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その頃、堺では……

side・堺の商人




「どうやらホンマみたいやな」


「しかし、なんでまた尾張に?」


「南蛮人の考えることは分かりまへんな」


 初めて尾張の津島に南蛮船が入ってると、知らせが届いたのはいつのことだったろうか。


 大方嵐に巻き込まれたか、行き先を間違えたんだろうと笑っていたのを覚えている。


 それがいつの間にか南蛮船の持ち主が尾張の織田様に仕えて、南蛮船が月に何度も津島に入ってると聞くと、ここ堺の会合衆の顔色が変わった。


 南蛮船の持ち込む品はみんな高値で売れる。


 だが堺でさえ現状では南蛮船が来る数は決して多くはなく、ほとんどは明から来る密貿易船だ。


 西国では密貿易など珍しくはないが、堺より東の大陸側でない尾張では珍しいだろう。


「津島と熱田の商人が絹を扱い始めたと聞くが?」


「らしいな。わても取引していたとこから聞いたわ。出所は南蛮船やて」


「困るな。我らの領分ではないか」


「そないなこと言うたかて、どないする? 三好様に頼むんか? それとも細川様に? さもなくば幕府に訴えるか?」


「ここ堺や京に売るならともかく、尾張で売るの止められるか?」


「無理であろう。誰が命じても止めぬだろうよ」


 幕府が争いを始めて何年になるだろうか。


 今や京の町も荒れ果てて、越前や駿府の方に逃げる公卿も多い。


 堺は自治を保っているが周囲は混沌としていて、時勢は三好様に傾いている。


 しかし争いが収まる気配は未だにない。


 南蛮人が何を考えて尾張に行ったかは知らぬが、今の幕府に尾張の貿易を止められぬ以上は、余計なことなどせぬ方が得策であろう。


「そうそう、津島と言えば先日花火を上げたらしい」


「花火?」


「鉄砲の玉薬を使う見世物らしいわ」


「高い玉薬使って、見世物をしたのか?」


「織田様がやらせたらしいけど、やったのは南蛮人らしい」


「よう分からんが、それだけ銭があるんか」


 他の連中は南蛮船に批判的か。


 だが南蛮人には南蛮人の考えがあるのだろう。


 訴えるのなら個人で勝手にやってくれ。


 少なくとも堺の会合衆の総意として、訴えるのは絶対反対だ。


 相手をよく知らぬのに敵に回すなど、うつけのすることだ。


 ワシは津島に顔を売りに行く。


 頭を下げて少しでも物を売ってもらえばいいだけだ。


 向こうもいずれ堺や京に物を売りたくなるだろう。


 その時に間に入れればいい。


 そうだな。


 こちらは堺や京の情勢に、西国の話なんかを集めて行こう。

 

 あとは茶器に刀なんかも土産にいいだろう。


 最初は商売にならなくてもいい。


 会って話だけでもいいのだ。


 この目で織田様に仕えた南蛮人と会って、どんな人物か見極めればいいだけだ。


 訴えるなり抗議をするのは、それからでも遅くはない。


 そうと決まれば支度をせねば。


 他の連中が動く前に動かねば意味が無くなる。


 さて、噂の南蛮人はどんなお人やら。


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