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《8》

「おい『矛盾コンビ』と天見!」

 警察と消防が到着して広場がざわつく中、すっかり火の消えたUFO内で休んでいたイチロー達に『パッパーッ!』とこの時間帯には似つかわしくない車のクラクションと、馴染みのある声が聞こえてきた。

 依然降り注ぐ大量の水の向こうから現れたのは、果たしてイチロー達の担任、オニガミだった。


「先生どうっすか? 今回はちゃんと確保してますよ?」

 イチローはムスッとした態度でそっぽを向く少女をオニガミに引き渡した。

 オニガミは少女を受け取ると、眼鏡を軽くかけ直し、厳しい表情で顎に手を当てながら「うぅむ…」と唸る。


「な、何じゃ? な、何を見ておる…」

 迫力と重みのある唸りに、少女は思わず生唾を飲み込んで固まった。


「…時翔 一郎」

 オニガミは少し改まった態度でイチローをフルネームで呼ぶ。

 真面目スイッチONの合図だ。


「逮捕時の状況を報告しろ」

「逮捕時は、えぇ~…」

 イチローはチラリと、少女に目を向ける。

 少女はイチローの目線に気付いたが、ばつが悪いのかそっぽを向いた。


「どうした、早く説明しろ」

「…彼女は、()()()()()()()()

『自首』という単語を聴き、少女は驚いてイチローを凝視する。


「彼女は俺達との戦闘後、自ら進んで投降の意思を伝えてきました。商店街の被害も比較的少なく、一般人への危害もゼロ。初犯という点を考慮して、以後の対応をお願いします」

「進級課題は犯罪者を『捕まえる事』だ。自首では逮捕にならんぞ?」

「お言葉ですが、進級課題には『捕まえる』と明記されているだけで『逮捕しろ』とは書かれてません。自首した犯人が考え直さないよう『拿捕(だほ)』していたんですから、捕まえていた事に成らないでしょうか?」

「ふぅむ…。‥蘇我、天見、お前らの意見は?」

「あ、はい! イチロー、‥じゃ無くて時翔君と同意見です」

「■◎△◎ゞ」

 オニガミは顎に手を当てて、しばし考え込む。

 

やがて閉じていた目を開け「まぁ良いだろう」と溜息混じりに言った。


「それって…、課題クリアって事スか?」

「そうだ。進級を許す」

「…っしゃぁぁー!」

 イチローはサッカーの試合でゴールを決めた選手の如く、両膝を付き、両手を持ち上げ歓喜の声を上げた。


「やったねイチロー! 来年も『パル』として頑張ろう!」

「〒ニ∀△!」

「おう!」

 イチローは両手を二人に向け、ハイタッチを要求。

 ヒカル達はそれに答え、それぞれの持つ全力で彼の手を叩いた。


 しかしヒカルとアマミ、そしてイチロー本人も忘れていた。

 彼の両手が大火傷を負っている事を。


「痛っってぇえええ!」

「あ、ごめん」

「☆¢★…」

 のたうつイチローを介抱しつつ、ヒカルとアマミは思わず噴き出す。

 「お前らなぁ!」と憤りを口にするイチローだったが、彼の顔もまた笑っていた。


「上には上手いこと伝えておく。ゴネられても()()()()()()()()()安心しろ。…ただし」

 オニガミは急に声色を変え、三人に睨み殺す様な目つきを向けた。


「この水を今すぐ止めろ馬鹿ども! 町中、断水してるだろうが!」

 イチローは消火用水の配管を破壊したつもりだった。

 しかし彼は必死になり過ぎて、生活用水の配管も全て破壊してしまっていたのだ。


「止まらなかったら、三人とも留年だ!」

「すんませんした!」

「ごめんなさーい!」

『←;仝※!』


(私は、こんな奴等に負けたのじゃな…)

「ふふっ…」

 連行される最中、少女も何故だか吹きだしてしまっていた。

 

(……私の往生際の悪い我侭に付きおうてくれて…、ありがとうのぅ…)

 車が発進して徐々に遠ざかる、ただのスクラップになってしまったUFOを、彼女は車中からいつまでも見つめていた。

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