逆転の構図
こんにちは、紫雀です。
私が20代後半
結婚が決まり、結納を終えた次の週のお話です。
その日は、婚約指輪を買うため諭吉様と一緒に宝飾店を廻っていました。
三軒目に入ったお店は閉店店じまいセールをやっていて
諭吉様はこのお店が気に入った様子。
ここで選ぶことになり、幾つが指にはめてみて
三点ほど候補を上げました。
カットの仕方もいろいろあり
オーバル、マーキーズ、ペアーシェイプなど、
同じフリリアントカットでも種類がいくつもあります。
どれにしようか迷ったのですが、
王道のラウンド(丸い)フォルムのブリリアントカットが
一際綺麗に輝いて見えたので、中央に大き目の石を配した
三連のダイヤの指輪を買い求めることになりました。
でも、ここの店主の態度がなんだか。上から目線の何様モード。
閉店セールという事でやけになっていたのか。
説明も横柄で素っ気無い。
内心、ここで買うの嫌だな~と思っていた私をしり目に
諭吉様は上機嫌で購入の契約を結びました。
指輪のサイズ直しをした後、再度連絡を貰ったのち、
現金と引き換えに指輪を購入することになりました。
購入を決めた次の日、諭吉様は
「じゃあ、購入代金を預けておくので自分で取りに行って下さい。」
と言ってうん十万の現金を封筒に入れて我が家に置いて帰った。
三日後、サイズ直し終わったという事で再度来店。
店の中の粗末な椅子を勧められ、暫く待たされた後、
件の女店主は見るからに粗末な
宝飾ケースに入った指輪をローテーブルの上に置いた。
「サイズ直し終わりましたから、どうぞ。
お持ち帰りください。」
心のこもらない口調で、
自分は立ったまま私を見下ろすようにして
煙草に火をつけてスパスパと吸い始めた。
現金の取引をしようとする相手なのに、私の方を見ようともしない。
嫌気が指したが、早く取引を終えて
店を出ようと思い封筒を開けて、札束を数え始めた。
「あっ、そうそう、鑑定書は見当たらないけど本物ですから」
鑑定書は、重さCarat・研磨Cut・色Color
・明澄度Clarityの4つの基準(4C)に沿ってグレードが記載された
本物のダイヤモンドである事を証明する物だ。
その鑑定書がないですってぇーーー!!!
ぴたりと札束を数えるのをやめる。
「そうですか。では」
そう言って、札束をトントンと机の上で整え元の封筒に収めた。
相手を見ると、驚いて目を見開いていた。
「鑑定書が見つかってから再度連絡してください。」
「でも、あの、現物はここに」
店主は焦った顔でそうのたまう。
「結納はもう納めましたので、婚約指輪は急ぎませんと申しあげたハズです。」
真顔で店主の眼を捉え静かにそう言ってのける。
「えッ、でも、あの」
現金が手に入らないとわかって店主はほんとに慌てていた。
世間知らずの小娘がこんな事を言ってくるとは夢にも思っていなかったようだった。
店主は初めて差し向かいで座り、是非、現物を引き取ってほしい旨を伝えてきた。
「でも、鑑定書がないんですよね。」
再度確認する。
「あの……鑑定書、すぐに探しますから、
すぐですから、……申し訳ありません」
封筒をカバンにしまって一礼して店をでた。
ちらりと振り返ると、店主は
店の前まで出て来て深々と頭を下げていた。
逆転の瞬間だった。
私が高額なダイヤを買い求める
上客である事をようやく認識したらしかった。
次の日「鑑定書がありました」と店から連絡がきた。
今度は諭吉様と一緒に来店した。
下にも置かぬモテナシぶりだった。
通された部屋は、豪華な応接セットのある部屋で
ローテーブルに用意された宝飾ケースは桐の箱になっていて
朱色の組みひもで結ばれていた。
その隣に鑑定書が置かれている。
店主はテーブルの上に蓋つきのお湯のみを二つ並べて
にこやかにおしゃった。
「本日はご来店いただきありがとうございます。
二度もご足労頂き申し訳ありませんでした。」
あまりの豹変ぶりにげんなりした。∑(-x-;)
舐められてたんだな……私。
取引は諭吉様に任せて無事終了。
次の日、私の指には婚約指輪が光り輝いていた。
完
以上、紫雀の体験談でした。