清洲攻略戦・その三
「降伏しますかね?」
「しないであろうな。一戦交える前に降伏したとなれば、臆したと謗りを受けるのだ」
両軍清洲が見える位置で対峙していて、信友は重臣達に降伏を促す使者を送ったらしい。
信友自身も好きで降伏した訳ではないのだろうし、本音では切っ掛けを作った坂井大膳を恨んでるかもしれないな。
良いか悪いかは別にして、自分の為に仕えていた家臣なのだし降伏させたいと言うのが、信友の最後の家臣への義理なのだろう。
ただ近くに居た佐久間信盛に聞いてみたら、降伏は期待できないらしい。
使者は戻って来たが、敵軍は降伏する気配さえない。
「我は河尻与一! 久遠一馬は居るか! 一騎討ちで勝負を致せ!」
「……はい?」
戦になると決まり信長の陣に居た重臣達が、それぞれの兵のところに戻ろうとした時自体は動いた。
敵軍から一人の武士が単身姿を現すと、まさかのオレをご指名なんだけど。
「今時一騎討ちなど、くだらぬことを」
「弓でもいいんですかね?」
「行く必要はないぞ。謀ならばどうするのだ。奴らはお前が死ねば、勝てる可能性はあると考えているのだ」
本当にまさかの事態に、信長は苦虫を噛み潰したような表情で怒りを露とした。
行かねば所詮は商人と馬鹿にして指揮を上げて、行けば一か八か一騎討ちか。
「行きますよ。ここで逃げたら、今後に響きますから」
「本気か? 勝てる戦なのだぞ?」
「まあ、多分大丈夫ですよ」
信長を始めとした周りには、明らかに心配されてるよ。
確かに戦国時代とはいえ、片方に都合が良い一騎討ちなんて応じる義理はないからね。
流石に弓だとダメっぽいから刀でいいか。
オレもそろそろ覚悟を決めなきゃダメだと思っていたから、ちょうどいい機会かもしれない。
この先は信じてくれてる部下を死なせるかもしれないし、命を奪い奪われる覚悟は必要かもしれないって、牧場が襲われた時から考えてたんだよね。
「殿。これを」
明らかに不満そうな信長だが、流石に止めなかった。
信長の陣を出て河尻与一のところに行こうとしたら、何故か慶次が近くまで来ていて赤い朱槍を手渡される。
「よく分かったな」
「某も無視すべきだと思いまする。されど殿なら行かれるだろうと」
某漫画ほどではないがへそ曲がりの慶次だけど、こういう時にこういうことされると本当凄いなって思う。
慶次の槍はかなり重い。多分特注品だろうね。
「一益に伝えて。謀ごとならば大砲を敵軍のど真ん中に撃つようにって」
エル達は止めなかった。
信じてくれてるのか、呆れてるのか。
あいにくと生体強化してるから、正々堂々とした一騎討ちじゃないんだけどね。
オレが出ていくと味方も敵もどよめきが起きた。
出ていかないと思われたのかな?
戦争で一騎討ちなんて馬鹿げたこと、これを最後に止めさせたいね。




