夏と言えば……
「かず。何だこれは香か?」
「ああ、虫除けの香ですよ」
夏になると蚊がとにかく多い。
この時代にも蚊帳があるので家でも使ってるけど、夏と言えば蚊取り線香だろうと作ってみた。
調べてみたらこの時代にはお香はあるが、お線香はまだないみたいでさ。
この時代って屋敷の気密性とかあってないようなものだし、蚊帳の方が効果ありそうなんだけど。
まあ無いよりはマシだし作るの難しくないからね。
「ほう。いい物ではないか。明か?南蛮か?」
「ああ。似たものは明にありますけど、虫除けの香はケティが作ったんですよ」
「……お前の奥方は女にしておくのが惜しいな」
蚊取り線香の香りを嗅ぐと夏が来たと感じるね。
信長は明や南蛮ではなくケティが作ったと知ると、本当に惜しいと言いたげに呟いてた。
多分誉め言葉なんだろうね。
「煙りが大丈夫でしたら使ってみます?」
「うむ。使おう。だが売らんのか? これは売れるぞ」
「そうでしょうか?」
「香は人気だからな。虫除けになると言われると更に人気がで出るであろう。だがこの形はなんなのだ?」
「これだと長持ちするんです」
「なるほど。理に叶ってるな」
蚊取り線香ってそんなに売れるのか。
というか信長変わったな。
新しい物を見つけたら、真っ先に売れるかどうか考えるなんて。
冗談抜きで経済で天下取りそうな気がする。
「別の形も混ぜて売ってみたらどうだ?」
「そうですね。津島と熱田で少し売ってみますか」
季節物だしあんまり期待してないんだけど、現地の意見って大切だよね。
丸いとぐろを巻いた形が信長は少し気になるみたいなんで、棒状のやつと円錐形のやつを作って売ってみますか。
しかしまあ蚊帳と蚊取り線香ってくると、本当田舎の夏って感じだね。
「そう言えば津島神社のお祭りがあるみたいですね」
「ああ。あれは凄いぞ」
「花火も打ち上げてみましょうか?」
「花火とはなんだ?」
「鉄砲の玉薬を使った見世物です。特に光の花を描く物は凄いですよ。殿の名前で出せぬでしょうか?」
「よく分からんが面白そうだな。親父の名を傷付ける物でないならば良かろう」
「初めてこの国で花火打ち上げさせた人として、歴史に名が残るかもしれません」
「爺に話しておく。多分大丈夫であろう」
夏と言えば祭りだけど、残念なことに打ち上げ花火はこの時代の日本にはないみたい。
無いならやればいいやと言うことで、信長に相談するとアッサリと信秀に話をしてくれるらしい。
チョロいな信長。
どうせなら屋台も出したいな。
うちも出してもいいけど屋台の種類は増やしたい。
津島の商人に頼むか?
絹の件があるから、この程度の頼みは聞いてくれると思うんだが。
花火の美しさとインパクトは、織田信秀の名を歴史に残すかもしれない。
いろいろ世話になってるし好きにやらせて貰ってるから、このくらいしてもいいよね?
夏祭りに花火は必要だ。
ちらりと話を聞いていたエルを見ると、少し困ったように笑いつつ頷いてくれた。
うん。祭りまであまり期間がないけど、宇宙要塞でなら花火を作れるだろう。
本当に楽しみだ。




