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津島天王祭!その四 花火

 笛の音が聞こえてくる。


 娯楽らしい娯楽のないこの時代では、これほど楽しい祭りはないのだろう。


 蝋燭の炎が揺れる提灯が、まるで傘のように数百も並ぶ姿は見るものを魅了する。


 オレ達は酒と料理を楽しみながら、水面にまで映る巻藁舟を楽しむ。


 そんな光景にふと小さい頃に両親と行った、地元の神社のお祭りを思い出しちゃうな。


 ここのように有名な祭りではなかった、小さなお祭り。


 でも楽しみで毎年行っていたのを思い出してしまう。


 ここは本当に過去なんだろうか?


 それともパラレルワールドか?


 正直何でもいいかなって思うけどね。


 オレには今ここが現実であり、過去でも未来でもない現在なんだから。





「花火とやらはそろそろか?」


「はい。殿や山城守様は見てますかね?」


「見てるであろう」


 祭りもクライマックスになると、信長を含めてみんなが噂の花火を待っている。


 願わくば、新しい時代の幕開けを知らせる希望となって欲しい。


 そして時は来た。『ヒュー』と打ち上げた音がして。


 微かに光が夜空に昇ると。


 『ドーン!』と空気を震わせる爆発音が響くと、津島の空には赤橙色の丸く綺麗な花火が見事に咲いた。


 その迫力ある音と夜空を照らす光の美しさに、賑やかだった周囲がシーンと静まり返る。


 理解が追い付いて居ないのだろう。


 聞こえていた祭りの笛の音すら止まった。


「クククッ。花火か。よう名付けたな」


 間髪入れず二発目がうち上がると、人々はそれが夢や幻ではなく現実なのだと受け入れだしたみたいだ。


 信長は見たことがないほど楽しげに笑い出した。


 派手好きで新しいモノも好きな信長には、これほど合うものはないかもしれかい。


 基本と言える赤橙色の花火から、青や赤や黄色など様々な色の花火が次から次へと打ち上がっていく。


 止まっていた笛の音色も再び聞こえだし、巻藁舟と花火が見事にマッチした光景に人々は喜んでいる。


「親父や蝮がどんな顔をしてるか見れないのが残念だ」


「いつの日か、日の本の全てで花火が見られるようにしたいですね」


 やっぱり夏と言えば花火だよね。


 エルもジュリアもケティもみんな、一瞬の輝きと言える花火を楽しそうに見てるよ。


 本当に花火を上げてよかった。


 今この瞬間だけは何も考えずに花火をみんなで楽しみたい。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 信長公記にはこの日、信秀が津島天王祭にて奉納花火を打ち上げたことが記されている。


 津島天王祭で花火を打ち上げるに至った経緯は明らかになっておらず、信秀が久遠一馬に天王祭を盛り上げるように命じたとも、新し物好きな信長がやらせたとも言われているが定かではない。


 色とりどりの花火が幾度も打ち上がったという逸話があり、一説には千発以上の花火を打ち上げたとも伝わる。


 だが当時の状況から考えると、実際にはもっと少なかったであろうと考えられている。


 しかし世界史的に見ても久遠家の花火技術が当時の世界水準を遥かに越えていたことは明らかで、後に近代科学と近代医学の祖と言われる久遠ケティが独自に火薬の調合を編み出したとも伝わる。


 この花火に関しては近くの農村を筆頭に、あちこちで見えたという逸話も残っていた。


 見知らぬ花火にもののけの仕業であるとか天変地異であるとか騒ぎにもなったようで、特に津島から南にある河内を治めていた服部友貞は、織田が攻めてきたと勘違いして陣ぶれを行ったという話もある。


 後の識者にはこの日の花火こそが、織田家の歴史の転換点だと語る者も少なくない。


 なお同じく久遠ケティが発明したと言われる、蚊取り香が記録として初めて登場したのもこの日であった。



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