夏の終わりの初体験
夏も終わるという頃、予期せぬ知らせをもたらしたのは以前にケティが治療した近隣の農民だった。
「それは真か?」
「へえ。あっしは話を聞いただけですので、それ以上は分かりやせんが」
その農民は親戚の居る清洲に行った帰りに、酒場で破落戸どもが那古屋で馬を襲う計画を立てていたのを、たまたま聞いて家に駆け込んで来たらしい。
最近那古屋ではうちの牧場に居る大きな馬が有名になりつつあり、農民はすぐに牧場を襲うのではと考えたようだ。
「さて、どうしようか」
「すぐに若様に使いを出して、人を集めて頂くべきです」
「だけど五人や十人の野盗なら大げさじゃないか?」
「これが清洲方の嫌がらせなら、もう少し多いかもしれませぬ」
もう秋も近いこの季節すでに日が暮れていて、あいにくと家には一益はおらず資清しか居ない。
資清は農民から直接話を聞いたが、農民が嘘を言ってるとは思えないようで人を集めるようにと言ってきた。
「そうだな。私は若様に知らせに行く。悪いけど資清は何人でも集めれる人を集めて来てくれ」
現状で牧場には滝川一族の誰かかが、夜は泊まりで見張りをしている。
今日は確か一益のはずで地元の農民と擬装ロボットを警備にと置いているので大丈夫であろうが、ちょうどいい訓練になるので人を集めることにした。
一応牧場は衛星で監視してるんだけど、衛星より農民の知らせが早いとは。
「爺。人を集めろ!」
信長の決断は早かった。
情報の確認は取ってないと言ったんだが、地元の農民が嘘つく理由もないんだよね。
「情報は確かです。敵は四十八名。武装してます」
「分かった。やっぱり清洲の嫌がらせか?」
「そうだと思われます」
流石に陣ぶれまではしなかったが、那古屋城に居た者と近くに知らせを走らせて信長自身も出るようで戦支度を始めた。
こうなるとオレも家で待ってる訳にいかないので一応用意していた鎧を着ていると、情報の確認をしていたエルが地下の秘匿区域から上がってきた。
「こんな戦。歴史にはなかったよね?」
「この時代の記録は無いものも多いですからね。それに戦ではなく野盗退治では記録になど残さぬでしょう」
「相手に正規の武士は居ないか?」
「恐らくは」
清洲は尾張一の人口がいる町なので、勢力圏が狭くても侮れる相手ではないらしい。
「ジュリアもケティも行く気か?」
「構わないだろ?」
「まあ、いいけど」
家も空に出来ないのでエルは自宅待機だけど、ジュリアとケティは一緒に行く気らしく武装してるよ。
実はエル達って自分達用に鎧を作ってたんだよね。
なんか過剰戦力になりそうな気もするけど、オレって戦どころかゲーム時代の戦闘すらアンドロイド任せで、ほとんど出てなかったからな。
心配されてるのかもしれない。
「若。確かに怪しい連中がこちらに向かって来てます!」
オレ達が牧場に到着すると、すでに信長を始めとした百人以上の兵が集まっていた。
信長もオレの知らせを聞いてすぐに物見の兵を出していたようで、物見の兵が戻り本当に賊が来てると知ると空気が更に引き締まった。
それと鎧を着たジュリアとケティのふたりに兵の何人かは驚いてるけど、信長は特に反応を示さずにスルーして偵察の報告を聞いてる。
流石に本物の武将なんだね。
「何人居た?」
「十や二十ではないです。四十か五十か」
「賊にしては多いな。やはり清洲の嫌がらせか」
「若。末森に知らせを走らせました。無いとは思いますが連中がこのまま牧場と城下に火を放てば、清洲が出てくるかも知れませぬゆえ」
集まった兵達も賊だろうという予想と違い、意外に多い敵に少しざわめく。
平手政秀はこれがそのまま戦になる可能性も考慮して動いてるみたい。




