第1話
ただ今12話まで予約投稿しております。
それ以降の投稿は反響によって決めようと思っています。
ーー1ーー
頰を抉る大きな傷跡を残す強面と人より頭一つ抜けた身長が特徴の男、ドーグは現在、〈フィザの大迷宮〉の第七十二階層を探索している。
この迷宮において発生する魔獣はスケルトン。階層が深くなるにつれて武器を持ち、防具を纏い、魔法を使うようになる。さらには装備品に〈加護〉の付与されたものまで使い出すようになり、集団戦で襲いかかってくる。
非常に厄介ではあるが、その見返りは大きい。
他の迷宮よりも〈加護〉付きの道具がドロップされやすく、魔石の回収がしやすい。
故に多くの者達が〈フィザの大迷宮〉へと押し掛け、日夜人々によってごった返している。
とはいえそれは表層と呼ばれる第一階層から第十五階層までに過ぎない。
第十六階層以降、特に第六十五階層以降は深層として分類され、辿り着ける者は一握りほどしかいない。
そういうわけで、深層で産出されるアイテムは地上において非常に高価で売れるため資金稼ぎには丁度良い。また、非常に稀ではあるが、これはと唸ってしまうほどのアイテムも出るためなかなか楽しむこともできる。
こういったこともあって、ドーグはひたすら迷宮の中を歩き回り、魔獣を狩り続けていた。
最後の一体のスケルトンの首を刎ねて戦闘が終了した。
第七十二階層ともなるとスケルトン達は非常に手強くなってくる。
常に五体以上で行動し、多い時には十体近くとなる。
それらは個々の強さもさることながら、まるで一つの生き物であるかのように絶妙な連携をとりつつ、必殺の一撃を叩き込んでくる。
何百何千と戦闘を経験してきたドーグであっても、十分気を張りながら戦う必要がある。
死の危険に陥ることが万に一つもないことを確信してはいるが、長い戦闘は精神的にも身体的にも負担が大きいのだ。
(今日はこれぐらいにしておくか)
今日迷宮に潜り始めたのが朝の六時。懐中時計で確認したところ、今は夜の八時を回っている。そろそろ潮時だ。
倒したスケルトンから魔石を取り出し、落としたドロップアイテムを拾って〈異次元収納〉の中に放り込む。
本日の戦果は大型魔石十八個、中型魔石七十七個、小型魔石四十二個、大剣五本、短剣十一本、斧五挺、弓二張り、盾三枚、その他アクセサリー類十四個。それらのほとんどは〈加護〉の付与されたものだ。
少なくとも金貨一万枚は下らない金額となるだろう。
今夜は美味い酒が飲めそうだ。
そんなことを思いながら再び〈異次元収納〉の中へと手を突っ込み、あるものを引っ張り出す。
『知図』。
これは迷宮の中で手に入れた、かなり珍しい部類に入る〈アイテム〉だ。
通常、迷宮に潜る者達は階層ごとの地図を購入するか、その迷宮に詳しい案内人を雇って探索する必要がある。
だが、この〈アイテム〉があればその必要もない。
これは一見ボロボロの巻物だが、開いた者が辿り着いたことのある迷宮の階層地図を自動で書き記す。また、その階層にいる魔獣や人の存在、場所ですら詳細に教えてくれるのだ。
ドーグが愛用して使っている〈アイテム〉の一つである。
「む?」
『知図』を開いてすぐ、異変に気付いた。
この階層ではよく狩りを行うため、ある程度階層の地図は覚えているつもりだ。
確認の意味があって、また道を間違えて時間を無駄にするのも馬鹿らしいから毎回見るようにしているのだが、いつもと違う点が見受けられた。
(この道はなんだ?)
現在いる場所から少し移動したところ。以前までは壁しかなかったその場所に、新たな道ができていた。
しかもさらに不可解なことがある。
『知図』には、階層の全通路と全部屋が表示されるはずであるのに、その道の先は消えてしまっている。
これが何を示すのかはわからない。
今まで迷宮自体に変化が起こるなどということはなかった。壁や床が戦闘の余波で壊れてしまっても、時間を置かずしてあっという間に直っていた。
この新たな通路が誰かによって掘られたということもないだろう。
いったいどういうことなのか。それは考えてもわからないことだ。
しかし、ひとつだけわかることがある。
(行って確かめる他あるまい)
ドーグは、自然と口角が上がっていることに気づかず、その場所へと足を進めた。
お読みいただきありがとうございます。
気に入っていただけたなら、ブックマーク登録、評価を是非よろしくお願いいたします。
批判でも誤字・脱字報告でも構いませんので、感想をいただければ幸いです。一つ一つが作者の励みとなります。