間者の扱いと心理戦
「たわけが」
「若。久遠家の兵を増やしまする」
末森から戻ると慶次からケティとパメラが狙われたと知らせを受けた信長は、怒りの表情で苛立っちゃったよ。
平手政秀は即座にうちの警護の兵を増やすことを進言して動き出した。
「若様。間者はこちらで頂いて宜しいでしょうか?」
「寝返らせる気か?」
「はい。首をはねても利はありませんので」
「良かろう。好きにせよ」
信長はすぐにでも首をはねさせようとしたのかもしれないが、その前にエルは間者を寝返らせることにしたみたい。
出来るか出来ないか分からないけど、首をはねても相手にダメージないだろうからね。
「資清。悪いけど間者を寝返らせてくれないか?」
「殿。口先だけで逃げ出すだけに御座います」
「それでもいいよ。うちは人を差別する気はないんだ。ちゃんと人として話を聞いて、可能性があると思えば解き放ってくれ。責めは負わせないから。多分私やエルじゃだめなんだよね。相手を理解出来ないから」
「畏まりました。ただ、あまり期待しないでくだされ」
「わかった。銭や医者が必要なら言ってくれ」
信長から預かった間者は少し無責任かと思わなくもないけど、資清に任せることにした。
オレやエル達は、この時代の間者をするような人の苦しみを理解してないだろうからね。
態度や言葉の節々にそれが現れると、多分上手くいかないだろう。
「上手くいくのか?」
「正直どっちでもいいんですよ。間者にも慈悲を持って接したと、向こうの間者達に伝われば」
資清がすぐに牢屋に行くと信長は無理ではないかと言いたげだけど、オレやエルは今回の間者がどっちに転んでもいいと考えてるんだよね。
「こういう言い方は怒られるかもしれませんが、下手に権威やらに拘る武士より扱いやすいはずですよ。甘いと思われるかもしれませんがね」
「そこまで考えてるなら構わん。領民の治療とて、誰もこんな結果は予想出来なかったのだ。甘いと清洲に笑われたところで問題なかろう」
信長はオレ達の真意を聞くと納得してくれた。
武家としては妻を狙った間者を逃がすのは、メンツが立たずに愚かとしか見られないだろう。
でもオレのメンツが立ったところで、特に得るものはないんだよね。
これはもうすでに戦だから、心理戦を仕掛けることに向こうは気付くかな?
「しかし、これで策の第一段階は済んでしまいましたね。向こうの領民に噂が広まるのが楽しみですよ」
「那古野に清洲から人が来るかもしれぬな。受け入れる準備をさせるか」
「無理に止めたら面白くなりそうですけどね」
「そこまで愚かではなかろう。人の少ない農村ならいざ知らず、清洲でそれをやれば一揆が起きるぞ。何もしてないオレまで拝まれてるのだからな」
状況はこちらに有利に進んでるけど、領民の感謝は逆に怖い部分もあると信長は気付いたみたいだ。
致し方ないと思えばいいが、私利私欲で領民から医者を取り上げたら収拾がつかなくなるかもしれない。
紙一重でその怒りはこちらに向いてもおかしくはないから、本当笑ってられないんだよね。
でも領民の支持は欲しいし本当武士は難しいよ。




