エターナルマン誕生!
僕が気がかりな夢から目を覚ますと、自分が手術室の様な部屋の、これまた手術台みたいなベッドに横たわっている事に気が付いた。
……寝てたのかな? 頭がボーッとする。とりあえず、ベッドから降りて自分の身体を確認する……よし、どうやら毒虫にはなっていないみたいだ。
まだ頭が働かない。ここは何処で、何で一人で寝ていたのか? 僕は鈍い頭で思い出そうとした。
……えーと、僕の名はカミル。 合衆国はドッカノ市の平凡なハイスクールの生徒だ。ナードなんで彼女も友達も居ない。成績は中の下で、体育の成績は下の下。趣味はネトゲとアニメ鑑賞……うん、悲しくなってきたけど自分の事はキチンと思い出せる。
それで……確か、唯一の友人である変人科学者のブライアン博士から電話があったんだ。大発明が完成したから見に来ないかって。それで学校帰りに博士の自宅兼研究所に寄ったんだ。
ああそうか、ここは博士の研究所の実験室だ。この部屋には見覚えがある。でも、なんでこんな所で寝てたんだ?
思い出せ……
そうだ。研究所に着いたら、玄関が開けっぱなしになってたんだ。何かあったのかな? って気軽に中に入ったら、応接室が荒らされていて……そこに研究所の奥の方から、何人かの銃を持った覆面の男が飛び出してきて……逃げようとしたんだけど、その前に撃たれたんだ。見られたからには仕方ないとか何とか言われて……
そうだ! 僕は撃たれたんだ! 腹を! 銃で!
慌ててシャツを捲りあげて、撃たれたハズの腹を確認した。でも、そこには傷どころかアザ一つ無かった。……夢だったのかな? でも、あの腹に銃弾を撃ち込まれた時の痛みと衝撃を思い出して、思わず身震いしてしまった。
やっぱり、あれが夢とは思えない。そう考えた時、不意に部屋の扉が開いて白衣を着た初老の男が入ってきた。ブライアン博士だ。彼は最初、僕を見て驚いたようだったけど、すぐに安堵の表情を浮かべた。
「もう立てるのか、カミル。すると、発明品は上手く機能してるみたいだな」
「何の事です博士? いったい何が起きてるんです? 確か僕は応接室で誰かに撃たれて……」
「順を追って説明させてくれカミル。だが、その前に……」
博士はそう言いながら、僕の右手を取って……傍らの台に置いてあったメスを、いきなり僕の手のひらに突き立てた!
痛い! 僕は思わず悲鳴を上げたが、すぐにおかしい事に気が付いた。まず、メスを思いきり手に刺されたのに、バラのトゲに触れた程にも痛みを感じなかった事、そして何よりもメスが手のひらを貫通するどころか手のひらの上で止まっているのを見た。博士もそれを見てメスを放り出して歓声を上げた。
「やったぞ! ナノマシンは正常に機能している! カミル、君は超人になったぞ!」
「どういう事です!? 説明して下さい!」
博士は頷くと、説明を始めた。
……博士は以前から、人体に作用するタイプのナノマシン……超極小サイズのロボットの研究開発をしていたらしい。それを人体に注入すれば、怪我や病気を瞬時に治す事も出来るし、さっきみたいに肉体を強化して防御力を上げたり、人間では及びも付かない怪力を発したり、尋常では無い反射能力や超スピードをも得られると言う。
博士は長年の研究の末に遂にそれを完成させた。まずはマウスで実験して、その成果を僕に見せようとして、電話で僕を呼んだ。で、僕が博士の研究所に向かっている間に、ナノマシンを狙う悪の秘密結社の手先……あの覆面の男達が研究所に侵入して来たのだそうだ。
間一髪で博士はナノマシンが入った容器と一緒に、この実験室に隣り合ったシェルターに逃げ込んで、迎撃システムを作動させて連中を追い払った。ところが運悪く、逃げる途中の覆面と僕が鉢合わせしてしまい、僕は奴らに撃たれてしまった……と言うのが事の顛末らしい。
その後、覆面はどこかに行ってしまったので、シェルターから出てきた博士は、重傷を負って倒れてる僕を発見。救急車を呼ぼうとしたが、間に合いそうに無いので、一か八かナノマシンを僕に注入したのだそうだ。
「結果的に、君を実験台にしてしまったのは、悪いと思っている。本当にすまない」
「いえ、お陰で命が助かったんだし、気にしないで下さい博士。でも、今の話が本当なら、僕は怪我も病気もしないし、すごい力も手に入ったって事ですか?」
「そうだ。今の君は、人間離れした力で無限にだって戦う事が出来る超人……まさにエターナルマンになったんだ」
「それは良いことを聞いた」
最後のセリフは僕じゃない。声のした方を振り向くと、そこにはさっきの覆面達が銃を手にして実験室の入り口からゾロゾロと入ってくるのが見えた。
「二人とも、おとなしく来て貰おうか。エターナルマンだか何だか知らないが、これだけの銃を持った手勢に勝てると思うのか?」
リーダーらしい、額に角のついた覆面男のセリフに不安を覚えたが、博士は自信に満ちた声で僕に言った。
「大丈夫だ、カミル。さあ“ヘンシン! エターナルマン!”と唱えるんだ!」
「え? ヘンシン?」
「早く!」
訳が解らないけど、もうヤケだ! 僕は大声で叫んだ。
「ヘンシン! エターナルマン!」
その瞬間、僕の全身を閃光が包み、いつの間にか身体中に銀色に輝く甲冑みたいなプロテクターを身に付けていた。まるで、日本のメタルヒーローみたいだ! かっこいい! ……でも、本当にいつの間に?
「ナノマシンが君の全身を作り替えて、表皮も銃弾さえ弾き返すプロテクターに変化させたのだ。ちなみに、その銀色はナノマシンが表皮細胞を作り替える際に、副産物として生成するグアニン(魚の表皮の銀色を作る成分)に寄るものだ」
よく解らないが、子供の頃から憧れたスーパーヒーローになれたのは間違いないみたいだ。全身に力が満ち溢れるのを感じる。これなら負ける気がしない!
僕は雄叫びを上げながら、覆面の男達めがけて勢いよく飛び掛かって行った。
エターナルマンの永遠に渡る戦いの伝説はここに始る! 行け! 戦え! エターナルマンの活躍に期待せよ!