雨の日の一時
この日は朝から雨だった。
久々に信長は来ないし平和な日かと思ったら、今度は津島や熱田の商人が次々と訪ねてくる。
「これ茶道の茶器か?」
「ええ。かなりいい物ですよ。未来まで残れば国宝でしょう」
理由は生糸の件と、南蛮や明と貿易した物を売ってほしいらしい。
オレ達のやってるの表向き密貿易なんだけど、九州や西国ならばともかく堺より東では、堺の貿易に頼るしかなく不満もあったみたいだね。
手土産にといろんな物を商人の皆さんは持って来たけど、一番目を引いたのは茶道の茶器や道具だった。
「史実の信長も考えたよね。土塊の茶器で恩賞にするんだから」
「この時代の兵は、統制などあってないような物ですからね。彼らを束ねて天下を統一する。私達には考えられない苦労だと思います」
オレは茶道は知らんし、エルも知識として作法は知るようだがそれだけだ。
抹茶はお菓子で食べたのと、茶道と関係なく飲んだくらいだしね。
個人的にはお茶は安い玄米茶が好きだ。
あの香ばしさが好きなんだよなぁ。
「土産に何か渡したの?」
「はい。羊羮を。評判いいんですよ」
「実は密貿易の仲間が欲しいだけなのに」
「皆さんもそのくらい理解してますよ。ですがこの地の領主様の認めてる一種の官製密貿易ですからね」
珍しいとこだと書物とかもあるし、漆器とか女性用の反物とかもある。
商人が逞しいのはこの時代から変わらないんだね。
「木綿も評判はいいです。ただ砂糖よりは蜂蜜の方が需要があります。砂糖と比較して安く身近な為かと思われますが」
「需要があるなら売っていいんじゃないの? 一応平手様に確認しなきゃダメだろうけど」
「あと将来を考えると伊勢長島に関しては、少しでも力を削いでおきたいです。津島と熱田の商人を通して、伊勢長島に絹や木綿に椎茸や蜂蜜に砂糖など、売れる物は何でも売り込もうと考えてます」
「いんじゃないの。特に坊主には最初は安く売って、贅沢を覚えさせたらいいよ。ついでに坊主は贅沢をしてるって噂を流せば?」
「そうですね。一向衆との戦いの前に物流と経済で侵食して、伊勢長島をコントロール出来れば最良ですね。それが無理でも伊勢長島からのお金が尾張に入れば十分です」
伊勢長島は織田家と信長の鬼門だからね。
ただ流石の一向衆も今の織田家が、物流と経済で伊勢長島をコントロールしようとしてるとは気付くまい。
近代戦争は戦うまでが勝負なのは常識なんだけどね。
可能ならば坊主どもには贅沢をさせて、庶民と切り離したいところ。
理性ある坊主達ならば自ら贅沢を戒めるだろうし、一種の踏み絵になるかも。
「坊主の金で尾張が豊かになればいいか、尾張から一向衆はなるべく出したくはないしね」
とにかくこの時代は貧しいし、開発すらされてない場所が多い。
まずは尾張を開発して裕福にしないと。
「そう言えば硝石丘法は?」
「それは表向き新しい肥料作りとして、試しに平手様の指示で始めるとのことです。ただ糞尿は現状で肥料として使われてますので、集めるなら代わりの肥料の手配も必要になり、思ったほど効率はよくありません」
「大人しく科学的に作った方がいいかな?」
「はい。史実以上に火力を求めるなら、とても間に合いませんね」
「硝石は持ち込むか。あと外国から馬でも連れてくるか? 外来種をあんまり持ち込むのは、気が引けるけどあの小さな馬だとね」
「そうですね。繁殖と品種改良用に外国産馬の飼育を始めるのはいいと思います。去勢と蹄鉄をすればかなりの戦力になります。日本に合う馬を持ってきましょう」
やることはいくらでもあるけど、硝石丘法は思ったほど効率は良くないか。
肥料の問題は地味に農業の収量に直結するからね。
ただこの時代だと確か人糞なんかを、そのまま撒いて肥料にしてたはず。
その辺りの問題もあるから、農業改革は何処か目立たぬ領地で先行して試した方がいいか?
正直もう火薬と肥料は作って売った方が早いかもしれない。
ハーバー・ボッシュ法という魔法の技術があるから作りたい放題なんだよね。
あとは馬と牛と、ついでに羊も飼って牧場でも作るか。
最初は軍馬と牛乳と羊毛でも目的にすれば問題はないだろうし。




