翌朝と反省
翌朝になると待機状態は解除されて、賊は全員那古屋城下で首を晒された。
オレは見てないけど。
「堀も掘らなきゃだめか」
「秋の刈り入れが終わり次第、地元の領民を雇いましょう」
「賦役にしてもよいぞ」
一旦帰り一休みをしたオレは、エルと資清と那古屋城で信長と平手政秀と今後の対策を考えるが、やはり堀くらいは掘るべきだというのが信長達この時代の人の意見だった。
「せっかくですが若様。銭で雇いたいと思います。我が家の銭を少しでも領民に還元せねば、貯まりすぎて使い道に困りますので」
領地は信長の直轄地なので信長は農閑期の賦役、いわゆる農民を駆り出して労働をさせることでもいいと言ってくれたけど、エルは銭での雇用を進言してる。
「そんなこと言うのはお前達だけだな」
「事実なんですよね。あんまり一ヶ所にばら蒔くとろくなことにならないので、領民に少しずつ大勢にばら蒔いた方がいいですから」
本当に家に入るお金と出ていくお金、釣り合わないんだよね。
銭を造っては織田家に納めてるけど、手数料というか工賃分くらいは貰ってる。
それに津島と熱田を通して売ってる物の利益も家に集まるもんだから、織田家に一定の税を納めても貯まるんだよね。
ぶっちゃけ外から買う物ってあんまりない。
「そもそも銭をばら蒔くという考え方は普通しないぞ。オレと爺は流石に理解したが資清を見ろ。理解できずに呆けておるわ。のう。資清」
「はっ。普通は農民から税をいかに取るかを考えまする。申し訳ありませぬが、せっかくある銭を領民に与える意味を某理解出来ませぬ」
貯まる銭を領民に与えて領民の生活を良くすれば、領民の支持は集まるし領内のお金が回ると経済が良くなり織田家は更に潤う。
未来では子供でも知ってるようなシンプルな経済のあり方だが、信長と平手政秀はオレ達といろいろ話してるので理解してるけどこの時代の武士にはあまり理解出来ない。
年齢から考えても文官になってくれないかと資清を連れてきて話を聞かせていたけど、いきなりで理解出来なかったみたいで信長がそんな資清を見て笑っていた。
「よい。オレと爺も理解するまで苦労したのだ」
「考え方がまるで違いますからな」
信長に笑われて資清は申し訳無さげに頭を下げたが、信長と平手政秀は普通は無理だと笑っている。
この二人は具体的なやり方はともかく、領民を富ませると領主も富むと結構早く気付いたんだよね。
「そんなに難しくないのですよ。簡単に説明すれば貧しい人からギリギリの税を取るより、富める人からほどほどに税を取る方が実入りがいいというだけです」
「それはある程度理解しますが、貧しい人を富ませるなどと出来る物なのですか?」
「こやつらはそれが出来るのだ。お前達はいいところに仕えたな。オレも羨ましいくらいだ」
決して難しいことを考えてる訳でもないんだけど、この時代の武士にはほとんどない考え方だ。
無論歴史に名が残るような大名なんかは理解してる者も居るが、土豪や国人衆程度では理解してない者が大半だろう。
武士の経済観念の無さは江戸時代でも明らかだからね。
江戸幕府だって頓珍漢なこと何度かしてるし。
「それにしても清洲も何を考えてるんだか」
「何も考えてなどおらん。どうせ新しい大きな馬の話を聞いて、生意気だ燃やしてしまえと考えただけだ」
「そういう人達が相手なのですね」
「オレもお前達と会うまでは、それが普通だと思っていたわ」
今回の賊は改めてオレ達が生きてるのが、戦国時代なんだと痛感させられた。
燃やしてどうにかなる問題じゃないだろうに。
ただこの時代だと敵対してる領地で町に火付けをしたり、刈り田するなんて当たり前なんだよね。
今の織田家というか信長がやる理由ないんだけど。
銭と技術で敵対してる領民すら引き込めるかもしれないのに、わざわざ敵に回す行動する必要ないからな。
まあ元々同じ尾張の近い場所が相手だというのも大きいけど。
普通に向こうにも血縁者とか居るからな。




