柴田勝家という男
「権六。お前一馬をどう見る?」
「某にはよく分かりませぬ。ですが若様には必要な男かと」
「流石は権六よな。たかが商人と侮る者が多くて困るわ」
「津々木ごときが相手ではありますが、肝は座っておりました。それにまさか奥方が鉄砲で狙っていたとは。某は余計なことをしました。申し訳ありませぬ」
「構わん。あのまま丸腰の一馬に、脇差しで斬りかかられても困るしな。それに下手に掘り下げて家を割りたくはない」
信行様は南蛮船で尾張を離れられた。
殿は少し心配なのだろう。
船が帰らぬことは珍しくはないのだ。
だが信行様の今後を考えれば悪くはない。
また担ごうとする者は現れるからな。
それにしても久遠一馬とは何者であろうか。
正直なところ某もたかが商人と思っていた。
あの日までは。
そもそも若様と遊び呆けてるなど誰が言ったのだ?
あのような大きな鉄砲など見たことがない。
それに津々木の愚か者は気付かなかったようだが、あの滝川という男は商人ではない。
「殿。何故久遠殿に領地を与えなかったので?」
「一馬が要らんと言うたからな。どうも信長に仕えた時から言うていたらしいわ。領地に手間を取られたくないらしい」
「領地は手間ですか」
「権六。今から言うことは、ワシと平手と信長と久遠家しか知らんことだから他言するなよ。実はな一馬の稼ぐ銭の上がりは、一年も立たずに津島や熱田の上がりを超えるようなのだ」
「……真で御座いますか?」
「ああ、絹は知っていよう。あやつは他にもあれこれと始めておるからな。しかも長島相手に商いまで始めおった」
「大丈夫なので御座いますか?」
「奴は一向衆ではない。銭を一向衆から搾り取りたいらしい。恐らくは将来的に長島を、信長が取るための布石であろう」
「布石とは……」
「奴が言うてたわ。坊主に贅沢をさせればどうなるか、見てみたいとな」
「なんと……」
「権六。お前ならば見れるかもしれん。一馬と信長の見てる世の中がな。ワシの代わりにしかと見届けよ。他は知らぬがお前だけは裏切ることは無いだろうからな」
「何をおっしゃいます。殿はまだ若こうございますれば!」
「ふふ。楽しみよな」
若は久遠一馬と話をしてると本当に楽しげであった。
そして殿もまた久遠一馬と若の未来を楽しみにしておられる。
若とあの男は織田家を何処に導こうとするのだろうか。
この荒れた世をまさか変える気なのだろうか?
今のままではダメなのは皆が理解している。
されど誰にもどうしようもないこの世の中を?
某には分からぬ。
分からぬが、信行様を南蛮船に乗せたのは久遠一馬の案だと聞く。
信行様が立派になり帰って来られたら……。
某も信じることに致そうか。
それはそうと、あの砂糖大福は高いのであろうか。
まさか作り方を教えて欲しいとも言えん。
誰か人をやり買わせたいが、誰をやるべきか。
「そうだ。一馬がお主にと大福を置いて行ったぞ。持っていくがいい」
なんと。某が欲しているのを見抜かれたか?
恐るべき男だ。いつの間に……。
あやつは刀を持ってなかったな。礼は刀でよいか。
決してまた大福をくれと催促してる訳ではないが、礼をせぬのは信義に欠けるからな。
よし。そうしよう。




