鎧と勝家と蕎麦と
「うむ。悪くないな。何より安上がりだ」
翌日那古屋城では信長が集めさせた竹にて、竹束の盾を作ってみたが、やはり火縄銃を防ぐのはこれが一番いい。
「だがこれはすぐに真似されるな。こちらの鉄砲も役に立たなくなるということか」
そこまではいいんだけど、また那古屋に信秀と勝家が来て新しい鎧や竹束の盾を見ている。
まあ最新の軍事技術のテストだし、当然と言えば当然だが。
「どうなんだ?」
「使い方次第かと。盾は持ち運べますから。それに玉と玉薬を相手より多くするのもいいかと思います。先日の大筒とか大砲を使えれば更にいいですね」
竹束の評価はいいが、問題はすぐに相手にも真似できることなんだよね。
それを理解した信秀の表情が渋いのも仕方ない。
信長に促されるまま説明をするが、要は相手に合わせるのではなくこちらの得意な戦いに持ち込むのが一番だと思う。
「銭で戦をするか」
「美濃とは和議を結ぶと聞きました。ならば当面の敵は今川だけです。兵の数では恐らく負けますが、使える銭はこちらが上です。相手が一番嫌がるのは銭の戦でしょう」
オレやエルが考えてる織田家の強化はそう難しいことじゃない。
史実の信長のように武器の優劣と経済力で戦をするだけなんだよね。
いわば近代戦では当たり前の前提で。
「それをはっきり言えるのはお前の強みだな。今川が銭を失えば儲ける算段でもしてるのであろう」
「そこまで出来れば上出来ですね。出来なくても今川に兵糧や銭を使わせれば、悪くありません。あちらも武田と北条が居ますからね。どうせうちに全力はぶつけられませんから」
流石は尾張の虎とまで言われた人だね。
オレ達が考える近代的な戦を大まかに理解してる。
もちろん銭の戦の効果を理解する大名は他にも居るし、今川義元も理解してるだろう。
だけど理解してるだけじゃダメなんだよね。
「権六。どうだ?」
「はっ。よい鎧と思いまする」
それと鎧の方は勝三郎と犬千代と一益と、何故か勝家が着て模擬戦をしてる。
火縄銃や槍に弓の的にして防御力を試すテストもしてるけど、こちらも現行の鎧よりはかなりいい。
やはり技術力の違いは明らかだね。
「最近では尾張の兵は弱兵などと言われて困っておるからな。武器や鎧で補うしかないか」
「強いと言われてる国は、負けたら後がないという理由もあるのでしょう。うちは負けても食うに困る程ではないですから」
三河で今川に美濃で斎藤に負けてる信秀としては、どうにかして挽回のきっかけが欲しいのだろう。
ただ人の身体能力がそう変わるもんではない。
それにこの時代の戦は殲滅戦などないし、勝敗が明らかとなれば退いてしまうことが普通だ。
よく言われる甲斐の武田などは、退いたら食えないからという理由も強いと言われる理由にあるのだと思う。
武将の優劣とか山国の地理的な物からくる、身体能力が多少高いなど他にも理由はあるのだろうが。
「柴田様には先日の太刀の礼にその鎧を贈ります。好みの物に仕上げるのでおっしゃって下さい」
「そうか? すまぬな」
結局信長と信秀は自身用の鎧と足軽用に五百ずつ揃えることにしたので、オレは勝家に鎧を刀の返礼品にすると言ったんだけど、少し戸惑った表情をしたのは何故だろうか。
「これは? 噂のラーメンとやらか?」
「いえ。これは蕎麦を麺にした物です」
それから昼食は信長の命令でエル達が那古屋城で作って出したんだけど、今日は結構暑いのでざる蕎麦だった。
そう言えば蕎麦はまだ出してなかったからさ。
というか信秀もラーメン知ってたんだね。
誰が話したんだろう。
「蕎麦も麺になるのか。素麺ならば食うたことがあるが」
「つゆはただの醤油ではないな?」
「つゆは醤油にダシや酒や砂糖を少し加えております」
信秀と信長親子は初めて見る蕎麦に興味深々な様子で食べると、やはりその味に驚きつつ早くもお代わりをしてる。
そんなに難しいことしてないんだけど醤油自体が、今はまだ家しかないからね。
「美味い。しかも見た目も涼しげでよいな」
勝家含めてみなさん本当によく食べること。
更に食後にはデザートに羊羮と大福を出したら勝家は、あからさまに嬉しそうになった。
まさか本当に大福欲しかったのか?
鎧より嬉しそうなのは気のせいだと思いたい。
「これは作るのは難しいか?」
「いえ、それほど難しくはありません」
信秀はざる蕎麦を気に入ったみたいで作り方を知りたいようだったので、後で末森の料理人に教えることになった。
ついでに大福の作り方も教えておこうか。
お土産の大福を嬉しそうに持ち帰る勝家を見てそう思ったよ。
砂糖は安くはないけど、身内価格にしたら買えなくもないだろうしね。




