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《後日談》

 卯月。

 学園の校庭に植わっているレインボーウッド(ニホン原産の『サクラ』という樹木が、突然変異した結果生まれた()()()()()()()()()()())の花が、ちょうど見頃を迎えていた。

 イチローは窓際の席で暖かい日差しを浴びながら、のほほ~んとしていた。


「平和だね~」

 隣の席で、缶のお茶を飲みつつヒカルが呟く。


「そうだなぁ~」

 イチローも紙パック牛乳を啜る。


()()()()()()()()♪ おっはよー!」

 突然、背中をバシンッと叩かれ、二人は同時に驚く。

 更に飲み物が変な所に入ってしまい、同じタイミングで咽せかえった。


「おー、流石は『パル』同士。息ピッタリだね」

「だ、誰だ! いきな、…ぇ!?」

 先に振り返ったイチローは、背後に立っていた人物にもう一度驚いた。

 イチローの様子に気が付いたヒカルも「どうしたの?」と振り返る。


「やっほ~♪」

 そこに居たのは、アマミだった。

 相変わらず奇抜な色合いでファッションセンスを疑うが、今日の姿は一応ちゃんとした服ではある。


 だがイチロー達がもっとも度肝を抜かれたのは彼女の服装ではなく、()()だ。

 二、三日前までは地球の言語を一切話せなかった筈のアマミが、平然と挨拶をしてきている。


「どうしたの、イルっち!」

「昨日ねぇ、ついに『言語翻訳機』が届いたんだ。見て見て」

 そう言うと、アマミは首元を見せる。

 チョーカー状の機械が、彼女の首に巻きついている。


「お陰でこの通り、大和言葉もペラペラ~♪」

 だいぶ機嫌が良いらしく、頭の毛がピコピコ動いていた。

 

「てかアマミ、お前ヒカルの事『ヒカるん』って呼んでたんだな…。となると何だ『イッチー』ってのは、やっぱり俺か?」

「イルっちは、初めてイチローと会った時からそう呼んでたよ? 可愛らしくて良いよね?」

「可愛くてよさげでしょ?」

「………」

 イチローは突っ込むのも面倒になり、牛乳を再び啜り始めた。


「おらぁガキ共、ホームルーム始めるぞ」

 教室の前の扉が開き、オニガミが出席簿を持って入ってくる。

 始業式という事でスーツ姿だが、パッツンパッツンになっている。

 体のラインが強調され、まさに肉体的にも『鬼』だ。


「あ~、諸君は今日からめでたく、二年へと進級した訳だ。留年、退学といった脱落者が現れなかった事を大変うれしく思う。だが二年生以降からは、いよいよ『クラスアップ試験』が解禁される。成績によっては『Sクラス』への昇格も夢ではなく、当然より一層厳しい日々が……」


 しかしオニガミが喋っているにも関わらず、教室は中々静かにならない。

 みんな、休み明けの再会を喜んだり今年から何をするかなどで騒いでいる。

 ヒカルとアマミも例外でなく、何処かの町の駅前に出来た新しいケーキ店の話で盛り上がっていた。


「…ゴゥルゥアーッ!! 黙らんかガキ共ーッ!?」

 痺れを切らしたオニガミの凄まじい怒鳴り声が、密閉された教室の空気を震わせた。

 それはもはや『衝撃波』の類。

 教室の窓ガラスには幾つかヒビが入り、黒板の脇に飾られていた花瓶が見るも無残に砕けて崩れる。


 イチローは意味が無いとは解りつつも両耳を指で塞ぎ、机ごとひっくり返る最前列の席に座る学友達の冥福を祈った。


「はぁ、はぁ…。良いか、お前ら? 進級出来たからと言って浮かれると………」

 オニガミは息を整えつつ、お説教タイムには入る。

 しかし先ほどの衝撃波被害で、教室に居る殆どの学生は何も聞こえていなかった。


『いい加減、入っても良いかの?』

 説教が始まって五分程たった頃、教室の外から誰かがオニガミに呼び掛ける。

 彼は何かを思い出したかの様に短く声を出すと、全員に注目する様に促した。


「今日から女子の編入生が入る。…騒ぐなよ男子共?」

 流石に、誰も騒ごうとはしない。

 と言うより、まだ衝撃波からリカバリーが出来ていない者が大半なので、『無理』と言った方が正しい。


「よし、入れ!」

 オニガミが合図する否や、教室の引き戸が開いた。


 だが入って来たのは、()()()()()

 ラーメンのどんぶり二つを上下にして、引っ付けた位の大きさと形の小型UFOだ。


『わーっはっはっ!! 心して聞くがよい! 我こそはかの有名な、偉大なる伝説の女海賊キャプテン・イナミナの子孫にして、現イナミナ家当主!』


「なッ!」

「にッ!」

「ぬッ!」

 耳なりの彼方から聴こえる高笑いに、イチロー達は思わず立ち上がった。

 それと同時にUFOの上部が開き、見覚えのある小さな少女が現れた。


「カーヤ・イナミナ改め、地球人姓『神宮(かみや) 稲美(いなみ)』じゃ」

「はぁー!?」

「えぇ~!!」

「マジでか!?」

 イチロー達は三者三様の声を上げたが、オニガミはその様子を予想していたらしく注意はしなかった。


「まぁ、そう言う事だ」

「いやいやいやいや! 可笑しいでしょ! そいつ『新人』とはいえ犯罪者! しかも調べてみましたけど『キャプテン・イナミナ』って特S級の手配犯じゃないスか!」

 イチローが指を突きつけると、カミヤは「人を指刺すでないわ、戯けが」とイチローを嗜める。


「まったく。やはり貴様は無礼な男じゃな。私は女なのじゃぞ?『そいつ』ではなく『カミヤさん』と呼ぶのが礼儀じゃろ」

「うっわ、正論だけどすっごく腹立つ!」


「『理事長』のご判断だ。拒否権は無い。‥だが、俺は悪くないと思うぞ? 更生するのにココは悪くない」

「おいおい、それで良いのかこの星の防衛認識は…」

 イチローはフラフラと椅子へと崩れ落ちる。

 ヒカルは苦笑しながら、イチローの肩に手を置いた。


「神宮には天見の『パル』になってもらう」

「え、私ですかい?!」

「お互い編入者同士。それに天見、お前はまだ固定の『パル』が居ない。ちょうど良いだろ」

「は、はぁ…」


「アマミよ」

「ん、ぅん~?」

 カミヤに呼ばれ、アマミは少し戸惑いながら微妙な返事をする。


「出会いの形はどうあれ、今日から私とお前は『ファミリー』と言う訳じゃな。共に全銀河掌握に励もうぞ!」

「ぜ、ゼンギンガショウアク…」

「‥勿論、皆の衆ともより良い()()()()を築きたく思う。日々精進するつもり故、不束者じゃが宜しく頼むぞ」

 カミヤがお辞儀をすると、パチパチとまばらな拍手が、何とも物悲しげに教室に響いた。


「神宮は、時翔の後ろの席だ」

「心得た」

 神宮はUFOに体を引っ込めると、フヨフヨ宙を舞う。

 そしてイチローの後ろ、ヒカルの右斜め後ろ、そしてアマミの隣でもある机に着陸、もとい着席した。


「それじゃあホームルーム再開するぞ。蘇我も天見も、いい加減に座れ」

 オニガミに促され、二人も慌てて着席した。


「…どう言うつもりだよ、未来の大海賊」

 イチローは椅子を深めに引き、小声でカミヤに声をかける。

 彼女はUFOから頭を鼻先まで出し、イチローを見ずに話す。


「私とて驚いておる。連行されるな否や、ここの『理事長』を名乗る女と面会させられたのじゃ。奴め『学園に来るか、刑務所に行くか、どっちがいい?』と迫って来おった。私としては刑務所送りになって、ハクを付けても良かったのじゃが…」

「なら、尚更なんで来た?」

「イチロウよ、貴様はあの時言ったな。『悔しいなら、馬鹿にした連中を見返せ』と」

「う、うーん、そんな事を言ったよう気も…」

「故に、こう考えたのじゃ。ここに来れば、免罪符の元、合法的に三下連中や裏切り者どもをボコボコに出来るとな。活躍すれば『イナミナ』の知名度も上がって、一石二鳥という訳じゃ」

 そう言って「クックックッ…」と笑うカミヤの顔は、完全に悪人顔だった。


「腹黒い奴だなお前…」

「‥そ、それにのぅ…」

 急にカミヤがどもり、調子のずれた声を出す。


「貴様にも、その…。れ、礼をじゃな? そのぉ…」

 カミヤはゴニョゴニョと歯切れの悪い言葉で何か言っているが、イチローはよく聞き取れない。


「あ、何だって? そのドンブリ、音が篭るからちゃんと顔出してくれないと何言ってるか解んねぇんだけど」

「だ、だからじゃな! ……あぁ~、もう良いわ虚けが!」

「イチイチ腹立つなぁ…」


「ねぇねぇ、ミヤっち」

 今度はヒカルがカミヤに声を掛ける。


「み、ミヤっち? ‥よもや、私の事か?」

「十中八九そうだろうな」

 カミヤがつけられたあだ名に、イチローは押し殺して笑う。

 カミヤは「笑うな!」と怒ったが、イチローのツボに入っているのか笑うのを止めない。


「神宮だから、ミヤっち。駄目?」

「駄目とは言わんが、もう少しまともな物をじゃな…」

「じゃぁ、イナミっちゃん!」

 今度はアマミが候補を上げる。

 神宮はヨロヨロUFOに引っ込み「ミヤっちで…」と、妥協した。


「‥お前等、進級そうそう俺の話を無視とは良い度胸だな?」

「!」

「!」

「!」

「!」

 話に夢中に成っていたイチロー達はすっかり忘れていた。

 今がホームルーム中、しかもオニガミが担任だと言う事を。


「放課後居残れ! 俺が直々に鍛えてやる」

「理不尽だ…」

 イチロー達の穏やか(?)な新学期はこうして幕をあけるのだった。


 最強の矛、時翔 一郎。


 最強の盾、蘇我 晃。


 変幻自在の髪 天見 亜衣流。


 絶対王者(自称)の海賊 神宮 稲美。


 この四人の物語は、まだ始まったばかりである。



「せんぱぁ~いぃ! 待ってぇー!」

「誰か止めてくれえぇぇぇ………」

 未だにどこかを走り続ける、二人の警官が活躍する日が来るかどうかは、不明だ。


《完》

皆様、こんにちは、こんばんわ、おはようございます! 335遼一でございます!

この度は「世界暦構想シリーズ ヒーローの居る町」を最後までお読み頂きまして、本当に有難うございました!

今作の内容は如何でしたでしょうか? 愉快、不快、面白い、つまらない…。

少しでも心に何かを感じていただけたのなら、これほどうれしい事はございません。

どんな形であれ、皆様方の貴重なお時間を少しでも盗める物語をお見せできたのならコレ幸い!


さて本作は元々、2009年に小説サイトのエブリスタ様(旧・モバゲータウン時代)で開催された携帯小説大賞に応募するも、箸にも棒にも引っかからず、総閲覧数も6人という大変しょっぱい結果に終わった作品でした。

しかし、初めて大賞目指して本気で書いた作品だけに「このまま潰したくない!」という想いから、2014年の冬コミにはじめてサークル参加した際に「同人誌版」として初刊行したという、あらゆる面で『初挑戦』となった思い入れのある作品です。

何らかの形で初版や同人誌版の初版を読んだ方からすると、内容にかなり厚みが増していて驚かれることでしょう(最初の頃から2倍近くページ数も増えてますw)

本作は未だに成長し続けておりますので、もし最新版である同人誌版・第三版を手にする機会がありましたら、是非とも本作との違いも確認してみてください!(同人誌版は書き下ろし追加エピソードも載ってます!!)

そしてもし宜しければ別の『世界暦構想』作品も読んで頂き、本作と他作品との繋がりや時間軸を推理してみてください!


同人誌版の公開はちょっと控えますが、ココまで読んでくれた皆様の為に、同人誌版でしか解らないネタバレをちょこっとだけ…。

①主人公【時翔 一郎(イチロー】の能力は「驚異的な腕力による強烈なパンチを無反動で撃てる&空中浮遊」。それ以外の身体能力は平凡。

②ヒロイン【蘇我 晃(ヒカル】の本名は【ソーガ・ルリエルライト・シェルカ】

③イチロー達の担任【オニガミ】の本名は【アンガード・フェルサッシュ・ライエン】

④本編には登場しなかった、イチロー達の先輩(要するに新キャラ)が2名登場する。


だらだらと語りましたが、今作はコレにて終了です。

また何時かお目に掛かれることを祈りまして…

以上、コレまでのお相手は335でした!

To Be NEXT Time バイバイ!

有難うございました! ヽ(・∀・)ノ

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