静かなる怒り
side・ジュリア
「次の人」
本当、最近患者増えたわね。
農民ばかりか武士や僧侶まで居るわ。
ケティだけじゃ間に合わないからパメラまで呼んだけど、すぐに焼け石に水になりそうね。
滝川家の女達が、患者の整理とカルテ作りまでしてくれなきゃ混乱するくらいだもの。
そのうち落ち着くと思いたいけど、どうなるのかしら?
「慶次」
やっぱり来たわね。
患者に混じってやって来た貧民風な男。
明らかに緊張と殺気がある。
身体の動きや目や顔の筋肉の動きで、人の考えなんてある程度分かる。
ケティやパメラは自分の身は守れるけど、他の患者や滝川家の女達など大勢の人が居る以上警護は必要だわ。
警護にと連れてきた慶次に一声かけると、彼は全てを理解したようで貧民風な男の背後に回った。
武芸は天分の才があるし、ケティの書いた医療の教本を読んだせいか医療の初歩中の初歩知識はすでに覚えたみたい。
人当たりもよく何かと気が利くので、患者として来ている人達には人気があるのよね。
「は~い、何処が悪いのかな?」
「お命頂戴する!」
よりによって貧民風の男はパメラのとこに回されたわ。
医者の貫禄ゼロなパメラに貧民風の男は一瞬戸惑ったみたいだけど、結局医者には代わりないと隠し持っていた短刀を胸元から抜いた。
「ヒィ!?」
「ここは人の命を救うとこだ。お前さん何処の間者だ?」
その瞬間回りの患者とパメラの助手をしていた女が固まり小さな悲鳴をあげたけど、慶次があっさりと腕を掴み捕らえた。
本当にあの漫画みたいな男になりそうね?
「オラ知ってるだ! こいつは清洲の男だ!」
「坂井様のとこに出入りしてる奴だ!!」
慶次のやつ、わざと捕らえた男を回りの患者に見せるようにしたね?
「ほう。清洲か。清洲の殿様は医者を殺そうとしたのか?」
「知らん! オレは何も知らん!」
「舌を噛む気か? そんなことさせんよ。きっちり誰に頼まれたか吐いてもらうからな」
男は暴れるけど慶次には未来の捕縛術や関節技とか教えたからね。
素手でもあの程度の間者に遅れは取らないよ。
「慶次。悪いけどそのまま城まで連れて行っとくれ」
「心得えました」
慶次はそのまま舌を噛まぬように口に布を入れて縛ると、抱えるように城まで連行して行った。
問題はこれからなんだよね。
「なんでお医者様を……」
「清洲の殿様は末森の殿様が気に入らないのさ」
「オラ達にはお医者様にかかるなって言うだか!」
「農民のことなんて考えてる訳ねえだろ」
「酷いだ……」
患者達は目の前で医者が命を狙われたショックを受けてるよ。
まあ連中からしたら、本当神様の如く涙ながらに祈りながらお礼を言う人も珍しくないから、当然なんだろうけどね。
「は~い、私達は大丈夫だからみんな落ち着いてね? 診察続けるよ!」
ショックの涙は怒りに代わり爆発しそうにも見えたが、そんな雰囲気をぶち壊したのはパメラだ。
あの子も微妙に空気が読めないからねぇ。
でもこれは、このまま終わらないかもしれない。
下手すると一揆でも起きるよ。
全く。司令とエルに伝えないとだめだね。




