魔王復活 帝国サイド
プロローグ二話目です。残り二話も今日明日で投稿予定です。
其処は、大陸において最大の領土を誇る国家たる帝国。その首都。
鳴り響く、魔王グレイテストを名乗る者からの宣戦布告。
そして、終了と同時に降り注いできた獄炎を纏いし岩石。
突然のことに立ち尽くす、あるいは恐怖のあまり倒れこむ。
意識を無くす。
子供を守ろうと抱きかかえる両親。
恐怖に足を竦ませながらも、民を救おうと盾を構えたり、魔方陣を構築する勇敢な騎士、魔導士、そして冒険者達。
様々な者たちが、様々な行動を見せる中、その少女は無表情で。というより、ボーっとした表情を浮かべながら、じっと降り注ぐ岩石を眺めていた。
腰まで伸びたクリーム色の髪と、飾り気のないワンピースを纏ったその姿は、一見すれば町娘が驚きのあまり、茫然自失となってしまったと捉えられるだろう。
「おい、嬢ちゃん。大丈夫か?」
じっと突っ立っている少女に、心配した様子で一人の冒険者が声を掛ける。だが、少女からの反応は無く、声を掛けた冒険者は恐怖で動けなくなったのかと、少女に近づく。
「千と百二十一」
「は?」
ゆすってみようと伸ばされた冒険者の手は、ポツリとつぶやいた少女の声に止められる。表情は、困惑と、それでも話せないわけではないのかという安堵のもの。
それらは、少女のつぶやきで完全なる困惑へと塗り替わる。
「総数は千百二十一。内、帝国領域内へ降り注いでいるものが、五百九十二。迎撃の必要性を提議。・・・承認」
「?嬢ちゃん、どうしたんだ。気がおかしくなっちまったのか?」
冒険者の至近距離からの呼びかけに、少女はその瞳を彼へ向ける。
その瞳は青と紫のオッドアイであり、その美しさは特級の宝石のようであった。
しかし、冒険者が感じたのは、美しさではなく、その無機質さへの恐怖。
「質疑への回答。私の精神状態に問題の発生は確認されておりません。以上です」
「お、おう」
機械的なその瞳を向けられた彼が、わずかながらも返答できたのは褒められるべきであろう。
何故ならば、彼女と一対一で目を合わせながら会話できる者など、荒くれ者の集う、完全な実力主義である帝国においても、一握りしか存在しないのだから。
返答を終えた彼女は、冒険者から視線を岩石へと戻す。
「聖剣の使用許可を要求。・・・承認。情報秘匿のため、周囲の生命体への対処を執行」
少女の宣告と同時に、彼女の足元から何かが発生し、周囲に伝播していく。
何かが帝都中に伝播し終えた頃には、彼女に声を掛けた冒険者も、魔導士も、騎士も、誰もかれもが意識を失いその場に伏していた。
「対処の完了を確認。聖剣開放の開始を要求。・・・承認」
眩い光が少女を中心として周囲を侵食していく。それは帝国へと向かっていた岩石全てを飲み込み、やがて、帝国全土を埋め尽くした。
それは数瞬の出来事。何も知らぬ人からすれば、目を閉じていないというのに目の前が真っ白になったとしか分からないだろう。
だが、それも一瞬の事。気づけば視野は元に戻る。帝国を埋め尽くした光は消え去っていた。大量の岩石と共に。
帝都にて昏睡状態に陥っていた者たちも次々と目を覚まし、空を見上げ―――困惑する。先ほどまで迫っていた脅威はどこにも見当たらず、きれいさっぱりなくなっているのだから。
少女に声を掛けた冒険者は、彼ら以上に頭を悩ませる。気を失ったのはなんとなく理解できたが、その前の僅かな記憶が思い出せなかったからだ。
「全く、あの娘は。また勝手にやりおったか」
帝都にある城の一室にて、荘厳なる鎧を身にまとった初老の男は、言葉とは裏腹に面白そうに呟く。騒がしさを取り戻しつつある城内をしり目に、男はこれから起こるであろう事に思いを馳せる。
「魔王は切っ掛けにすぎん。すぐに討伐されることだろうよ。本題はまた別物。・・・久々に腕が鳴るのう」
定期更新頑張ります。