実装されているものなら選べるようだ。主役ふたりは人間にする予定だが、ひとまず保留である。項目の脇にある枠内に見た目イラストが表示されていた。アバターの初期値と同じ中性的な人間だった。


 ライバルは要するに当て馬要員のこと。主人公が取り合われてもいいし、ヒーローを取り合う話も作れる。人数も性別も選べるし、いなくてもよい。


 最初は複雑にすると面倒だから、なしでいいや。テキストアドベンチャー時代には、メインキャラクターに当たるこの三名を選ばなくても、他の項目は入力できた。しかし今回のリメイク版では違うようだ。



 どちらが先に好きになる?

 告白の瞬間

 恋人イベント

 結婚するの?

 子供は?

 メインストーリーの流れ


 これらはまだ文字色が薄く、選択肢を見ることができなかった。とりあえずは商店街をもう少しうろついてみよう。片っ端からお店に入り、読めそうな本は全て開いてみる予定だ。



お読みくださりありがとうございます

続きもよろしくお願いします

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