滝川一益
織田家に仕えて武士となったオレだけど、そう生活に変化はない。
信長は服装やら髪型やらを、ああしろこうしろと言わないので気楽なのが大きい。
ただ幾つか変わったこともある訳でして。
「某滝川一益と申しまする。是非召し抱えて頂きたい」
その一つが目の前の男になるだろう。
史実で織田四天王と言われた滝川一益が召し抱えて欲しいと頭を下げている。
オレの前で?
なんで? 違うでしょう。
貴方は織田四天王の一人になるのに。
信長亡き後の清洲会議に出席させて貰えなかった事で晩年は不遇だったが、能力は確かで信長の死により上野の領地を失いはしたものの、あの情勢下で神流川の戦いでは北条相手に一万八千も集めて戦っていた。
現地での国人衆の信頼もあったようだし、信長が健在ならば違う結果になっただろう一人。
「織田家に仕官したいならば口を利きますよ。ただ何故家に来たんです?」
「久遠殿に仕えとうございます。久遠殿の南蛮船。津島にて拝見して決めました。先日は津島にて大砲を撃った音を聞き、これから時代は変わると感じた故に」
最近時々家に仕えたいという人来るんだよね。
今川の密偵やら食い積め浪人のようだから、ジュリアと手合わせさせて勝ったらという条件で勝負をさせて追い返してる。
ただこの人は追い返せないでしょう。
「一益と言ったな。顔を上げろ」
「はっ」
ただ運命なのだろう。
この日は信長が家に飯をたかりに来ている。
縁側でお供の皆さんとお茶を飲んでいた信長は、最初は興味無さげに話を聞いていたけど突然話に介入してきた。
「ふむ。いい面構えだ。かず、召し抱えてやれ」
信長は一益の前に歩いていくと頭を下げていた一益の顔を上げさせて、まるで見極めるようにジッと見たのちに勝手に召し抱えを決めちゃうし。
「家は領地を貰わない約束なんで、録は銭と米なんかの現物支給になりますよ」
「構いませぬ」
「えーとじゃあ、若様。いくら払えばいんですかね?」
「好きにいたせ」
まあとりあえずオレが雇って、信長が家督を継いで手柄を立てたら直臣にすればいいか。
「えーと、じゃあまずは百貫で。」
「……それは高すぎるのでは?」
「そう? エルどう思う?」
「百貫でよろしいかと思います」
ちなみにオレは二百貫貰ってるから、半分にしたけど多いみたいね。
実は最初は幾らか決めてなくて信秀に会いに行ったら二百貫に決まったんだよね。
初任給にしてはかなり高いようだけど船持ちだしさ。
滝川一益だし中途半端な給料はね。
それにまだ二十代前半みたいで若いし、今からいろいろ教えたら史実以上に活躍しそう。
「屋敷はオレの方から爺に話しておく。良かったな。かず。一人の家臣もなければ格好がつかん」
「でもオレより武士らしくて、頭下げたくなるんですけど」
「フハハハ。それは慣れろ。一益。かずは何かと注目も集めて親父も心配していたのだ。励めよ」
「はっ」
なんか変えちゃいけない歴史変えた気も。
ただ信長って意外に人の心配してるんだよね。
自分で召し抱えてやればいいのに、オレの世間体を気にしてたのか。
家は擬装ロボットの下働き以外は女ばっかりだからな。
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信長公記にはこの日、久遠家に仕官に訪れた滝川一益が語った仕官理由に、信長がいたく気に入り仕官をさせたと書かれている。
晩年信長は本当は自らの家臣に欲しかったと一益本人に溢したとされるが、それよりも久遠一馬にいつまでも家臣が増えぬ現状を誰よりも心配していたと池田恒興が語ってもいる。




