秋が来た!
実りの秋がやって来た。
信長の小姓も人数が減り、いつもつるんでいたワルガキ達なんかも家の手伝いに駆り出されてるらしい。
この時代の農業はとにかく人手が必要なんだよね。
稲刈りから乾燥に脱穀まで全て人の手を必要とする。
でもそうやって食べてる人達だから、一方的に農業の効率化だけをしたらお年寄りとか未亡人の仕事がなくなるのがまた難しい。
しかもこの時代って村や集落単位で共同生活してるから、未来と同じ感覚で扱えない面倒さもあるしさ。
そもそも武士の末端と農民は区別が難しいほど、純粋な農民でさえ武装して争いをするこの時代。
中世かそれ以前のまま食うか食われるかと争う、農民も変わってもらわないとだめだろう。
「暇そうだな」
「これはこれで結構大変なのですよ。若様。美味しい栗ご飯を食べるには」
この日オレは朝から栗の皮を縁側で剥いてた。
ケティの無料治療のおかげか、栗やきのこなんかを持ってきてくれる人が居るんだよね。
「何故お前がやる必要があるのだ?」
「以前からの習慣です。それに自分で料理するのも、なかなか楽しいものですよ」
資清にも必要があれば誰かにやらせればいいって、さっき言われたけどさ。
信長にも理解できないと言わんばかりの表情で見られてるよ。
別に理由なんてないんだよね。
うちは所領がないから稲刈りの必要がないし、秋にはこうして自分で栗の皮を剥き栗ご飯を作っていた習慣なだけ。
「美濃の蝮から今川までもが、お前に注目してるというのに変わらんな」
「最初に言ったじゃないですか。武士らしく出来ないと」
「怖い男だ。世を変えるかもしれぬというのに」
「私は自ら望んで世を変える気はないですよ。望んだのは若様です。不要ならまた海が近い家に戻って、のんびりと暮らします」
「お前の場合、本当にそうするであろうな」
「ええ。お許しが出るなら」
「ならん。それでは世が変わらんではないか」
尾張は確実に変わり始めてる。
正直、オレが武家でいる必要があるのか疑問は今でもある。
尾張を世の中を変えることを、誰よりも望んでるのは信長だ。
信長が居るならば、オレの立場なんて商人の方がいい気もするけどね。
「ケティよ。それは見ぬ魚だな?」
「私達はサンマと呼んでる。ここの人は知らない。秋が美味しい魚」
「ほほう。オレにもくれ」
「若。下魚ですよ。あれ」
「たわけ。ケティが美味いと言うのだ。食うてみないで何が分かる!」
もうすぐお昼になる頃になりケティが新鮮な秋刀魚を七輪で焼いていると、魚の焼ける匂いに気付いた信長がすぐに食べたがった。
勝三郎はどうも秋刀魚を知ってるらしく、下魚だと教えたけど信長は聞く耳持たないや。
信長の中では世の中の評価よりケティの一言が上なんだね。
ケティって実は食いしん坊だから。
「……やはり美味いではないか! この大根をおろした物と醤油がよく合う」
「本当だ」
「下魚じゃねえじゃねえか!」
「オレに言うなよ。オレもそう教わっただけなんだから」
お昼はみんなで秋刀魚定食にしたけど、信長とお供の皆さんビックリしながら食べてるよ。
地味に勝三郎が責められてるけど、この時代秋刀魚は食わんのか。
確か殿様がどうとかいう話があったはずなんだが。
「いや~、美味い魚だな!」
それとこの人。慶次もまたお昼の頃になると、家に来るんだよね。
基本的に何でも美味しそうに食べるから、普通に食べさせてる。
一益達は働きもしないでと怒ってるけど、遊んでるだけじゃなくて火縄銃も家に来てからよく撃ってる。
それにケティが教本変わりにと書いた医術の基本的な知識の本を、縁側で読んでいたりするんだよね。
ジュリアも面白がって鍛えてるから、ほんとにそのうち某漫画のようなかぶき者になりそうな予感も。
「この魚って日持ちしないんですよ。だから売れないんでしょうね。うちは船から持ってきた物を、その日に食べるんで大丈夫ですけど」
みんな美味しそうに食べてるけど、この時代に秋刀魚を食べるのは大変だろうね。
足が早いというか腐りやすいからさ。
「なるほど。下魚の訳はそれか」
「極端な言い方をすれば、新鮮な魚はみんなそれぞれ美味しいですよ。ただ他で食べる時は注意してください」
この時代ってマグロもそうだけど、保存とか向かない魚は評価低いんだよね。
その辺り注意しとかないと。




