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《5》

「う、宇宙人が攻めて来たぞーッ⁉」

「みんな早く避難するんだ!」

 商店街を行き交っていた人々が思い思いの声を上げて身近な店に避難していく。

 流石は普段から襲来慣れしている町。

 商店街からはあっという間に人気が無くなり、通りはシャッター街へと変貌する。

 だが『シャッター』と言っても、普段の閉店、開店を管理するような蛇腹の薄っぺらいトタン板ではない。

 超人、異星人の戦闘の際に被害が少なくて済むよう『魔術合金』と呼ばれる特殊な製法で作られた分厚い鉄板が地面から飛び出し、店舗を完全に覆っているのだ。


「『騙す』って、何の事だ?」

 誰も居なくなった通りに、イチローの声が良く響く。


『腹を空かせた私を食べ物で釣り、油断した所で殴り飛ばした事じゃ! この鬼畜外道めが!』

 スピーカー越しの声はもっと響く。


「侵略者に『鬼畜』云々呼ばわりされたくねぇんだけど…」

『問答無用じゃ! プライドをコケにした貴様だけは許さ、』


『そこまでだ、宇宙犯罪者‼』

 またもやスピーカーを通した声が響く。

 今度も女性の声だ。

 しかし、こちらはUFOの主よりもずっと大人びてしっかりしており、何よりイチローにも聞き覚えが無かった。


『な、何奴じゃ⁈』

 UFOはその場で何度も旋回し、周囲をうかがう。

 イチローたちも辺りを見渡すが、声の主はなかなか見つからない。


「は~い、ちょっと通りま~す」

 突然、何処からともなくビン底メガネをかけた婦人警官が現れ、イチロー達の前を 通り過ぎた。

 ボサボサ髪のツインテールを揺らし、何か大きな機械を乗せた台車をガラガラと音を立てながら押している。


「あ、すいません。この辺にコンセントってあります?」

 イチロー達から少し離れた場所で立ち止まったビン底婦警は、機械の電源であろうプラグを持ってイチロー達を振り返る。


「あ、それならそこの自販機の裏にありますよ」

 ヒカルがそう言うと、アマミが矢印のような形に変化させた毛先をコンセントがある建物の壁面に向けた。


「これはご丁寧に。有難うございます」

「いえいえ、お巡りさんに協力するのは『ヒーロー』の責務ですから」

 この状況にも関わらず、呑気に挨拶を交わすヒカルとビン底婦警。

 UFOはと言えば、いまだにグルグル旋回し続けていてこのやり取りはおろか、ビン底婦警の存在にすら気付いていない。


「えぇ~とぉ……。あ、あった! よいっしょ!」

 ビン底警婦警がヒカルの言った場所にコンセントを差し込む。

 すると数回の点滅の後、機械に強烈な光が灯り、真っ直ぐな光の帯が商店街を駆け抜けた。


『この世に悪がいる限り、正義のライトが闇を切り裂く!』

 光によって照らされた商店街の始まりを意味するアーチ。

 その上に、拡声器片手に天を指差す一つの人影があった。

 コートらしき物を羽織っているらしく、それが長い髪の毛と共に夜風にたなびいている。

 流石にUFOも気が付き、光に照らされた人物の方を向いた。


『背中に背負った桜の代紋。見せてやります意地と誇り!『地球警察機構 尾ノ枝支部 対宇宙犯罪対策課』巡査、羽羽(ハバネ) (ツバサ)!」

『ハバネ』と名乗った女性は最後に「参、上‼」と叫び、ビシッとポーズを決めた。


『………』

「………」

「………」

「………」

 UFOの主はおろか、イチロー達までも言葉を失った。

 こんな登場の仕方をする奴が実際に居る事に対し、どう反応すれば良いのか一様に困ってしまう。


「よっ! 先輩、決まってますよ!」

 ただ一人、ビン底婦警だけは拍手喝采だった。


『さぁ、宇宙犯罪者! この私が相手だ‼ ‥と、その前に……』

 ハバネは拡声器の肩掛け紐に腕を通すと、アーチの上を落ない様にヨロヨロ移動。

 右端にたどり着くと、アーチを支える支柱の一本にしがみついて、ズルズルと地面に降りてきた。

 そしてアーチの真下に陣取ると、何故かもう一度ポーズを決める。


 よぉ~く耳を済ませると、また何か決め台詞を言っているようだが、拡声器無しでは何も聞こえない。

 挙句の果てにはその場にしゃがみ込み、お尻りを突き上げ、ちょうどリレーのクラウチングスタートのような体勢をとる。


「×B¿τ…」

「カッコ悪い…」

「なにがしたいんだ、あの人…」

 恥ずかしげもなく繰り出される台詞の数々に、格好良いとは言い難いポーズと、痛々しいハバネの行動は見るに堪えなかった。


 だがイチローたちが呆れていたのも、ここまでだった。

 突如、ハバネが『常人』には有り得ない猛スピードで走り出したのだ。


「は、速い!」

 イチローは素直に驚く。

 超人の彼が『速い』と感じる程そのスピードは凄まじく、イチローの知り合いにもこれほどまでに素早い者はそうそう居ない。

 UFOの主もこれには驚き、慌てて大砲でハバネを狙うが、狙いを定めようにも砲台の機動力がどう頑張っても追いついていなかった。


『こ、コッチに来るな!』

 焦りからUFOは大砲を乱射。

 イチロー達を捕まえているのと同じであろう緑色の物体が、道のそこかしこに撒き散らされる。

 だがハバネはその全てを滑るように避けていく。


 いや、実際に『滑っている』のだ。

 ハバネは足に機械仕掛けのブーツを履いており、靴底に付いたローラーが時折火花を散らせて回転していた。


「はっはーっ! 技術部の発明も、たまには役に立つ! さぁ行くぞーッ!!」

 ハバネはさも愉快そうに笑うと、更に加速。

 遂にはUFOの真下へと潜り込んだ。

 UFOの砲台は直ぐさま真下へと向けられるが、到底間に合わない。


 ところがだ。

 散々UFOを翻弄して近付いた筈のハバネは、何もせずにそのまま通過。

 商店街の出口へと向かっていく。


「せ、先輩⁈ どこへ行くんですか!」

「止まり方がわからあぁぁ~………」

 ハバネの姿はあっと言う間に小さくなり、やがて商店街から、消えた。


「………」

「………」

「………」

 イチロー達はゆっくり首を動かし、隣のビン底婦警を見る。

 彼女は暫く呆然としていたが、イチロー達の目線に気が付くと「ははっ」と乾いた笑いを口にする。


「し、失礼しましたー!」

 ビン底婦警は大慌てでプラグを引っこ抜くと、台車を押して逃げ去っていった。


『……これが、この星のコメディか?』

「違うぞ。断じて違う」

 イチローはこの星の一住人として断固否定する。

 間違った認知をされては、コメディ業界の()()()()()()に関わる。


『えぇい、こっちは真面目にやっておるんじゃぞ⁉ それをこのような戯れの一部に使うとは、どこまでも馬鹿にしおってぇ…』

「だから違うっての」

『こうなったらぁ、とことん思い知らせてくれる‼』

 UFOの砲台が再びイチロー達を向く。


「ちょ、ちょっと待て⁉ 今のに関してはホントに俺達関係ないだろ‼」

『連帯責任じゃ戯けがぁ⁉』

 飛行機のジェットエンジンが回転時に発するような『キューンッ』という音と共に、大砲の銃口に青白い光が集結してゆく。


「理不尽だな畜生め⁈」

 光は瞬く間にUFOと同じ位の大きさまで肥大し、極太のレーザーと成って三人に襲い掛かった。


「『リフレクター!』」

 レーザーがイチローの髪の毛先を焦がしたその時、ヒカルが大声を上げる。


 その瞬間、三人の頭上に半透明のアクリル板のような物が突如現れた。

 レーザーは板にぶつかると進行を止め、そればかりか発射元であるUFOへと跳ね返る。


『なッ⁈』

 UFOはそれを避けようと後方に移動するが、少し掠りバランスを崩した。


「ふぃ~…。ギリギリセーフ」

 ヒカルが安堵の声を漏らすと、板は空気に溶けるように消えた。


『なっ、なな…』

 訳が解らないと言いたげに焦るUFOの主に対し、ヒカルは得意気に鼻で笑った。


「宇宙は広いんだよ? 僕の故郷の星は『魔術』の発達した世界なんだ♪」

「よく言うなぁ。それと『体重変動の術』ぐらいしか覚えてない癖に…」

「う、五月蝿いな…。『パル』にそういうこと言うなよ!」

 ヒカルはハムスターよろしく、頬を膨らませて不機嫌そうにイチローを睨む。

 相変わらず可愛らしい表情なので、イチローは別の意味でダメージを受けた。


『ふ、ふん! 防ぐ事は出来ても、その状態では手も足も出まい? なにせその拘束液『トリモチX』は一度外気に触れれば、たちどころに固まり、表面は鋼の如く、内部は羽毛の如く柔らか。宇宙象が踏んだとて、決して壊れる事は、』

「ふんっ!」

 UFOの自負した強度とは裏腹に、イチローの左腕は草餅からあっさりと飛び出した。


『ば、馬鹿なッ⁈ 宇宙通販のレビューには、確かに『絶対壊れない』と!』

「通販の触れ込みを鵜呑みにすると、残念な結果になんぞ。‥それと生憎、俺の突きは宇宙象より強い」

 イチローは更に右腕を外に出すと、草餅を引っ張る。


「あはは、雪だるまみたい」

「喧しい。‥ん? でも確かに、外側からだと結構硬いな…」

「千切れそうに無い?」

 ヒカルの問いにイチローは「出来なくは無い」と答えたが「でも時間の掛かる硬さ」と続けた。


「それなら…、イルっち!」

「9*∋※□⇔!」

 アマミが頷くと、彼女の髪の毛が別の生き物のごとく蠢きだし、たちまち結集。

 ナイフのような形へと変形した。

 彼女はそれを巧みに操り、自分の体を包む餅を切り刻み脱出。

 その後、イチロー達を助け出した。

 UFOの主は目の前の出来事が信じられず、先ほどから「な」の一文字を繰り返すことしか出来ない。


『……なっ、何なのじゃ…。何なのじゃ貴様らはッ⁈』


「『超人』」

「『超人』だよ」

「Hゎβцф∑!」

 三人は同時に顔を上げて、ふてぶてしく笑ってUFOにそう言い放った。


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