俺はマジで知りたいだけだ…
「その前に証明してくれよ。お前が本物の天使だっていうことをさ…。」
朝日を背に受けて、天使は眉一つ動かさずに俺の言葉を聞いていた。特に驚きも呆れもしないで、寧ろつまらなそうに俺の言葉を受け取っていた。
「まぁ…そう言うと思ったよ。」
天使は俺の頭の上をヒョイッと飛び越えて、またベットの上にダイブした。
「いるんだよねー。そういうこと言う人。まあ、信じられなくなるのは分かるし、あの時君は死ぬ間際の普通の状態じゃないもんね。分かったよ。」
「あーあ。つまんないなぁ。」と、ボヤきながら、天使は俺のベットの上にあるボール状のキャラクターのぬいぐるみをサッカーボールみたいにリフティングして遊んでいた。
「出来るのか?」
「慣れっこだからね。」
「だったら…」今すぐやってくれよ。と、言いかけた時、一階から母の声がした。
「大輝ー。起きてるのー?まだご飯食べないのー?時間大丈夫ー?」
「あ…起きてるよー!!」
どうしようかと天使に目を向けると、天使はニッコリ微笑んだ。
「とりあえず、学校行こっか。」
渋々カバンを拾って身支度を始める。拍子抜けするぐらいあっさりとした態度に、俺は根拠は無いけどなんだか嫌な予感がした。俺は最初はこいつの外見に圧倒されていたけど、慣れてみればなんてことない。寧ろ人形みたいに整いすぎていて、普通の表情からは何も読み取れない感じが俺の不安を煽った。
「随分…余裕なんだな…。」
天使は俺の方に一切目線を向けずにぬいぐるみと戯れる。
「うん。いつでもどこでも説得できるよ。」
天使はぬいぐるみを足の裏でぐにゅぐにゅ踏みつけて遊んでいる。
支度を整えてリビングに降りるとテーブルの上に朝食が並んでいた。いつもと同じ、温かい炊きたての白米と、豆腐とワカメの味噌汁、ほうれん草のおひたし、焼き魚は俺の好きな鮭だった。それに昨日の夕飯の残りが置いてある。
「なかなか降りて来なかったけど、どっか調子悪いの?」
台所で果物を切りながら母は俺に尋ねた。
「大丈夫。ただの寝不足。」
父はいつも通り、朝早くに仕事に出たようだ。食べ終えた食器が流しに積まれている。
「調子悪かったら無理しないで、先生に言って保健室行くのよ?」
「分かった分かった…」
朝の情報番組は、昨日護送途中に逃げ出した犯罪者がまだ見つけられていないことを報じている。
「やだわぁ…早く捕まんないかしらね…」
母は切った果物の乗った皿をテーブルに置いた。
木のテーブルに、コツンという陶器の高くて鈍い音が鳴った。
「捕まるよ。」
天井から天使の声がした。
「え?」
見上げると天井から逆さ吊りになるような格好で天使が立っていた。母には無論、見えてない。
「すぐに捕まるよ。ああでも、一人は犠牲になるかもね。」
テレビの画面はお天気のコーナーに切り替わった。
『今日の東日本の天気は日中は穏やかなのですが、夕方頃から天気が乱れ始め、十九時頃は雨、ところにより雷が見られるでしょう。お出かけの際は傘をお忘れなく…』