夏の終わりの初体験・その三
「まずまず悪くないな」
最終的に火縄銃で戦闘不能にしたのは十六人だった。
あとは弓で八人当てていて、残りの二十四人は槍や刀の追撃で倒している。
人数が四倍近い上に野盗とはいえ、初撃の一斉射撃でこれだけ当てられば戦でも使えると信長は満足げだ。
「若。後はおらぬようです」
「引き上げだ! 清洲に物見を出しておけ」
味方は数名の軽傷者はいるが、死者どころか重傷者すら出ないほぼ完璧な勝利になる。
無論相手が士気の低い賊なので当然の結果ではあるが。
火縄銃や弓で負傷して死ななかった賊と一益が捕らえた賊は那古屋城に運ばれ、厳しい詮議を受けることになるらしい。
一応周囲には捜索する兵を出したが、他には居ないようなので念のため今夜は、牧場に兵を二十名ほど残して引き上げることになった。
ああ。死体は残る兵が首を取って、遺体を片付けて供養するみたい。
「お帰りなさいませ」
那古屋城に戻ると時間はすでに深夜になっている。
那古屋城には赤々とかがり火が焚かれていて、留守居の者や城の女衆と兵の妻達が集まり食事の支度をしてくれていた。
うちのエルもそれに参加しているようで、米や味噌に肉などと酒まで食材を提供したらしい。
狙われたの信長の所領とはいえうちの牧場だしね。
というかほとんど戦と変わらないんじゃか?
「やれやれ。遙々南蛮から運んだ馬が、無事でようございましたな。」
「だがあそこは警備が手薄過ぎる。周りに堀くらいは作るべきであろう」
城に入ると酒は流石にまだ出されなかったが、おにぎりや味噌汁のような汁が振る舞われた。
今回の討伐には信長の家老や、重臣で退きの佐久間こと佐久間信盛も来ているみたいで、かなりお偉いさんもいるみたいだね。
平手政秀はわざわざ外国から取り寄せた馬が無事で安堵してるけど、佐久間信盛には牧場が手薄だとはっきりと言われちゃった。
まあ牧場だし馬や牛が逃げないように柵はしてるけど、堀とか塀で囲ってる訳じゃないからね。
「連中何か吐きましたか?」
「清洲の坂井大膳の郎党がけしかけたようだ。だがこちらから清洲に打って出るには少し弱いな」
一応朝までは城で待機となったけど、生かして捕らえた賊からは期待したほどの情報はないみたい。
黒幕はやはり清洲織田家で、実権を握る一人の酒井大膳が絡むらしいが証拠がない。
賊の証言など、突っぱねて終わりなのは考えるまでもないね。
この程度の小競り合いは良くあるんだろう。
「外ばっかり見ないで、清洲を先に考えるべきですかね」
「何か策はあるのか?」
「急がないのであれば現状で十分ですけどね。数年でこちらは今の数倍の力を持ちますから。領民の暮らしもそれだけ良くなります。清洲との格差は確実に生まれますから。向こうは慌てるでしょうね」
いっそ清洲が挙兵してくれればと思うんだけど、信秀は清洲を攻めないだろうね。
去年美濃を攻めた時に清洲が古渡城を攻撃してきたけど、和睦して終わったし。
まあどうせ経済格差で数年で何も出来なくなって、暴発するのに今無理に攻める理由もないんだけど。
ただ領地の境の警備は増やさないと、嫌がらせや小競り合いは増えるだろうね。
今回の件もケティの患者が第一報を知らせたし、そのうち清洲の領民もこちらに来るようになれば、向こうの情報筒抜けになりそう。
このまま領民を惹き付けてれば勝手に暴発して、史実のように終わるだろうね。
「かず。知らせて来た農民はどうした?」
「銭を褒美に渡して帰らせました。あとで追加で褒美を出しますか? 」
「そうだな。追加で褒美を出すか」
今回の大手柄は最初に知らせた農民だ。
忙しくなるから褒美に銭を渡して帰らせたけど、更に褒美を与えれば今後もいろいろ領民から情報が手に入るかも。




