進化する虎
side織田信秀
「そうか。槍と鉄砲も人並み以上か」
「はい。あまり戦慣れしてないようでしたが、歳を考えれば当然かと」
「積極的に戦に出す気はないが、早めに武功の一つも挙げねばやりにくかろう。武士とは面倒なものだ」
南蛮からわざわざ取り寄せた馬が狙われたと聞き肝が冷えたが、信長が上手くやったか。
本人は望まぬかもしれぬし、戦に出すよりは銭を稼がせておいた方がいいのだが。
しかしこの先、一馬により自由にさせるには武功が必要だ。
「どちらかと言えば、奥方の方が戦慣れしておりましたな」
「そういえば鉄砲も使っておったな」
「ジュリア殿は那古屋では勝てる者がおらず、若い者に武芸を教えております」
「信長とあの者達は、織田を変えていくのであろうな」
「そのつもりのようでございます」
「ならば馬鹿どもが騒ぐ前に、武功を立てる機会を作らねばなるまい。武功があればいくらでも黙らせることが出来よう」
「ですが相手は如何しますか?」
「出来れば清洲がよいな。あそこは那古屋から近くて目障りだ。一馬が何かやる度に騒がれては面倒だ。そろそろ潰したい」
「しかし主筋の清洲を完全に潰すには、今のところ大義名分が有りませぬ」
「そこよ。問題は」
昨年美濃攻めをした際に攻めてきた時に、和睦をしたのは失敗であったか。
とはいえ形は主家なのが厄介だ。
一馬は麦と米を次から新しい物にすると言うし、一々清洲に邪魔をされては困るのだが。
確かに数年待てば清洲は暴発するか崩れるかしよう。
今ですら力の差が気に入らぬ連中だ。
だが一馬達と会っていて分かったことがある。
あの者達のやりたいことに邪魔なのは、今川でも蝮でもない尾張の身内なのだ。
わしは連中を力と銭で抑えてきたが、織田家が更なる上に行くには少なくとも清洲は潰さねばならん。
銭の流れの恐ろしさを他所に気付かれる前に、清洲は手に入れておかねば四面楚歌になりかねぬ。
神輿は少ない方がいい。
名目上の守護さえ置いておけば、蝮のように騒がれることもあるまい。
「五郎左衛門。信長と一馬に伝えよ。清洲を取る策を考えろとな。あの者達が何を考えるのか見てみたい」
「はっ。心得ましてございます」
清洲とて決して無能ではない。
引き際は知っておるし、向こうに兄弟や親族が仕える家臣すらおる。
やり方を間違えれば一族や家中から非難が出るのも厄介だ。
だが信長と一馬達の見る先には、誰も付いてなどいけまい。
清洲を一馬の武功とし、信長と一馬で家中を纏めさせる。
それが現状では最善であろう。
一馬のやろうとしておる、銭と物の流れの支配の邪魔は減らさねばならん。
さて、あの者達はどんな策を見せてくれるのやら。




