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宗久。ラーメンを食べる

「ほう。これはまた珍しい。明の料理は何度か頂いたことがありますが」


 野点も終わりお昼頃になると、信長は宗久を那古野城下のラーメン屋に連れて来た。


 堺なら明の人間も居るのだろうし、宗久ほどの立場になると何かしらの明料理を食べたことがあるみたいだけど、流石にラーメンには驚いたみたいだ。


「これはうちで手を加えてるので、本場のとは少し違うでしょう。汁そばを再現しただけですから」


「素麺やうどんは食べたことがありますが、これは全く違いますな。そもそも味が何か、ひしおか味噌たまりのような調味料のようですが」


 流石に宗久。素麺やうどんは食べたことがあるんだ。


 でも出汁を取って作る醤油ラーメンの味は初めてだろう。


 醤油自体はまだ尾張でも生産出来てないから、宗久に売るわけにいかないけどね。


 今日は猪肉のチャーシューもあったけど、宗久は普通に頼んで美味そうに食べてるよ。


 肉に対する抵抗ないんだね。


「久遠様。これの味は一体何を使っているのか、聞いても宜しいでしょうか?」


「申し訳ないのですが、それは我が家の秘伝の調味料でして。ただ尾張でも作らせているので、いずれ今井殿の手にも入ることになるかと思います」


 宗久はかなり醤油の味に近付いてるけど、下手に教えると堺辺りで大量生産されそうなんだよな。


 熱田の味噌商人が頑張って造っているから、最初くらいは彼に独占させてやりたい。


 消費量が増えれば、嫌でも製法は広めなきゃだめだろうけどさ。


「これはいいですな! これで魚を煮付ければ、さぞ美味しいでしょう」


「では今夜は、この調味料を使った料理にしましょうか」


 どうも宗久は醤油を気に入ったみたい。


 普通に食べたい物を喋っちゃってるよ。


 現在醤油を使ってるのはうち以外だと、このラーメン屋と那古野城と末森と平手政秀しか居ない。


 信長が欲しがったので信長と信秀に献上してる以外は、世話になってる平手政秀に個人的に譲ってるくらいだ。


 堺の会合衆でもこれだけは手に入らないだろう。


 和食はあるが醤油のないこの時代では、味付けは塩か味噌が基本だしね。


 醤油があれば劇的に和食も変わる。


 ただ、ここまで来ると鰹節も欲しいね。


 これもこの時代には、まだ未来のような鰹節は無かったはず。


 鰹って太平洋沿岸で捕れるはずだし、鰹漁をさせたら尾張でも作れるんだよな。


 少し考えてみるか。





「尾張は変わりますな。十年、いや五年で変わるかもしれませぬ」


「十年や五年あれば堺も変わろう。そなたのような者が居るのだ」


「某は会合衆ですが、まだ若輩者。たいしたことは出来ませぬ」


 宗久はラーメンのスープを最後の一滴まで飲み干すと、至福の表情で尾張は変わると突然言い出した。


 しかし信長は油断してない。


 堺の力はよく知っているのだろう。


「それに幕府の争いは、終わる気配さえありませぬ」


「そなたにとっては、その方が良いのではないか?」


「若様。私は確かに武具を扱っておりますが、自ら戦乱を望んではおりませぬ。戦乱が終われば、また別の稼ぎを見つけるまでのこと」


「ふむ。天下の堺の商人も苦労しておるようだな」


 油断はしては居ないが、信長は宗久という男を見極めようとしている気がする。


 敵になるのか味方になるのか。


 少なくとも今の宗久の言葉に嘘はないとオレは思う。


 武力も権威も持たぬ堺の商人が、あの荒れた畿内で生きていくには並大抵の苦労ではないのだろう。


 まあ商売のやり方が未来の視点で見て、良いか悪いかは別だけど。



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