逆転の構図 その3
こんにちは、紫雀です。
本日のお題。それは20代後半の話です。
結婚して、妊娠し、安定期に入ったある日の事。
郵便局に用事があり、
本局に向かって自転車を走らせていると。
私と同じ道筋を辿る一台のステーションワゴンがあった。
あまりにも同じ経路をたどるので気になって自転車を止め、
ちらりと肩越しに振り返ると、運転していた髭面強面のオヤジと
ばっちり目が合ってしまった。
途端に、ドライバーの目つきが鋭くなった。
『うわ~っこえ~っ』
振り返った事を後悔したが後の祭り。
数メーター先を行く私をスピードを上げて追いかけてきた。
ヤバイと思った。交した相手の視線がどうにも堅気じゃない。
急きょ進路を変更して、駅へ向かった。
駅の数メーター手前で幅寄せされて
しぶしぶ自転車を降りた。
自動でドアが開き、運転席の男が身を乗り出して
般若の形相で睨みつけてくる。
一呼吸おいて、言った。
「なんでしょう?」
「おまえっ、今ガン飛ばしてきただろう」
「いいえ、ガン飛ばしたわけじゃありません」
「さっき、睨んできただろう」
「いいえ、そんなつもりはありません。ただ、ちょっと気になって」
そう、お腹に子供が居るからいつもより慎重になり、
周りに気を配ってしまった。それが裏目に出てしまったのだ。
「うるさい!俺様にガン飛ばしやがって!」
どう言い訳しても通じそうにない。
ちらりと駅を見た。
併設された派出所の中にふたりの警官が居るのが見える。
「……わかりました。お手間はとらせません。
あちらに交番がありますから、そこでお話を伺いましょう」
相手の顏に動揺が走った。
「おっ、俺はただ、お前がガン飛ばしてきたから」
飛ばしてきたから、どうだというのだ。
謝れと?それとも気が済むまで殴りたかった?
「ですから、そういうお話ですよね」
男の言葉を遮り畳みかけるように言った。
「おまえ、なめんなぁー」
親の劣勢と見たらしく隣に座っていた高校生ぐらいの男子が
テンプレ通りの捨て台詞をはいた。
分別の無い無鉄砲な学生の方が大人よりよほど危ない。
親も親なら子も子だ。
意に沿わないことは暴力でカタをつけてきたんだろうか。
子供の隣に座っていた女性が心配そうにこっちをみている。
内心ガクブルになりながら、
平然とした顔で肩をすくめて見せる。
男は恫喝した相手が意に介さないと知って謝らせることを諦めたらしい。
舌打ちとともに自動でドアが閉まり、ステーションワゴンはその場を去って行った。
対応を一つ間違えば暴力沙汰だったに違いない。
自業自得とは云えホントに怖かった。
……以上紫雀の体験談でした。