ロノック
1話3000字前後×5話
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私が今暮らしているのは、「ロマンスファンタジーノベルを書こう」通称「RNoK」という職業系タスク達成型女性向けゲームだ。(Romantic Fantasy Novel wo Kakou)
これは学生時代に隅々までやり込んだお気に入りのゲームである。もう50年も前の話だ。先程ネットでリメイク版を見つけた時は、懐かしさに思わず声が出た。
「うそっ!VRリメイク?住めんの?住む!」
あのゲームの背景はとても凝っていた。私は絵に詳しくないのだが、当時とても話題になった。あのゲームで評価されたのはそこだけなんだけど。
プレイヤーは作家となってミッションをこなしてゆく。ジャンルや主人公たちを選びながら最後に完成した物語のムービーを観て終わる。
「え、でもどういう演出になるんだろ?」
元のテキストアドベンチャーでは、プレイヤーは「作家」でパーツを選んでストーリーを作る。自キャラを動かすタイプではない。しかし体験型となると、アバターも必要だし、職業固定は人気なさそう。
どうなるんだろう。衛星経由ゲームはあんまりやらないから想像が難しい。ネットに繋いで世界の人とも遊べるMMOタイプのゲームがオンラインゲームと呼ばれていた時代ですら殆ど経験がない。
とりあえず、文字コミュニケーションツールで孫に報告。
「これやってみる!」
暇だったらしく、孫からはすぐに返事が来た。
「なに」
「昔やったゲームのリメイク」
「どんな」
「作家になるの」
「は」
やはり理解不能なようだ。
「おやすみー」
通信を終了された。しかたない。
「おやすみ」
説明を見てもよくわからない。
※作品紹介※
ロマンスファンタジーノベル作家になってお好みの物語を作れる!
終わりか?
ページをじっくり観ても、開ける解説やあらすじのリンクはない。
美麗なグラフィックの広告動画が目を惹く。わざと二次元風に作られている町や山里を自キャラが歩いている。
なんだ、種族と初期職業を選べるのか。育て方次第で作家にならない場合もあるんだな。一般人てのまである。乙女のVR(全年齢)だから、着飾ったりお茶したりだけするのもありだ。読者にすらならない選択もあるということだ。
これは、元の恋愛小説作成ゲームとは別物だね。生活ゲームだ。それはそれでよい。説明だけ見れば作家ゲーム詐欺だけど。
軽く検索してみると、メインのストーリーは一応あることがわかる。仕事の依頼を探して正しい順番でこなし、それに合わせて正しい順番で転職してゆく。
正しい順番で必要なアイテムを集めて、クエスト報酬も勿論受け取ってゆくと、ロマンスノベルが完成する。チェーンクエストの合間に取った行動で完成作品ムービーの内容は多少変わる。
これは挑戦回数無制限のクエストなので、いろんなサブジャンルの恋愛小説が完成するのだ。大まかに現実世界と空想世界という2つの舞台に別れている。細分類のうち現在発見されているのは、
○学園
○宮廷
○冒険
○復讐
○溺愛
○多夫
○同性
○男化
○転生
○国盗
くにとり?ムービーは5分程度らしいが、大河ドラマまであるのか。ちょっと楽しみ。正規サービスが始まって最近1周年を迎えたという。まだまだいろんなサブジャンルが隠されており、更に追加されるとも言われている。
私は参入が1年も遅れてるけど、攻略手順は見ずにとりあえずは思うままやってみよう。ダウンロードして、いざスタート。デバイスは最先端の腕時計型。
全身カプセルは既に過去の遺物だ。今やタイピン型や指輪型などの小型デバイスも開発中と聞く。街中で誰にもバレずに遊べる仕様だ。素晴らしい。
カプセル型は機械の不具合で閉じ込められたり、心臓発作やエコノミー症候群、床ずれなどの事故が発生し社会問題になったのが思い出される。
その点腕時計型は、起動すると周囲に仮想世界が展開するが本人は実際に身体を動かす。脳内だけの体験ではないのだ。むしろ退化したと批判もされた。
しかし動きくたない人は脳内限定モードにすれば寝たままでも可能だし、二重生活モードならログアウトしないでも現実生活ができる。
慣れてくると仕事をしながらでもできてしまう。もちろん多くの会社では職務規定違反なので、実際にやる人は少ないが。
自家用車をオートドライブにしてゲームはカウチモードを使い、移動中にゆったりと遊ぶ人はいる。オートドライブの事故率がほぼ0である現代、これは合法行為なのだ。つくづく良い時代になったものだ。
私はとっくに退職して悠々自適の老後満喫勢である。ダブルタスクモードで友達とお茶したり、買い物に行ったりしながら常時接続で楽しむ。
当然完全防水完全劣化防止加工なので温泉やプールにも出かけられる。
さて、タイトル画面が表示された。昔のロゴを少しだけいじって完全に今風なデザインとして甦らせたようだ。懐かしさと可愛さに期待が高まる。
周囲にはデモ動画と少しだけ違う二次元風の森が広がる。それから草原や山奥、空に海に町が目まぐるしく展開され、風景がぐるりと回転した。
その間揺れたり回ったりしながらタイトルロゴが表示されている。色も変化してゆく。
「RNoK」
最後にタイトルが固定して、薄れて消える。森の中に別の文字が現れた。操作方法の選択画面だ。脳内命令だけ、音声入力、身体入力、デバイス接触入力、仮想操作盤入力。操作方法は途中でいつでも切り替えられる。
ダブルタスク勢は脳内命令が標準的である。だがずっと脳内だけではつまらないので、時々切り替えて楽しむことにしよう。
コーヒーを点てながら初期設定をこなす。ユーザー登録は、ダウンロード時に初回接続時自動エントリーを選んでおいたので今は必要がない。このゲームの配布元のユーザー情報がそのまま適用されるので楽なのだ。
プレゼントだったり、必須ではない項目を省いたりしたい場合には、初期設定時にマニュアル登録を行うことも可能である。
そんなこんなで、キャラメイク。名前と生年月日を適当に決める。見た目のデフォルトは20代の人間だ。最初は汎用型の中性的外見をしている。
「性別、女性」
「年代、うーん、若いのもいいけど70代でいいか」
「種族、えーと、神族?神話系の壮大な話が観られるかなあ。鬼族は戦記ものに有利かな?それにしても全部和風の種族名だね。森族はエルフか」
謎の日本語縛りは気にせず、表示される見た目で選ぶ。一応は種族特性も考慮した。賢さが高い魔法族である。スタート地点が種族ごとに違う。魔法族は、極寒の地域にある氷の塔というところから始まるようだ。
身長やら身体パーツの色やらを決める。デフォルトだと肌は緑で皺が多い。髪は水色のストレートロング。目は金。細身で小柄、爪が長い。
鉤鼻とやや曲がった背中も含めて、古い御伽噺に出てくる魔女の挿絵を思わせる。気に入ったのでそのまま使う。爪色も選べた。デフォルトは紫。なんとなくオレンジに変えてみた。
初期職業は無職。
ではでは。
設定をもろもろ確定すると、特にデモ動画もなく塔の中らしき狭い部屋に立たされた。就職活動のために田舎から塔まで来たのか?キャラ来歴の説明はない。生活ゲームなんだから、いざ新生活的な、なんかしらオープニングムービー的なものがあってもいいのになあ。
お読みくださりありがとうございます
続きもよろしくお願いします
※「考える」描写でもOKと概要にあったので、「知略企画」参加させていただきます!陰謀とか策略バトルはないです。すみません。