素人質問でマジ恐縮なんですが…
その後の記憶が曖昧だが、俺はパニックを起こして父親に抑えられ、何とか落ち着きを取り戻した。というか、到底落ち着ける状態じゃなかったけど、病院に戻されるのが嫌だと思うほどの冷静さは辛うじて残っていて、俺はマトモになったフリをした。
フリ…そう、俺の目にはあの夢の中の存在だと思っていた天使の姿がずっと見えていた……………今でも。
「僕は優しいと思うんだ。」
俺のごちゃごちゃした部屋の中に天使がいるのはとてつもない違和感を覚える。やっすい中古古本屋の少年マンガコーナーに、格式高そうな西洋絵画の写真集があるくらいのカオス。
「僕はちゃんと空気を読んだ。一週間も待ってあげたんだよ?」
天使はその羽を有効活用すること無く、俺のベットの上を両足で飛び跳ねていた。ギチャンギチャンギチャンって…小五の時に買ってから六七年くらい使ってたけど一度もそんな音聞いたことないぞってくらい両足で容赦なく踏みつける。その美しい顔に一点の曇りも悪びれも無かった。
「なのにさあ何なの?あの幽霊見るみたいな反応!?僕は納得がいかない。謝ってよ。」
「…悪かったよ…。」
反射的にそうは言ったが、今俺の頭はあるのはこの幻覚をどうしようかってことと、幻覚じゃなかったらこのベットお釈迦になるんだけどってことの二つを行ったり来たりしているだけだった。
「むう…まあいい。とにかく僕は一週間も待った。もうこれ以上は待てない。上にはもう協力者を得たって報告しちゃったんだもん。今日明日から働いてもらわなくちゃ。」
俺の謝罪に気持ちがないことに不満が残ってそうな顔をしながらも、天使様は金剛力士像よろしく、ベットの上で『ででん』とでも言いそうな、実に芝居がかった仕草をした。
「仕事ってあれか?天使の仕事を手伝うとかいう…。」
「そうだよ。」
天使はベットから降り立った。ぺたぺたとその足で俺の部屋にある、ベランダに続くガラスの扉の前まで歩いた。
「君は僕と契約した。契約は絶対。僕らの契約に法律も年齢も関係無い。でも大丈夫だよ。僕らは天使だから。君の悪いようにはしない。迷える子羊は天の思し召しに導かれるのさ。」
扉の前まで来て、くるっと振り返る天使の姿はやはり美しいのにどこか、影があった。
俺は疑っている。目の前のことも、身の回りのことも、そして自分自身も。自分に失望し尽くしたと思っていたけど、俺は全然、まだ自分のことが可愛いんだろうな。幻覚に取り憑かれて、周りの人から変な目で見られるなんて絶対に耐えられないと思っている。それに、もしこの天使が本物なら…
「じゃあ、君に具体的な仕事のことを教えるね…」
「おい。」
俺は天使の前に立ち塞がる。これから触れてはならない核心に触れるみたいな恐怖を感じる。手が震えているのが情けない。でも、俺は、それを悟られないように語気を強めて問うた。
「その前に証明してくれよ。お前が本物の天使だって言うことをさ…。」