医者と清洲
「これ薬。ちゃんと飲むのこと」
「今度は悪くなる前に来てね!」
「ありがとうございますだ」
秋が深まるとケティの噂は更に広がったのか、患者は清洲や津島に熱田など尾張の各地から集まるようになり始めた。
「……かず。また新しい奥方か?」
「ええっと。まあ」
少しケティが忙しくなり始めたので医療型アンドロイドを追加で呼んだんだけど、信長とお供の皆さんにまたかという顔をされちゃったよ。
彼女の名はパメラ。
ブロンドヘアでツインテールの髪型に、明るい性格とちょっと魔法少女にでもなりそうな、ほっそりした容姿の中学生くらいの女の子だ。
「ケティの弟子でもあるんですよ」
きっと女好きのどうしようもない男だと、見られてるんだろうな。
でも早くも医者が足りなくなり始めたんだから、仕方ないじゃないか。
「清洲で評判らしいっすよ若。貧乏人でも診てくれるし、薬もタダでくれるって」
「清洲の医者は何でも京で医術を学んだとかで、貧乏人は見ないって門前払いだからな」
勝三郎や犬千代が患者が増えた理由を信長に教えてるけど、、その通りで尾張中から患者が来はじめてる。
ある程度予想していたけど、この時代の医療事情を少し甘く見ていたかもしれない。
「困りましたね。若様はうつけ様との評判より、領民に優しい若様だと評判ですよ」
「たわけ。困らんわ!」
ただいい面もある。
薬代は織田弾正忠家が出してると噂されていて、信秀と信長の評判が急上昇してるんだよね。清洲で。
そろそろ信長のうつけ様の評判は終わりかね?
せっかくうつけ様と言われ好きに遊んでられるのに、困るだろうと思ったら怒られたよ。
元々那古屋近辺では鷹狩りの獲物を分けてやったりして評判が良かったところに、今回の領民の為に薬代を出してると噂されてて、うつけ様なんて呼ばれなくなってる。
人は現金なもので服装や態度より、目に見える形で領民の為に行動してると評判がいい。
「ああ。清洲の守護代様達が面白くないようですけどね。先日の牧場の件も、すっかり守護代様達の仕業だと評判です。今日は南蛮船の利益を奪えないかと騒いでるとの情報が」
「何故そんな話を知ってるのだ?」
「ケティの患者達が、あれこれと清洲の噂を教えてくれるんですよ。おかげで清洲の情報はかなり入って来てますよ。殿には資清を使いに出して知らせてあります」
「勝手に自滅しそうだな」
「殿と若様は南蛮船の利益を使い、姑息な手を使ってると騒いでるようですからね」
あと清洲の守護代の信友達が、信秀と信長の評判を妬んで清洲で騒いでるらしい。
薬が無料なのは信秀の謀略だと誰かが言ったとか。
「医者一人で清洲が取れそうではないか。ケティには城でもやらねばなるまいか」
「お城は要らない。患者を診て医術を教える建物が欲しい」
「流石にこう人が増えると、かずの屋敷では不用心か」
なんかもうケティ一人で清洲が勝手に自滅しそうな状況に、信長はご機嫌だった。
冗談半分にケティに城をと話してると、診察を終えたケティがやって来て病院を別に欲しいと珍しく頼んでる。
「流行り病とか増えたら、家の人達にうつるからここだと困る」
「うむ。屋敷を別に用意しよう。オレもそろそろどうかと思っていたしな」
とりあえず家には滝川一族達が出入りしてるから、そろそろ病院を分けないとダメなんだよな。
滝川一族の女衆も手伝いとかによく来てるからさ。
信長と話してどっか臨時に空いてる屋敷に、病院を別にすることにしたよ。
警備とかいろいろあるから、城からあまり離れてない場所を探してくれるみたい。




