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一馬家臣にされる

「そうだ。かず。屋敷を与えるゆえ那古屋に来い」


「ここの方が海に近くて便利なんですけど?」


「ならん」


「そう言われましても。オレ武士になんてなりませんよ」


 ガツガツと飯を食ったら分厚く切った羊羮を手づかみで食べる信長はなんの前触れもなく、またおかしなことを言い始めた。


 人の家の場所を勝手に変えないで欲しいんだけどこの時代は信長の方が普通なんだよね。


「何故だ!」


「何故って武士になる意味あります? 今でも不自由ない生活してますし、苦労するのが目に見えてるのに」


 なんとなくこうなるのは分かっていたけどやっぱり武士になる気はないんだよね。


 悪いけど苦労する割に見返りがない。


 というか信長とお供の皆さんビックリした顔でこっち見ないでよ。


「そもそも若様は何がしたいんです? 銭が欲しいなら今後も協力しますよ。それでは不足ですか?」


「足りぬ。新しき世を作るにはな」


「それ地獄への一本道ですよ。苦労に苦労を重ねても新しい世を束ねるのは若様でも織田家でもないかもしれない」


「構わん。何故かまでは知らぬがお前達には見えてるはずだ。親父よりオレよりもな。オレに仕えてその先を見せろ」


 いつの間にか静まり返っていた。


 お供の皆さんもエルもジュリアもケティも無言で若様とオレを見てる。


 せっかちで短気なのに無礼な言葉にも怒る気配すらない。


 ここで無礼者と怒り刀を抜けば歴史は恐らく史実に近い流れになるのかもしれない。


「私は武士らしく出来ませんよ」


「構わん」


「一つだけ条件があります。土地は要らないんで禄や褒美は現金か権益かなんかで下さい」


「何故土地は要らぬのだ?」


「手間がかかる割に儲かりません。それに土地なんか与えるから簡単に裏切るし勝手に戦なんかするんですよ。幕府がいい例じゃないですか。もう今までのやり方じゃダメなんですよ」


「よかろう」


 この時オレは氏素性のはっきりとしないあまりに横柄な態度と言葉にも関わらず、それを即決で受け入れる大名はどれほど居るだろかと考えてしまった。


 お供の皆さんは理解出来なさすぎて頭から煙りが出そうな表情にも見える。


 非常識どころではない。


 受け入れた信長は本当にうつけとしかこの時代の武士には思えぬだろう。


「苗字を与えよう。今日からお前は久遠と名乗るがいい。久遠一馬とな」


 この人は本当に天才なのかもしれない。


 エル達もまた驚いている。


 久遠。その意味は長く久しい。そして遠い過去または未来。


 オレが最初に造ったアンドロイドのエルの名前もまたエターナルからエルと名付けたことを思い出した。


 元は確か仏教用語だし偶然かもしれないが偶然を必然に変えるのが織田信長という人なのかもしれない。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


後の世で織田信長はこの日三顧の礼で久遠一馬を召し抱えたという逸話が何処からか広まりドラマにまで使われるほど有名な一幕となるが、それは中国の三国志をモチーフにした創作だと言われることになる。


しかし信長公記にはこの日までに信長が何度も自ら津島に赴いていたこととこの日に召し抱えたことは記されていて、そこには常人には理解出来ぬ二人だけの会話があったとだけ記されることになる。





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