マジで雨止まねぇなぁ。
天気予報通り、その日は雨が降った。
俺の頭の中で天使の言葉がリフレインする。
「君には恋のキューピットになってもらいます!」
正直言われてすぐはホッとした。あんなことされた後だったし、誰殺してこいとか言われたらどうしようとか思ってたし、実質家族を人質に取られてるし。
ただその事についてじっくり考えるうちに不安が生じた。
「恋のキューピット?そんなん俺に出来るかっ!」
恋人いたことないのになんでそんな無茶を、てか、初めて会った時言ったよね?そういう経験ないって!
あれからまた天使「じゃあ僕は僕でまだ仕事あるからー。」とか言って本当にどっか行っちゃったし…悶々とする俺一人残して本当に消えやがった。
最近もいないと思ったら急に出てきて驚かしたりするし、本当は居ないフリしてどっかに隠れてみてんじゃねえのかな?腹立つ。
とりあえず家帰ってていいよー。とか、言ってたから、大人しく家帰るけど。
昇降口に置いたはずの傘が消えてた…。
「嘘だろぉ…」
人目をはばからず目をおおって立ち尽くした。
外は滝みたいな雨がゾザーっていう音を立てて流れ落ち、屋根からぽたぽた落ちる雫さえ、ダダダダダという岩を穿ちそうな雰囲気を醸していた。
人の傘盗むとかどんな神経してんだろ…とか、堪えきれない怒りがフツフツと湧き上がり口からちょっと漏れていた。幸いなのはあと数時間待てば少しはマシになるという予報があること。あと数時間待てば…
呆然と立ち尽くす俺は、雨音の中で記憶の中に埋もれて行った。
「雨やまねぇなぁ。」
一年前の四月、体育の時間。
雨で校庭が使えなくなり、体育館でバスケットボールをすることになった。友達作りに失敗し、溢れてベンチにいた俺は、同じように体育館の隅で突っ立ってる石島に目をつけた。
「あのさ。石島…だっけ?どこ中?」
ささいなきっかけにでもと思ってありがちな話題を振ってみた。
「西川入…」
「ああ…」
どこなのか分からなくて、話題を広げられず、声をかけたことを早くも後悔しそうになった。
「嵐山は?」
「俺?俺は竜田山。」
すると、意外な反応が帰って来た。
「え?竜田山って県央にある竜田山中学?」
石島は目をひん剥いて、俺の中学に食いついた。
「う、うん。」
「じゃあさ!平道先生って知ってる?中三ときそっちに赴任になったと思うんだけど…」
知ってる名前を出されて俺もびっくりした。
「あ、ああ!知ってる!てか、平道先生俺の担任だったよ?」
「マジ!?」
「まじまじ!」
教室の隅で俺と一緒に埋もれていた石島が眼鏡の奥からキラキラした目で俺を見ていた。その時俺は何となく、こいつとなら三年間しんどくても乗り切れる気がした。努力してみたけど、やっぱり石島以外と上手く友達なれなくて、でも何とか学校には来れた。
行けばいつも一人じゃないし、行かないと1人になってしまう。その連帯感が俺はそんなに嫌じゃなかった。なんて言うんだろう。ぶっちゃけ趣味もそんなに合った訳じゃないし、会えば天気と飯と勉強の話くらいだし、友達と言うよりかは、辛い学校生活に耐えるために支え合う同士、戦友って感じだと俺は勝手に思っていた。付かず離れずの距離感がいいって思っていた。少なくとも石島といれば俺は一人にならないで済む。
いつの間にか考え事しながら宛もなく校舎中を歩き回っていた俺は、廊下に突っ立っていた。
「一人になっちゃったなぁ…」
呟いた時、背中にガツンと何かが当たった。