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蝮とうつけと凡人と

 平手政秀が急遽用意したのは大橋家だった。


 これが平時ならば津島神社がいいんだろうけど、今日は参拝客で混雑してるしね。


 当主の大橋重長は突然のことに困惑してるわ。


 まさかオレ達が道三と共に来るとは、夢にも思わなかったんだろう。


 最近はいろいろあり気苦労が絶えないみたいだが、それよりも問題なのはオレが茶席に同席させられてることだろう。


「こやつは明智十兵衛光秀。ワシの近習でな」


 双方三名ずつ同席したメンバーは、織田側は信長と平手政秀とオレで、斎藤側にはこれまたとんでもない奴が居たよ。


 明智光秀とは。


 織田四天王の一人にして、日本史最大のミステリーを起こしたと言っても過言ではない男。


 二十歳くらいで今は特に何も感じない、真面目そうな若者という感じか。


 そもそも道三もこの光秀も半生がはっきりしない。


 道三は単身で油売りから親子二代での成り上がりになったりと説が変わっていたし、光秀も織田家仕官前は父親すらはっきりしてないんだよね。


 土岐明智一族らしいことは確かなようだけど。


 越前の朝倉家に仕えていたようだけど待遇が良くなかったような感じもあるし、あまり高い身分でないとは思っていたが道三の側に居たと言うことは道三の妻との血縁があるのは確かか。


 人柄に関してはこの場では分からんね。


 真面目で義理堅く律儀者と言われていたりするが、ルイス・フロイスの日本史辺りだと腹黒い出世欲のある世渡り上手な男のように書かれてたりする。


 そもそもこの時代の信頼できる史料は信長公記やルイス・フロイスの日本史だけど、ルイス・フロイスの方はイエズス会に敵対的な人間は酷評してる感じもあったり個人の好き嫌いが入ってるとも言われるし。





「久方ぶりに津島に来たが、凄い賑わいじゃのう」


「はっ。ありがとうございまする」


 光秀は今日の主役ではないのでとりあえず顔を覚えておくだけにして道三だが、ご機嫌とまでは言わないがにこやかな表情で平手政秀と話している。


 信長は流石に大橋家に着いてから着崩していた着物を直して来ていたが、こちらは先程名乗ってから全く口を開いてない。


 道三も信長もお互いに相手を見抜き相手に見抜かれぬようにしている節はあるけど、史実と違い信長は経験不足な感じが否めないかな。


 一方の道三だけど、史実では領内の統治があまり上手くなく家臣の信頼を得られなかったようなイメージがある。


 国を乗っ取ったという事実を考えると仕方ない気もするけど。


 ただ正直そこまで無能には、少なくとも目の前の道三からは見えない。


 単身にしろ親子二代にしろ、権威ある家を乗っとり最終的には守護を追放する形で成り上がった人だからな。


 何しようとしても人が着いて行かなかっただけな気もするが。


「失礼致します」


 それぞれの思惑がある微妙な雰囲気の中、お茶を運んできたのは大橋家の女達だった。


「これが羊羮か?」


「急なことゆえ、その様な物しかなく申し訳ありません」


 茶菓子はエルの手作り羊羮だ。


 夜の祭り見物で食べようと持ってきたんだよね。


「いや、このような美味い羊羮は初めてじゃ。噂の砂糖羊羮はこれか?」


「はい。うちの手作りです。巷で下餞の者が若様に取り入ったと噂の羊羮ですよ」


 他に茶菓子なんか無かったんだろうね。


 ただ道三は羊羮を一口食べると、初めて驚きというか表情を変えてオレに直接話し掛けて来た。


「下餞か。ワシも未だに言われておるよ。そなたとワシは似ておるやもしれん」


 突然問われたから少し自虐的な毒を交えて答えたけど、内容に平手政秀が少しビックリしている。


 すまん。同盟の邪魔はしないから勘弁してくれ。


「それは光栄ですが、私は主を食い破る気はありませんよ」


「フフフ。若いな。ワシとて初めからその気などなかった。じゃがいずれ欲しくなる。貴殿もそうなるかもしれぬぞ」


 流石は蝮か。


 ちょっとしたジャブ程度の毒を見事に打ち返して来たよ。


 試されてるのはこちらか。


「構わん。そうなればオレが、それだけだということだ」


「ほう。婿殿も若いの。」


「山城守殿。港に行き南蛮船を見てゆくがいい。さすればオレとかずの見てるモノが見えるであろう」


 さてどう返そうかと悩んでると信長が突然口を開いた。


 経験不足だけれど流石は本物か。


 絶妙なタイミングで口を開いたよ。


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