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信長とケティ

「これが消毒する薬。馬糞や尿は消毒にならない」


「これも南蛮の薬か?」


「これは私が見つけた。でも効果は確か」


 お昼を何にしようかとエルと話してると信長が突然やって来てラーメンを作れと言い出した。


 どうやら昨日エル達が平手政秀にラーメンをお昼にと出したのが羨ましくなったみたい。


 何だかんだ言ってもまだ子供だね信長も。


 あとどうでもいいことだけど、オレが城に呼ばれることは今のところはない。


 信長は用があれば自分から来るし用がなくてもくる。


 平手政秀との話は主に平手政秀の屋敷かうちの屋敷で話してるんだよね。


 南蛮吹きは他の家老にも秘密にしてるから城内では話せないんだけど、信長はうちにくると珍しい物が食べられるから向こうから来る。


 呼んでも羊羮は食べられないからね。


 家老なんかはそんな信長に、家臣の屋敷にいつもいつも出向くなどと小言を言うらしいが聞くはずもない。





 そんなこの日だが一応用があったらしく、食後にはケティを呼んで以前話した消毒の話を聞き始めてる。


「これは飲んでも大丈夫なのか?」


「お酒の中にある酒精だから、ちょっとなら問題ないけど飲みすぎはダメ」


「なら試しに使ってみるか。中身は言わぬ方がよいな」


 家にいる三人のアンドロイドでは唯一日本人っぽい黒目黒髪のケティだけど、面倒なんで海外で知り合ったことにしてる。


 信長はそんなケティの話に多少の疑問はあるようだが、幾つか聞いたのちに小さめの瓢箪に入れさせて持ちかえり日頃鷹狩りや遠乗りで擦り傷などをする家臣に試してみることにしたらしい。


 信長自身もちらりと舐めてみたが、やはり苦手な味のようで顔をしかめた後に他の者が酒の代わりに飲まぬようにと中身は秘密にすると決めた。


「あと治療する専門の兵も作った方がいい」


「ほう。医術を使える兵を作れと?」


「簡単な治療でも助かる人は必ず増える」


「なるほど。道理だな。ひとまず勝三郎達にやらせて自分達の怪我くらいは手当出来るように出来ぬか?」


「出来る」


「ならばそれがよいな。爺はともかく他の奴らは信じぬだろうし、我慢するのが当たり前だと思うておる」


「気合いで怪我は治らない」


「クハハハハ! よう言うた! その通りだ」


 抑揚のあまりない声でズバリ本題を的確に話すケティに信長は楽しそうだった。


 それにしてもケティはついでに衛生兵についても提言していたが、この時代の武士の価値観に合わぬ衛生兵を道理だとすぐに理解したのは凄い。


 そう言えば史実の信長が宣教師が地球は丸いと教えたら理解したとも言われるし、この理解力はやはり並の人間ではないね。


「若様。戦場における食事と荷駄隊についてもいずれは変えた方がいいと思います。可能ならば食事は纏めて作った方が効率がいいです。荷駄隊ももう少し整えれば効率がよくなるはずです」


「うむ。雑兵はそれぞれに米や塩を支給してるが。ダメか?」


「ダメではありませんが、同じ米や塩を使うならば美味しい方が士気が上がります。それにきちんと火を通せば腹を壊すことも減ると思われますので」


「やるべきことは多いな。まずはケティの手当てを優先する」


「それがいいかと思います。この話は若様が家督を継ぎ尾張を纏める頃にでも今一度お考え頂ければ」


 史実では信長はあまり人の話を聞かぬとも言われていたけど明らかに優れてる物を取り入れる柔軟性はあったんだよね。


 戦における残る問題である食事と補給についてもエルは信長に話していた。


 今すぐには全ては出来ないが知るのと知らないのとでは雲泥の差があるからな。


「エルよ。今までのやり方で天下は収まると思うか?」


「不可能ではないでしょうが、収めた者が亡くなれば遠くない未来にまた乱れると思います」


「かずと南蛮人のそなた達から見れば理解に苦しむことも多いのであろうな」


 信長は確実にオレやエル達のことを正確に理解し始めていた。


 オレ達の中で細かい差配をしてるのがエルだということや、オレ達が理解に苦しむことがあるのもすでに理解していた。


 もしかしたら信長は孤独だったのかもしれない。


 その聡明過ぎる頭脳故に人が疑問に思わぬことも疑問に感じるのだろうし、簡単に誓いを破り裏切る武士達に何処かで冷めていたのかもしれないな。



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