宗久の旅路
side・今井宗久
「なんと賑やかな町だ」
堺を出て船で津島に来たが噂以上に賑やかだ。
町の規模は堺や大湊には及ばぬが、諸国からの商人が集まって来てるではないか。
何人かは堺にも来ている商人で大名のお抱えの商人もいる。
残念なのはやはり町が小さいことか。
諸国からの荷が集まるには港も町も小さすぎる。
元々木曽川の水運の湊故に仕方ないのだろうが、港と町を大きくすれば更なる発展するのではなかろうか。
あいにくと噂の南蛮船は無いが、人々の顔を見ればいかにここが景気がいいかよく分かる。
「主よ。蜂蜜酒はあるか?」
「ありますよ。少々値が張りますけどね」
「うむ、一杯貰おうか」
港の近くに飯屋があったので、噂の蜂蜜酒を求めて入ってしまった。
堺にも少し入って来たらしいが売るほどの量がなく、私もまだ飲んだことがない。
津島では少し高いが町の飯屋で飲めるのか。
「店主。あれは魚か?」
「ああ。久遠様の命令で干した魚だよ。何でも出汁を取るのに使うらしいが、うちじゃ焼いてつまみに出してる。結構美味いんだこれが」
店内を見渡してみると、小さな魚を焼いた物を食べてる者が多い。
聞けば噂の南蛮船の主が大きな網を持ってきて、津島の漁師に魚を捕らせてるらしい。
出汁に使う為に小さな魚を独自のやり方で干してるそうだが、津島では安く手に入るので酒の肴やおかずとして人気なんだとか。
ついでに頼んでみるが、さほど目新しさはないが確かに美味い。
少し甘い蜂蜜酒とは合うとは私は思えないが、塩気がありほろ苦い小魚の干物と甘い蜂蜜酒の組み合わせで頼む客が多いらしい。
蜂蜜酒は甘さが何より驚きだが、酒精がしっかりしていて美味い。
これは京に持っていけば売れること間違いない。
だが蜂蜜酒は久遠家でしか作ってなく、今のところ京に売るほどの余裕はないようだ。
津島の商人や店には優先的に売るらしいが、領外に売るにはそれなりの商人が纏めて売っているようだ。
尾張国内と美濃に長島や駿河が主な販売先だという。
これが自国と隣国で売るので精一杯だと取るのか、それとも自国と隣国を優先してるかによって話は変わってくる。
商売を通じた情報の流れは決して馬鹿に出来ない。
理解しておらぬ大名も居るが、織田弾正忠家は理解してるのだろうか?
このまま津島を中心に物の流れていけば、織田弾正忠家が得るものは計り知れないだろう。
今川に北条など東国の大名も、力と銭がある大名は居るのだ。
堺では距離が遠くて勝てぬな。
大小様々な関所や水軍の通行料に、港の入港料も馬鹿にならない。
「これは安いな」
「うちは久遠様から直接売ってもらってるからな」
他にも津島の町では絹織物や綿織物が安い。
あちこち見て回り分かったのは、久遠様という人が津島や熱田の商人達に売って、商人達から諸国に流れていくということだ。
これは脅威かもしれない。
利益を織田弾正忠家と久遠家で独占してしまえば、商いの規模はたかが知れてるが、津島や熱田の商人を巻き込むことで商いの規模が桁違いに大きくなっている。
知っていると見るべきだな。
物と銭の流れが生む力を。
いずれ津島は伊勢湾の物の流れを、支配する時が来るかもしれない。
織田弾正忠家の若様はうつけだと聞いたが、本当なのだろうか。
少なくとも尾張の一地域を治める規模で終わるとは思えぬのだが。




