評定初体験
「信友が坂井大膳の首を送ってきたぞ。謀反人だそうだ」
「死人に口無しということか」
「一応これでわしと一馬の面目は立つからな」
解き放った間者が雇い主の坂井大膳を殺したのにも驚いたけど、信友がそのまま坂井大膳の首を送ってくるとは。
出来れば首ではなく更なる混乱で、清洲の人材が離反して欲しかったんだけど。
せっかく一益が気を利かせて首を取らなかったのに。
「そのことなのですが、清洲は割れるかもしれませぬ」
「五郎左衛門。どういうことだ?」
「今回の件を、坂井家の者が納得しておりませぬ。特に坂井甚介が不満を露にしてるようでしてな。すでに戦支度を始めており、信友に首の返還と犯人の捕縛を求めておりまする」
この日はいつものメンバーではなく、信秀と信長が上座に座り織田弾正忠家の重臣達が集まる評定の席にて話し合いが行われてる。
オレは本来出席する資格がないんだろうが、当事者と言うことで呼ばれたらしい。
流石に坂井大膳の首が送られてきた以上は、正式な評定を開き家臣に説明しなくてはならないのだろう。
「清洲が割れるか。さてどうするべきか」
「殿! 好機ですぞ! 討って出ましょうぞ」
「しかしこちらが出れば、清洲は纏まるやもしれんぞ?」
「いっそ久遠殿の行っている医術の治療を、清洲の者に限って拒否しては? そうすれば領民の恨みは信友に向かいまするぞ」
「いや、拒否するのは武家だけにした方がよい。せっかくこちらに靡いておる領民を敵に回す必要もあるまい」
信秀が重臣達に話を振ると、彼らはあれこれと意見を口にしていたが、信長は表情を変えぬまま聞いてるだけだ。
あまり評定に慣れてないのか?
最近まで家中にうつけと陰口を叩かれていたからな。
気を許してないようにも見える。
オレ? 一応端に座ってるけど何も話す気はないよ。
そんな身分じゃないし。
「一馬。如何したい? 狙われたのはそなたの奥方だ」
「僭越ですが。一言。戦の支度をして矛を収めぬ態度を示しつつ、今しばらく様子を見てはいかがでしょうか。この様子ではまだまだ混乱するのでは? 患者はお許しが出るのならば、当面は現状のままにしとうございます」
出来ればこのまま静かに評定を終えたいのに、重臣達の意見がで終わると信秀に指名されたよ。
「久遠殿の治療は評判がようございます。確かにこちらから変える必要は、まだ無いかもしれませぬな」
「しかし危険ではないか? 奥方を危険に晒す必要もあるまい」
「その辺りは人を配して、刀などは診る前に取り上げるしかあるまい」
「続ければ続けるだけ、清洲の領民の心はこちらに傾く。信友が嫌がるのは続けることでしょうな」
重臣達のオレへの反応は思ったほど悪くない。
大半が様子見なのだろうが、少なくともよそ者の商人風情がと見てる者は居ないらしい。
まあお酒とか結構ばら蒔いたからか、南蛮船の神通力か。
「良かろう。首は信友に送り返してやるわ。そもそも一連の件が坂井大膳の単独行動だとは、誰も思っておらぬしな。矛を収める必要はない」
最終的に信秀は坂井大膳の首を信友に送り返すことで、矛を収めぬと態度で示すことにしたようだ。
重臣達は気付いてるか知らないが、信秀は清洲を取る気だからな。
と言うことは守護の斯波武衛と信友の離反工作は必要か。
エルの計画通りに進めるべきだね。




