ケティ先生と槍の又左
「これが消毒液。尿や馬糞は問題外」
この日オレはケティと一緒に、信長と小姓の皆さん達に戦場での応急処置を教えていた。
場所は例によってうちの家である。
それほど難しいことを現状で教える気はなく、消毒と包帯を用意して包帯での処置に、刀傷や火縄銃の玉を受けた際の処置くらいだ。
「馬糞はだめなのか」
「絶対ダメ」
正直皆さん半信半疑というか、信じられない部分があるみたいだけど、南蛮船に乗ってきたオレ達が言うと疑ってかかるほどでもない。
若いってのもあるのかもしれないけど。
「あの奥方凄いな」
「全部真ん中に命中してるぞ」
一方うちで一番暇をもて余してるのは戦闘型のアンドロイドのジュリアになる。
那古屋って流石に信長のお膝元だから意外に安全だし、戦も何も今のところないしね。
暇だったらしく庭で火縄銃撃ってたら、この日の応急処置の授業を終えた信長とお供のみなさんが唖然として見てるよ。
「鉄砲は女でも撃てるか」
「ジュリアはまあ特別ですけど。弓とか槍も使えますから」
「……男に勝てるか?」
「ええ。まあ」
「面白い。ジュリアよ。少し犬の相手をしてくれぬか?」
「いいけど手加減しないよ?」
「構わん」
あーあ。信長の好奇心に火を付けちゃったよ。
でもまあ、強いの弱いって嘘つくのもね?
「若。やりにくいっすよ!」
「たわけ! 南蛮船に乗って時には賊を相手に戦うのだぞ? その辺の雑兵程度など相手になるまい」
ただ可哀想なのはジュリアの相手に指名された、犬千代こと前田利家だ。
槍が得意なのは知ってるけど、ジュリアの方が背が高いし当然強いんだよね。
信長は流石だね。
海賊相手に戦うオレ達が弱いとは考えてないみたい。
まあそれでも前田利家が勝つと思ってるんだろうけど。
「うわっ!?」
「バカ! 女だからって舐めてるからそうなるんだよ!」
槍というか穂先に布を巻いた訓練用の槍を那古屋城から持ってきて勝負をしたけど、前田利家はやはり女なのを気にしてか本気になれぬまま一撃でジュリアの突きを食らった。
「ちげえよ! 本当に強ええんだよ!」
「アンタなかなかやるね。ウチの旦那より才能あるよ」
「もう一番頼む!」
実際前田利家は強いよ。
ただ相手は戦闘型のアンドロイドだし、生身で互角に戦えば化け物だよ。
オレなんて生体強化しても勝てないのに。
「……かず。南蛮人の女はみんな強いのか?」
「うちのは特別です。普通はこの国の女性と変わりませんよ」
前田利家は打ち負かされても、何度も何度も立ち上がりジュリアに挑んでる。
途中からは誰も言葉が出ない程の実力差が明らかになり、信長は南蛮人を少し誤解しそうなので、きちんと訂正しておく。
「……まあ、かずの奥方だからな」
流石の信長も理解に苦しむようだが、うちの女性が普通じゃないのは理解していて、そういう嫁を集めたとでも考えたのだろう。
「はい。ちょうどいいから治療の練習。若様からやってみて」
「ケティ殿。オレは大丈夫だって!」
「犬。大人しくしてろ」
ちなみに何度も突き飛ばされた前田利家はあちこちに擦り傷とか作ってしまうが。
信長と勝三郎達が治療の練習として、前田利家を治療するというちょっとシュールな光景が見られた。
信長って意外にうちのアンドロイドの言うこと素直に聞くよね。
敬意を払うような感じもあるし、学習しようとする意欲も凄い。
「ブハハハ! 犬お前重傷みたいだぞ!」
「うるせえ! 今度は勝つ!」
「いつでも相手になってやるよ」
最終的に包帯で半ばミイラ化した前田利家が完成して、すっかり笑い者にされてる。
前田利家に至ってはまだジュリアとやる気なんだ。
その根性が凄い。
槍の又左から進化でもする気だろうか?




