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コミュ障嵐くんマジ天使  作者: 中原 白髪
序章 願え!本当の望みを
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漠然とした不安でマジ鬱だわー。

「じゃあ、行ってきます。」

天使はあれから天井に張り付いたままじっとして動かない。目を瞑ってどこか遠くの音でも聞いているかのようだった。

「あ、待って大輝。傘傘。」

母が玄関まで見送りに来た。

「ほら、今日夕方から雨らしいから。てか、帰れるならなるたけ早く帰ってきちゃいなさいよ。雨も降るし、最近物騒なんだから。」

「はーい。」

扉の開いたリビングから微かにテレビの音声が聞こえる。代わり映えのない、いつものおしゃれ情報コーナーだ。

「じゃあ、行ってきます。」

俺は心配そうにする母に背を向けて玄関の扉を開けた。

『たった今速報が…』ガチャン…


一週間も学校にいないと、いや、たとえ一日休んだだけでも、全く違う場所に見える時がある。いや、休んでいるうちに何か劇的なことが起こって、何もかも変わっていやしないかと不安になる。小学校の頃はそれで周りの人に『俺が休んでるうちに何かあった?』って聞いて回ったりした。

一日でそんなに変わるようなことそうそう無いし、聞かれる側からしたらなんにも無い、昨日も今日も日常の延長なのに、どうしてそんな必死に聞くのかって気分になるけど、どうしょうもなく不安なのだ。

俺にはもう『何かあった?』って聞ける相手がいなくなったけど…


教室に入ると一瞬、みんながこっちを見た気がした。いや、何人かチラチラ見たのだが、またいつもの空気に戻っていった。冷静に見ればそんなものだ。誰しもショックなことがあったには変わりないけれど、それよか、それだからこそ自分たちの日常に戻して安心したい。それにもう一週間も経ったのだ。俺が今日登校することは多分教えられてたし、過剰に反応して変な空気を作りたくない。みんな期せずして加害者になんかなりたくないのだ。それにもともとこのクラスでの俺のポジションなんてそんなもんだった。これで気を使って話しかけたりなんてして、失敗したくないのだ。その気持ちは…うん、分かるわ。

頭の中を考え事でいっぱいにすることで俺は俺を守っている。そうしているとまるで自分は冷静であるかのように感じるし、錯覚であっても感情がコントロール出来てるみたいな気分になる。

でも、今は…少し一人になりたい…。

今朝の母の言葉を思い出し、やっぱり帰ろうかと思って廊下に向かおうとした時、思わず声が出そうになった。

「ハロー。おー、ここが君のクラスねー。ふむふむ…面白いほど腫れ物扱いだねー。」

天使が学校まで着いてきていた。家のリビングの天井から動かないからてっきり一日中あそこにいるんだとばかり思っていた。

その場で問い詰めてしまう所だったけど、俺は天使に目で合図して旧校舎のトイレまで歩いた。案の定、天使は着いてきた。

「お前!来るなら来るって言ってよ!あやうく声が出るところだった!」

「きったねぇトイレ。」

「話聞けよ!」

天使は悪びれもせず飄々と宙に浮いたまま俺に話し続けた。

「だって僕にも準備があったからさ。」

「準備ってなんの?」

そう聞くと天使は険しい表情をした。

「は?君が今朝頼んだんじゃん。証明してってさ。君さっさと学校行っちゃうから…」

「…まさか今朝の事件のこと?何か予言めいたこと言ってたヤツ…」

天使は肯定も否定もせず、ただニッコリと微笑んだ。

「帰ったら確認するよ。でも捕まってなかったら、俺はお前を信じないからな。」


一限の地理、チャイムが鳴る直前、天使は言った。

「先生、今日は遅れてくるよ。」

本鈴三十分後、社会の久保先生が汗だくになって駆け込んできた。

「いやーすまん。今日車がパンクしててなー。バスで来たんだけど…渋滞で、職員会議出れなくて怒られたよー。今日は時間無いから巻で行くぞー。」


二限の英語、チャイムが鳴る直前、天使は言った。

「今日は清水さん。立たされちゃうね。」

授業の最初、前回の授業で出された課題に口頭で答える時間がある。厳しい先生で間違えたり、答えられないとしばらく生徒を立たせる先生だったが、課題はいつも簡単な短文だから予習していれば答えられるはずだった。

「問三、清水。」

「…」

指された清水さんが顔を真っ青にしながらノートを眺めて座っていた。

「清水ー。どうしたー?」

「すいません…課題…忘れてしまって…」

先生は眉間にシワを寄せて叱責した。

「どうした?課題忘れるなんてらしくないだろ。」

「…ごめんなさい…」

「もういい。立ってろ。」

清水さんは立たされたことが堪えているらしく、他の誰が立たされた時より顔を真っ赤にして立っていた。先生も清水さんの時だけはいつもより早く、『座っていい』と、言ってくれた。

清水さんが席について、少し場の空気がゆるんだ時、清水さんの隣の席の三好さんがそっと耳打ちした。

「ユキ、どうしたん?課題忘れたことないやん?」


三限、四限は家庭科の調理実習だった。

チャイムが鳴る前、廊下の天井に張り付いている天使に向かって誰にも聞こえないように小さく呟いた。

「お前…何か言ったりしないよな?」

冷や汗のようなものを背中に感じながらじっと様子を伺うと天使はニッコリ微笑んだ。

もうすぐ三限始まりのチャイムが鳴る…。

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