南蛮料理?
「お待たせしました。食事の用意が整いました」
オレが宗久の前に再び姿を見せたのは、食事の用意が出来た時だった。
宗久は信長と平手政秀相手に畿内や西国の話をしていたようで、情報が伝わりにくいこの時代においては何よりの土産だろう。
「ほう。これは何だ?」
「真ん中のはカレーという天竺料理です。白身の魚は鯛のソテー。左の物は海老を揚げた物です。そちらの二つは南蛮船の故郷の料理を元にしてます」
「これは私も初めて見ました」
メニューは仏教の生まれた地の料理で未来では国民食とも言われたカレーと、鯛のソテー梅干しソース掛けに、那古野と言うことで海老フライに野菜とチーズのサラダを作ったんだ。
カレーの味はある程度この時代の人を意識しつつシーフードにしていて、ソテーにした鯛はこの時代でも高級な魚だからね。
ソースに梅干しを使ったのがポイントみたい。
食べるのは信長・平手政秀・宗久に、オレを加えた四人になるようだ。
ああ、お酒は白ワインを出している。
「これはまた、かなり香辛料を贅沢に使ってますな」
「天竺の辺りは香辛料が産物なのですよ」
信長と平手政秀は家で珍しい物を食べてるので、抵抗がないみたいで普通に食べてるけど。
宗久はカレーを一口食べると匂いと味から、香辛料がふんだんに使われてることに気付いたみたい。
この時代って香辛料も馬鹿高いんだよね。
「不思議な味だが癖になるな」
「はあ。実に不思議な味ですが、癖になりまする」
「辛くて美味しゅうございます。されど使われた香辛料の種類と値段を聞いたら、怖くて食べれなくなりそうです」
信長達と違い相手は本物の南蛮人を知る宗久だからね。
このくらいインパクトがないと驚かないだろう。
「味付けは多少この国の人に合わせてます。なので本当の南蛮料理とは少し違いますけどね。そもそもこの国の人は南蛮と一括りにしますが、実際には数多の国がある訳でして。私も口に合う物も合わぬ物もありますから」
ただ、ちゃんとオリジナルと違うよと教えておかないと、堺に帰って変な勘違いされても困るしね。
「堺では南蛮料理はないのか?」
「流石に料理は……。南蛮の酒や砂糖菓子は少し頂いたことがございますが、酒はこのような美味しい物ではなかったです」
「某はこの梅干しで味付けした鯛が驚きですな。馴染みある梅干しがこれほど変わるとは」
宗久の表情から余裕が消えた気がする。少しやり過ぎたか?
でもこの人相手に手を抜いたら、いい結果にならない気がする。
こちらの力を見せ付けないと、裏でこそこそされたら面倒だし。
平手政秀は鯛のソテーがお気に入りか。
馴染みの味付けにしたことで、抵抗感がないみたいでよかった。
海老フライも初めてのようでみんな驚いてるね。
揚げ物はこの時代でもあるみたいだけど、油がまた高いから高級品になるしパン粉もまだ無いだろう。
「いや、堺はこの国で一番進んでいると自負しておりましたが、尾張の方が進んでおりますな。このカレーに入ってる芋も知らぬ芋ですが、美味しゅうございます」
「進んでいるのは久遠家だけだ。あとは堺の方が進んでいよう」
「最後に食後の菓子を用意しました。干した果物のケーキです。南蛮船の故郷の方では、食事の最後に菓子を食べるようですから」
そして最後のデザートは、ドライフルーツとブランデーを使ったケーキだ。
「うむ、美味い」
「これは干した果物に酒か何か入ってますか。素晴らしい」
甘党の信長は最後に菓子が出てきて満足げだし、宗久は見知らぬドライフルーツと酒のケーキに驚くのも忘れるほど美味そうに食べてる。
さて歴史に商人として名を残した今井宗久は、この料理をどう受け止めるかな。
しかし明日も作れと言われたら悩むな。
魚の南蛮漬けとかパエリアでも作ってやろうか。




