《6》
『な、ならば…、これでどうじゃ!』
UFOの主は唸り声を発し、再び大砲をイチローたちに向けた。
『ドーンッ!』と豪快な音と共に、今度は巨大な黒い球体が吐き出される。
ただの鉄とは別の素材で出来ているらしく、見るからに硬そうで重量感が漂う。
「これは、俺の仕事だな」
イチローは両手の拳を『ガンッ』と付き合わせて走り出すと、球体に向かって飛び上がり、正面から殴りかった。
普通に考えれば、拳はおろか全身の骨が砕ける事になる。
が、衝突と同時に砕けたのは球体の方だった。
全体にヒビが入り、砕け、周囲に破片となって飛び散る。
『馬鹿な、特製の隕鉄玉じゃぞ⁈』
「残念だったな。固形物なら、俺の突きで大抵ぶっ壊せる」
「こらイチロー! 派手に壊すのは良いけど、破片の処理を考えろーっ!」
ヒカルは複数枚出現させた『リフレクター』で、商店街に少しでも被害が出ないように勤める。
地面に散らばった破片は、髪の毛を箒とチリトリに変化させたアマミによってせっせと掃除されていく。
『一つ! 戦闘後は地域美化を!』
これも学園モットーの一つだ。
『こ、っんのぅお‼』
苛立ちと怒りを含んだ少女の声を合図に、なんとUFOが変形。
大砲の数が、一気に三つに増えた。
元々のUFOの大きさから考えると、何処に収まっていたのか解らない質量。
宇宙の超技術、恐るべしである。
『私は、カーヤ・イナミナじゃ! 誉れ高き海賊『キャプテン・イナミナ』の末裔‼ 一族の再興、復権の為にも、このような所で挫ける訳には行かぬのじゃーっ‼』
三門の大砲から連続でレーザーが発射される。
一門は空を飛べるイチローを狙い、残り二門は地上にいるヒカルとアマミへと降り注いだ。
ヒカルは『リフレクター』でそれらを反射するが、流石に相手も本気を出しており、跳ね返ったレーザーを高速スライドで全て避けきる。
イチロー自慢のパンチも、UFOの不規則な動きとスピードに、接近する前に間合いから抜けられてしまう。
「チッ! アマミ、手伝ってくれ!」
「>Dv@!」
イチローの援護要請に、アマミは髪を鳥の翼の様に変化させて上空に飛び上がった。
けん制の為にアマミはUFO周囲を飛び回り、スキを見ては髪の毛ナイフで斬りかかる。
しかし大半の髪を翼にしている所為か、効果的な一撃には至らない。
決定打に欠ける攻防が暫く続き、こう着状態に業を煮やしたUFOの主はレーザーが効かないと判断して砲台を引っ込めた。
入れ替わりに現れたのは、巨大なハンマーが付いたアーム。
『光学兵器が駄目なら、物理兵器じゃ!』
UFOはコマのように機体を回転させ、遠心力任せにハンマーを振り回し始めた。
ハンマーは電柱や街灯を薙ぎ倒しながら、地上のヒカルに迫る。
この威力はいくら超人といえど、当たればひとたまりも無い。
流石にイチローも迂闊に近付けず、ヒカルも堪らずその場から離れた。
「∵∩&$、D〆÷⁉」
ヒカルを助けようと、アマミは獲物を見つけた猛禽類が如きスピードで急降下。
地上へ降り立ち、ヒカルとUFOの前に割って入った。
待ち構えるアマミにUFOの主は一瞬驚いたが『愚か者め!』と回転スピードをより一層加速。
アマミ目掛けてハンマーを振った。
だが、ハンマーは空を切る。
ハンマーが触れる寸前、アマミはスライディングでUFOの下に滑り込んだのだ。
そして髪を何十本ものナイフに変化させると、それらを一斉に振るい、目にも留まらぬ速さの斬撃をUFOに繰り出した。
髪はUFOを捉え、振り回されていたハンマーがバラバラに斬り刻まれる。
それを上空から見たイチローは「よしっ!」とガッツポーズ。
「><!」
だが顔を上げたアマミの表情が優れない。
見ると、髪の毛ナイフの刀身部分がボロボロになっているではないか。
アマミの攻撃でUFO本体は地面に落下したが、機体は依然として健在。
タイヤのように回転しながら、逃げるヒカルの後を追い続けている。
『わーっはっはっはっ! この機体は先祖代々受け継がれてきた最強の戦艦! そう易々とナマクラで斬れる訳が無かろう!』
UFOとヒカルの距離が徐々に詰まっていく。
背中にUFOの気配を感じながら、ヒカルは必死に対策法を講じる。
(僕の『リフレクター』は、何でも跳ね返せる『最強の盾』だけど、出現させる板が大きければ大きいほど、厚みが減って防御力は弱くなる。強度を保っていられるのは、僕の体と同じくらいのサイズかな?)
ヒカルは商店街中心の広場に到達すると急ブレーキで向き直り、UFOを見据えた。
(どう見ても大型トラック一台分はあるよね。ぶつかられたら防ぎ切れない…。となれば、やる事は一つ!)
ヒカルは汗ばんだ手の平を服で拭い、「ふぅー…」と長く、ゆっくり息を吐く。
そして両手の平を広げて突きだし、畳一帖分の『リフレクター』を出現させた。
だがこれまでの物とは打って変わって重量があるらしく、現れた瞬間、底面がアスファルトを砕いて地面に突き刺さった。
『戯けが!』
UFOが『リフレクター』にぶつかり、金属が擦れ合うような音が響き渡る。
その衝撃は凄まじく、ヒカルの体は『リフレクター』もろとも後方に押されていく。
UFOの重量も相まって、ヒカルは倒れそうになる『リフレクター』を全身で支えるだけでも精一杯だ。
『そんな板一枚で、この巨体は防げまい! このまま轢き潰してくれるわ!』
「ぐぅッ…、確かに、防げないよ…。……だったら‼」
『‥んなッ⁈』
さて、ここで少し想像してみて欲しい。
海外などで流行りの、スタントショーはご存知だろうか?
ショーもいよいよクライマックス、最後の催し物は巨大な車を使ったカースタント。
エンジン全開フルスロットルで走る巨大な車が、設置されたジャンプ台に向かって走っていけばどうなるだろうか?
当然、車は空へ向かって飛び上がる。
では、猛スピードで転がるUFOが、ヒカルが膝を付く事によって斜めに傾いた『リフレクター』に乗り上げたらどうなるだろう。
「受け流せば良い!」
『な、何じゃとッ⁈』
前へと進むベクトルの方向を『リフレクター』によって変えられたUFOは、スピードはそのままに空へと飛び上がった。
無理矢理方向を変えられUFOはコントロールを失い、天高く昇っていく。
「イチロー、後は任せたよ⁉」
力尽きて『リフレクター』に潰され倒れこみながら叫ぶヒカル。
「おう、任された‼」
『!』
UFOの遥か上。
いつの間にか先回りしていたイチローが右手を引いて、向かって来るUFOを待ち構えていた。
「今度は加減しないから、覚悟しろよッ‼」
『な、舐めるなぁあ‼』
機体の強度に絶対的な自信があったUFOの主は、このままイチローに体当たりする事を選び、あえて慣性に従う。
(大丈夫じゃ、この戦艦は『宇宙アダマンタイト』で構築されておる! 現に昼間は、殴られ吹き飛ばされはしたが、破壊されてはおらぬではないか⁉ 我ら一族を、護り続けて来てくれたこの機体が…)
『負けるはず無いのじゃーッ‼』
UFOはこれまで以上の速度で、イチローに突っ込んでいった。
「¥%♀£$〒ッ!」
「イチロー、やっちゃえー!」
「ぜぇりゃあああーッ‼」
イチロー渾身の突きがUFOに叩き込まれた。
『バキバキ』と何かが砕ける音が響き、UFOの動きが止まる。
『な、何故じゃ…』
UFOの機体にイチローの腕が深々と刺さっていた。
『何故じゃああああーッ⁈』
UFOは叫びと共に小爆発を起こし、煙を吐き出しながら広場へと墜落していった。