花見と平手政秀
信長に南蛮吹きの話をしてから一週間もしないうちに使いが来て、花見をするから来いとオレ達は誘われたというか呼び出された。
断るという選択肢は初めから無いんだよね。
まあ表向きは花見だし。
実はオレ達は信長に虫の形をした超小型の偵察機を常時周囲に付けていて、それでオレと共にこの時代にやって来た宇宙要塞シルバーンの中央司令室にてアンドロイド達が監視しているので花見を隠れ蓑にした呼ばれる理由も知っているんだけど。
「それにしても道が悪いな。狭いし」
「この辺りはまだマシな方ですよ」
とはいえ指定された場所までは馬か徒歩と言うことで馬を借りて乗って来てる。
噂では聞いてた通り未来とは違い小さい馬だけどね。
その辺りは信長が手を回していたようで簡単に借りれた。
場所は那古屋城近くの寺らしい。
馬でゆっくり行って一時間かからないくらいか。
「よく来たな。若はもう少ししたら来るからゆっくりしててくれ」
指定された場所に到着したオレ達を待っていたのは勝三郎だ。
この人はのちの池田恒興その人で現在は信長の小姓をしてるようで家にいつも来る人の一人。
得たいの知れないと言われるオレ達にも気遣ってくれるいい人だ。
「何か持ってきたのか?」
「若様が羊羹を持ってこいと言うので羊羹と後は餅や料理とか酒ですよ」
桜はちょうど見頃だった。
この時代にはまだソメイヨシノもなく垂れ桜だけど。
集まっているのは信長様と同年代の男ばっかりだね。
女はオレと一緒に来たエルとジュリアとケティだけ。
特にエルとジュリアは尾張では見掛けない外人でしかも女性なもんだから視線が集まるのなんのって。
「こっちは平手政秀。オレの守役だ。そしてこいつが噂の南蛮人連れ。名は一馬だ。そっちが奥方のエル」
信長は一番最後に現れて酒や料理を差し入れすると花見を始めるが、程なくしてオレは寺の本堂に呼ばれてエルと共に中に入るとそこには老人と言えるような年配の武士が一人いる。
「実はな。あの話オレではなく爺にやらせることになった。」
「初めまして平手様。長いこと海外に居たのでご無礼があるかもしれませんが御容赦を」
「若の話。嘘偽りはないのだな?」
「もちろんですよ。こちらに方法を記した書物をお持ちしました。人もすぐに派遣します。まずは少量で試して御自身の目で確認された方がよいでしょう」
平手政秀はあまり表情を顔に現さないがオレ達を内心では良くは思ってないようだ。
まあうつけと呼ばれる信長の悪い遊び友達が怪しげなことを吹き込んだとでも思っているのだろう。
普通に考えたら信じた信長が騙されたと周りからは見えても不思議じゃないほど怪しい話なんだよね彼らにとっては。
「今一つ聞きたい。何故お主達がそれをせずに若に勧めた?」
「量は多くありませんが密かにやってますよ。海の向こうには多くの国や人の居ない島などがあります。そこの一つに拠点を置いて。ただ海外で取引するならばもっと効率よく儲かるもこともありますから優先順位は高くありません。若様に勧めた理由は特にありませんよ。頼まれたので教えるだけで。ただこの話は上手くいけば若様と私達の双方の利になります」
「そうか。ではまずはどれほど利が出るか調べてからじゃな」
信長はニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべてオレと平手政秀の会話を眺めてるし。
この人真面目すぎるんだろうね。
オレ達を疑いながらも理解もしようと努力してるように見える。
きっと信長のことも諌めながら理解しようと努力してるのだろう。
ただ悲しいかな。年ゆえに思考の柔軟性はあるようには見えない。
しかしこの人ならば南蛮吹きを教えても秘密を守り間違っても自分の懐に入れたりなどしないと思うし適任だろうね。
信長の最大の強みは人に恵まれたことかもしれない。




