信秀が来た!
季節は初夏になっていた。
粗銅からの金銀の抽出に銅銭の鋳造は順調そのもので、生糸から絹織物を作る技術指導も着々と進んでいる。
伊勢長島へ販路の拡大は津島の商人に任せているが、初回は絹織物と綿織物から鯨肉・椎茸・砂糖・蜂蜜・蜂蜜酒など食べ物までいろいろ売った。
特に一向衆の坊主に対しては、食べ物を津島の商人が心配するほど安値で売ったので、坊主の反応がすこぶる良かったらしい。
このまま一向衆の坊主には、無理矢理にでも贅沢を覚えて貰おう。
ぶくぶくと肥えた坊主を、信者達がどう思うか今から楽しみだ。
馬と牛の牧場の方は那古屋の領民を銭で雇い、柵を作ったり馬と牛を入れる小屋を作らせ始めた。
この季節の田畑は草むしりなどあるので、そんなに暇という訳ではないが、銭で雇うとなると結構な人が集まり早めに完成しそうな勢いである。
工事としてはそれほど難しいことはしてなく、木製のサイロという家畜の飼料を保管する建物は作らせることにしたが、細かいところは大工に任せてあとは責任者の一益に任せた。
正直オレやエル達は、この時代の人を使うことには慣れてないからね。
あまり急がせなくていいからと任せてある。
ラーメン屋に関してはすでに開店する準備をしてあるんだけど、問題は麦で病気の類いである麦角菌に感染した物がちらほらあった。
結果として麦の仕入れはケティに頼んで、感染した物を取り除いて使うことにする予定だ。
農業のテコ入れは迷ってたんだけど、いろいろ問題も多いから。
秋に撒く麦からこちらで用意した新しい品種にするべく、病気に強くて収穫量が多いF1品種で選定してる。
とりあえず信長の直轄地と平手政秀の領地からなら、やれるようなので今年はその予定かな。
「おう、どうした親父」
「お前が一馬の家で遊び呆けてると、佐渡が困ってるので見に来たのだ」
この日はジュリアによる訓練もなく信長は数人のお供と一緒に、新たに献上した口径の大きな大筒に分類される火縄銃を家の庭で撃っていた。
しかしそこにやって来たのは、なんと数人の供を連れた信秀だった。
まさか殿様まで家に来るのか。
那古屋城に行って呼び出せばいいものを。
ああ佐渡とは林秀貞のことだろう。確か佐渡守を名乗っていたからね。
「どうぞ」
「ほう。噂の南蛮人か」
「手を出すなよ」
「出さぬわ」
信秀は信長が座っている縁側に座ると、お供の人達は近くで立っている。
適当に座ったらいいと思うんだが。
縁側は広いんだし。
ただ余計なことを言わない方がいいかと黙ってると、エルがお茶とこの日のおやつにと作った大福を手に現れた。
流石の信秀も外人のしかも女を見たのは初めてのようで、お供の人達と一緒に驚いてる。
「大きいな。使えるのか?」
「城攻めなら使えるだろが、野戦だと使いどころが難しいかもしれん」
お茶を入れたことでお供の人達も、信秀に促されてから座りお茶と大福をたべる。
餅や大福みたいな物もこの時代にはあるが、やはり甘い大福は珍しいようで熊のようなむさいお供の一人は大福を食べてむせてるわ。
ただ信秀と彼らの視線は、信長が撃たせてた大筒に集まっている。
種子島に火縄銃が伝わり五年ほどになり、火縄銃自体は織田家にはそれなりにあるが大筒はまだ日本では珍しい。
火縄銃の口径を大きくすると一言で言っても、いざ一から作るとなればそれなりに難しいからな。
「あれは高いか?」
「まあそれなりに」
「二十程欲しいな」
「すぐに取り寄せます」
ただ信秀は大筒に興味を持ったようで、さっそく二十挺のお買い上げだ。
まあ城攻めとか防衛には使えるしな。
三河の安祥城にでも使わせる気か?
流石に大筒が少し増えたくらいじゃ、勝敗は変わらんと思うが。
いっそ義元より大原雪斎でも早く討った方がいい気も。
ただ信長が関わる戦じゃないから、オレが関われるはずもないけど。




