特訓と諸々
「もっと気合い入れて走らんかい!」
夏ももうすぐというこの日は那古屋城下の川原で、信長の小姓に近隣の農民の子らしき悪友の悪ガキ達と一益が走らされている。
ジュリアの指示によって。
「若。なんでジュリア殿が?」
「文句はジュリアに勝ってから言うがいい」
元はと言えば前田利家がジュリアに負けたことから始まるんだけど、結局誰もジュリアに勝てないことに信長は軽く失望したのだろう。
ならばジュリアに鍛えさせようと思い付いたらしい。
信長自身も一緒に走ってるから誰も文句は言わないものの、流石にジュリアに檄を飛ばされると困惑してる人もいる。
女で南蛮人に見えるジュリアに指導させるなんて、普通は考えないよなぁ。
オレは最初一益と小姓の人達くらいでいいかと思ったけど、信長は暇な連中を集めたらしい。
信長自身には師匠が居るらしいが、流石に悪ガキの指導まで頼めないのかジュリアがいいと思ったのかは分からないけど。
「一馬殿にまで負けるなんて」
「うつけが。ジュリアを娶ったかずが弱い訳がなかろう」
ちなみにオレも走らされてるけど、生体強化と睡眠学習してるからこの時代の人間よりは体力もあるし最低限の武芸も出来なくもない。
あくまでも生体強化した身体能力でごり押しする程度だし、ジュリアやエルのようなアンドロイドには勝てないけど。
ただ前田利家なんかは、見た感じ戦えそうにないオレに体力で負けてショックを受けてる。
完全にインチキだから、ちょっと心苦しいね。
「休憩する時はこれ飲んで」
「塩でも入れたか?」
「塩とか身体にいいものを入れた」
「これはいいな」
休憩時にはケティが作った栄養入りのスポーツドリンクを飲ませて、栄養やらミネラルを補給させることも忘れない。
いや放っておくと川の水飲むんだけどさ。
この時代の農民って栄養足りてないっぽいからさ。
信長はさっぱりしながらも少し塩気があり甘い、スポーツドリンクを気に入ったらしい。
それと近くではエルがケティと一緒に、お昼に配る味噌汁を大きな鍋で作ってる。
白いご飯のおにぎりと、肉と野菜のバーベキューも用意してるからだろう。
悪ガキの皆さんの士気は高い。
最近は信長に呼ばれると漏れなく家のご飯が付くので、集まりがいいと前に勝三郎が言ってたね。
飯の代金は信長持ちだ。
粗銅の稼ぎが信長に入り始めたので、金回りがいいみたい。
ただ家にお金が貯まるのは駄目なんだよね。
だから領内の農家などで肉や野菜を買っていて、今日の昼御飯も米と調味料以外は現地の物になる。
この時代の食べ物の問題は人糞肥料による寄生虫なんだけど、面倒なんでケティがナノマシーンで料理の前に除菌を兼ねて寄生虫を殺してるみたい。
ああ。あと津島と熱田の商人には、織田家の領外から牛と馬を仕入れて貰うようにも頼んである。
信長と平手政秀の許可を得て、那古屋城下の郊外の荒れ地に馬と牛の近代的な牧場を造ることにした。
もちろんその資金は家が出している。
信長の領地が広がったら、山間部に移すべきなんだろうから小さい牧場にする。
人を育てるのと牛を増やして農民に貸し出すのと、外国の馬を持ってきて品種改良をするのが主な目的だ。
場所は那古屋城下に近くないと守りきれないし、平手政秀に聞いたら馬泥棒は出るだろうと言われたからさ。
田んぼにしない理由は、水の問題と肥料の問題だってさ。
とりあえず現地は、すでに牧草向きな豆科とイネ科の草を何種類か撒いてある。
イネ科の草は角麦菌など心配なので、牧草用の草の種は遺伝子組み替えで麦角菌などにならないものにした。
季節的に夏前の今は草の成長が早いからね。
少し広め撒いて冬に備えないと。
あとは木工職人と鍛冶職人も、何人か集められないか頼んである。
生糸から布を織るための織り機は、この時代に合わせた高機という形の物を最初は持ってきたけど、ゆくゆくは木工職人に尾張で作らせたい。
鍛冶職人は金属製の鍬とか犂とか千歯こぎとか農業改革には必要な物があるから、少しでも現地で作らせないとさ。
どちらも人が育たないからな。
ただこの生糸から布を織るとなると、また戦国時代お得意の座が幅を利かせてるんだよね。
まあ当面は京とかには出ていかないなら、大丈夫だとは思うが。
あっちは将軍と実力者の不毛な争いが、しばらく混乱が続くしね。
まあ正直オレ達も津島や熱田の商人と結託して、座を作ってるようなもんなんだけど。
自由競争も著作権もないからね。
織田家の領地なら多少の無理は利くだろう。
有名な西陣とかあるみたいだけど距離的に尾張より東は十分に勝負が出来るはずだ。




