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雨が降ってないのに頬を水が伝うこともあればフラグもないのに出会いが起こることもある

作者のるーきーです。まずは、開いて下さりありがとうございます!とりあえず1章分、30000文字程度ですが書いているのでそれを毎日投稿していきたいと思っています。お付き合いください。

「なぁ、(えにし)。そこにおるか···?」


じいちゃんは僕の存在を確かめるようにそう尋ねる。僕はそれに答える。


「うん、いるよ!」

「そうか。今からお前に大事なことを言う、よく聞けよ。」

「え?」

「大切なもんを見失うなよ。」

「···どういうこと?」

「人というのはな一時の感情に流され、自分の大事なものを見失うことが往々にしてある。そして、後からそのことを悔やむ。お前はそうはなるなよ。」


どこか自分に言い聞かすようにも感じるその言葉を僕は聴き逃してはいけない気がした。


「だがなぁ、困ったことにお前は考えすぎるきらいがある。もし、考えすぎてどうすべきかわからなくなった時は一つだけ自分に問いかけろ。最も大事な質問を一つだけだ。その答えによってどうすべきか考えろ。」

「う、うん。分かったよ。」

「死にかけのじじいが残した最後のお節介だ。忘れるなよ?」

「···じいちゃん?」


少しずつ声に張りがなくなり、弱々しくなっていくのを見てられず声を上げる。


「お前の成長が見られんかったのは心残りだが、そう悪い死に様じゃあないことだけが救いだ。こうして、可愛い孫に看取られるんだからな。」

「じいちゃんっ!じいちゃんがして欲しいこと何でもするし、言うことも何でも聞くから···!だから、どこにもいかないで···。」

「はは、お前は本当に甘えん坊だな···。だが、死というのは生物にとって付きまとうものだからしょうがない。···お前は俺より長生きしろよ、縁。」

「じい···ちゃん···。」


最後の力を振り絞りニコリと笑うとじいちゃんはそれっきり動かなくなった。



中学一年生の時に、両親が亡くなった。結婚記念日に二人で出かけていたその帰りの事故で、原因は今も分かっていない。


その後、ばあちゃんを亡くし一人で暮らすじいちゃんに引き取られた僕はじいちゃんと二人で暮らすようになった。じいちゃんは物知りでよく僕が知らないようなことも教えてくれた。そんなじいちゃんと暮らすうちに両親を失った悲しみは少しずつ和らいでいった。


その矢先、じいちゃんが倒れた。癌らしい。


既に手遅れの状態でそれからじいちゃんは病院で寝たきりだった。そんな中でも僕を悲しませまいと痛みや苦しみを顔には出さずに振舞っていたじいちゃんを見て余計に胸が痛んだ。本当なら顔が歪むほど痛いはずなのに、僕がいるせいでじいちゃんは我慢を強いられる。それを見て僕が悲しむと思ってるから。


僕はその事に気づいていながら気付かないふりをした。じいちゃんは元気なのだと、それは気のせいだと思い込まないと耐えられなかったから。


しかし、別れはすぐにやってきた。


中学三年生になったばかりの頃、じいちゃんの容態が悪化して学校を休むことが多くなった。そんな日々が二週間経つと、じいちゃんがこれまで以上に容態を崩し、医者からこれが最後だから話をしてきなさいと言われた。


そのまま、最後に少しの弱みを見せたじいちゃんは静かに息を引き取った。目の前が真っ暗になり、これからどうしたらいいのか分からない。今はただ、一人になった寂しさを胸に抱いて周りに促されるままじいちゃんの骨を拾った。


「これから先、どうしたらいいのかな。」


葬儀場からの帰り道何度目かになる呟きを通り越し、帰路を進む。どこか親戚の家にお世話になるか、あのままじいちゃんの家に住むか。後者の場合は近くにいる親戚がたまに様子を見に来てくれるらしい。でも、今の僕にとってじいちゃんのいないあの家は広すぎる。


そう考えただけで溢れ出る涙は僅かに降る雨とともに地面へとこぼれ落ちる。


結局何も決められずに重い足を動かしていると、つい目の端に映った路地が気になった。まるで、何かに導かれるように目線をそちらに向ける。


(あれは、ビニール袋?)


地面に広がる白っぽい物体を見て形からそう予想する。じいちゃんが亡くなったばかりだからかそこにじいちゃんの霊がいるのではなんて馬鹿げたことを考えてしまった。


「そんなことあるわけないのにな···。」


自分の考えを否定するようにその言葉を口にして、立ち止まった足を動かし惰性のまま、また進もうとした。しかし、何か引っかかり少し戻って路地裏を覗く。


するとビニール袋らしきものが身動ぎしたのが見えた。


(まさかあれって···!)


僕がビニール袋と見間違ったものの正体は地面に倒れ伏した白っぽい猫だった。白っぽいと形容したのは泥や汚れ、さらには流れる血のせいで完全に白とは言いきれないような色をしていたからだ。


(危うく見逃すところだった。こういう時、どうすればいいんだっけ?)


怪我をしているのは分かっているため、一度病院に見てもらった方がいいのではと急いで近くで空いてる動物病院を調べる。


「あった!ここから10分くらいか。」


早く連れていかないと手遅れになるかもと調べるのに使った時間のロスを取り返すためにその猫を抱きかかえようとしたところ、


「うわっ!」


必死すぎて気づかなかったが猫は倒れながらも威嚇するように鋭い視線を向けてきていた。その眼光の強さに思わず後ずさりしてしまう。


自分を庇うような言い方になるがその視線は大の大人でも後ずさりしてしまうのではと思うほど鋭いものだった。そして、今も尚こちらを睨みつけるようにして見てくる。


しかし、出会った頃と同じように体を寝かせたままこちらを睨みつけるだけで逃げようとも襲おうともしないあたり今の健康状態が伺える。


僕はじいちゃんが昔言っていた猫の扱いについて思い出し、目線を合わせないようにして猫に近づく。確か、目線を合わせるのは敵意の表れとかだった気がする。


できるだけ驚かさないようにゆっくりと近づき、もう少しで触れると思った瞬間。


「痛っ!」


猫はその牙で僕の指に噛み付いた。咄嗟に反応したものの、実際は僅かにしか痛みを感じないほどの弱々しい噛み付きだった。僕は指を無理やり抜くことなく、そのまま空いている手で猫を優しく抱くと怪我を刺激しないように背中を撫で始めた。


「大丈夫だから、僕は絶対に君を傷つけたりしないから。」


言葉が通じたのか、噛む力が無くなったのか分からないが、猫は僕の指を離してこちらをじっと見つめ出した。その瞳に込められていた溢れんばかりの敵意はなりを潜め、こちらを見定めるような瞳がこちらに向けられていた。


「今から病院に連れていくからしばらくじっとしててね。」


僕がそう口にすると、僕から目を背けて目を閉じた。一瞬、嫌な予感がしたがゆっくりと浮き沈みする体を見て安心する。


(寝てるのかな?こうして見ると可愛いな。)


大人しく眠る姿につい頬が緩む。


(···はっ!こんなことしてる場合じゃない!早く連れていかないと。)


初めの目的を思い出し、急いで先程確認した病院への道のりを頭にうかべてその経路を辿り始めた。



「ありがとうございました。」


そうお礼を言ってから病院を出た。どうやら、見た目以上に傷は深くなかったらしい。かなり血が出てる思ったんだけどな、と思いつつも実際確認したところ擦り傷程度のものだった。それからは汚れも随分と綺麗に落としてもらい、指を噛まれたことを言ったところ何か病気を持っていないか検査もしてくれ何もないことが分かり安心した。さらに、このまま抱いて帰るのは大変だろうとケージも貸してくれたため帰りは随分と楽になった。何とも至れり尽くせりな対応で、本当に助かった。


「汚れを落としてもらえて良かったね。こんなに綺麗な毛並みなのにあれじゃあ勿体ないよ。」


今では白どこか白銀に輝くその毛並みを陽光の元に晒している。本人もどこか自慢げだ。さっきよりもずっと元気になった猫を見てこちらも嬉しくなる。春ということもありまだ四時にもかかわらず少しずつ影が長くなる中、


(これからどうしようかな。医者の人も言ってたけどこの子と一緒に暮らすかどうか考えなきゃ。)


野良であることを告げると、お医者さんはこれからどうするか考えた方がいいと助言をくれた。また、どうするにしても何か困ったことがあればまた訪ねていいとも。


(でも、この子がうちで暮らすかどうかは僕が決めることじゃない気がするんだよな。何だか、この子頭がいいのか僕が言ってる言葉を理解してる気がするし···。)


気に入ったら家に住み、気に入らなかったら出ていく。どっちに転んでもいいように僕は帰り道の途中で猫と一緒に暮らすために必要そうなものをいくらか見繕った。十分買い物を終え、改めて家に向かっている途中、ケージに入っている子に話しかける。


「もうちょっとで着くから我慢しててね。」


ケージの中が気に入らないのか不機嫌そうに鳴く猫を宥める。そうして、ふと気づく。


(···あんなに重かった家までの足取りがさっきよりも随分と軽くなった気がする。)


じいちゃんが亡くなってから数日が経つが、誰もいない家に帰るというのは何よりも辛く苦しいものだった。一人で帰り、一人でご飯を食べ、一人でお風呂に入り、一人で寝る。そんな生活に物足りなさを感じながらもどうすることも出来ず、夜は涙を流した。


両親が亡くなった時も辛い思いはしたが、じいちゃんがその寂しさを埋めてくれたため何とか立ち直ることは出来た。しかし、こうしてじいちゃんがいなくなったことで親しい家族は誰一人居なくなり、この世界に自分一人しかいないような気持ちを味わった。寝ても覚めてもそれは続いてたのにこの子を助けようと必死になっているうちはそんな気持ちが胸に湧くことは無かった。


家族を失った悲しみが消えることは一生無いと思うけど、この悲しみとどう向き合えばいいか分かる時が来るのだろうか。


(いつになるか分からないけど、その時はちゃんと向き合おう。)


胸に刻むように心の中でそう呟き、


「···よし、もうちょっとで着くから我慢しててね。」


さっきよりも長くなった影を追いかけるように帰り道を歩いた。



買ってきたものを部屋に置き、晩御飯の準備も終えたので猫にもご飯をあげるためにキャットフードを用意したもののなぜか食べようとしない。


「食べないの?」


しかし、首を振って僕が食べるつもりのご飯へと目を向ける。


「こっちがいいってこと?」

「にゃーん。」


まだ傷もあるわけだし、何か食べさせた方がいいに決まっている。僕は作ったご飯の中に猫が食べられないようなものはないか確認した。どうやら、どれも大丈夫そうなようだったのでそれを用意してあげると今度は勢いよく食べ始めた。


「落ち着いて食べなよ。水も置いておくから。」


そう言い残し僕も晩御飯を食べ始める。久しぶりの一人きりではない食事だからかご飯が美味しく感じた。


それからは猫というものを身をもって知ることになった。こちらが相手にしようとすると無視して一人で遊び始め、こちらが別のことをしようとするとかまってくれと言わんばかりに寄ってくる。普通なら面倒くさく感じるだろうが、その可愛さからそんなことを感じる暇もなく相手をするしか無かった。


「ふぅ、そろそろ寝ようか。君はどこで寝る?」

「にゃん。」


自身の顔を僕が寝ようとしていた布団に向けた。


「じゃあ、今日は一緒に寝ようか。」


僕と猫は一緒に布団へと入り、電気を消した後その子を抱いて意識を深く深く落とした。


その日はじいちゃんが出てくる夢を見た。


「じいちゃんはどうしてそんなに色んなこと知ってるの?」


普通に生きてたら知ることがないであろうことまで知っているじいちゃんを不思議に思い、そう聞いたことがある。じいちゃんは少し痛い所をつかれたような顔をしつつ、少し言葉を濁して答えてくれた。


「知らないことを無くすためだ。俺は昔、知らないことに怯えて間違った選択をしてしまった。そんなことが無いように、その罪滅ぼしのように色んなことを学んだ結果なんだ。」

「そうなんだ。僕にもいつかそんな時が来るのかな?」


じいちゃんは僕の頭を撫でながら、


「そうだなぁ、もしかしたらあるかもしれないし無いかもしれない。どれだけのことを知ってても未来までは分からんよ。お前は間違えるなよ、縁。」


僕に自分の思いを託すようにじいちゃんはそう言った。



「···うーん。」


太陽の光が寝床に降り注ぎ、僕は目が覚める。今日は土曜日のため、まだもう少し寝てても構わないと布団をかぶり直して目を瞑るが、


(あ、そう言えば僕一人じゃないんだ。僕の隣に寝てる子に朝ごはんあげないと···。)


昨日から久しい来客がいることを思い出して、朝ごはんの準備をしなければと寝ぼけまなこのまま体を起こす。


怪我を治すためにも栄養は必要だろう。


「ふわぁ、ごめんよ。今からご飯作るから。」

「いい···、まだ寝る。」

「そう?だったら、お腹減ったらまた起こして。」


本人からまだご飯はいらないとのことなのでもう一度体を寝かせて、少しずつ微睡んでいたところで、


「いや、今の誰!?」


良く考えれば明らかにおかしいことに気づき、勢いよく起きる。


「うるさい···。」


幻聴かと思いきや、またしても聞こえるその声の方向へ目を向ける。


そこには、キメ細やかで透き通るような白い肌に白銀色の髪を腰まで下ろした着物姿の女の子が隣で寝ていた。


「うわぁぁぁ!ど、泥棒!?でも、泥棒が何で僕の横で寝てるの!?そ、そんなことは聞いたことは無いし···。てことは泥棒じゃない?というか、むしろ僕の家に知らない女の子がいるわけで、傍から見れば僕の方が誘拐犯···?ち、違うんです!僕は本当に何もやってないんです!信じてください!僕だって女の子にちょっとくらい興味くらいあります。だけど、犯罪に手を染めるつもりは無かったんです!僕は何もやってないんですぅぅぅ!」

「···落ち着いた?」

「はぁはぁはぁ、···ちょっと落ち着いてきた。」

「そう、じゃあおやすみ。」

「お願いだから寝ようとしないで!状況を説明して!」

「···めんどくさい。」


そう言ってこちらに背を向けてまた寝始めた彼女。


その頭にはいわゆる獣耳と呼ばれるものがこちらからの声をシャットダウンするみたいにふせられていた。


(···夢か。)


それを見た事で一瞬でこれが夢だと気づき、完全に考えることを止めて目を閉じた。起きたら、いつも通りの日常が待っているだろうと思い込みながら。


コメントやレビューで応援してくだされば嬉しいです!もちろん、星も···。

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