改革の障害
「何故ワシらの田んぼを取り上げなさるので?」
「一年間借りるだけですよ。税は代わりに払いますし、報酬も十分出します。それでも不満で?」
農業改革の方は村を回って説明していくけど、やはりというか明らかに不満げな態度を取る村に出くわしていた。
「勝手になさるといい。ワシらには逆らえませんからの。だがワシは協力はしませんからの」
「……分かりました。ではこの村は来年も、今まで通り構いませんよ」
明らかに不満げなのは年寄りの数人で、他の村人はそれほどでもない。しかし誰も年寄りを止めないということは、年寄りの意見がこの村の総意だと受けとることにする。それにこれでは、今後も何かと反発するだろう。
「殿。よろしいので?」
「この村の住人の家族構成と名前と年齢を記録しておいて。今後、家の仕事からは除外する。あと診療所も銭を取るから」
悪いけどこの村は、今後の予定から除外することにしようか。一益は力で従えようと考えているみたいだけど、協力しない連中は信用も出来ないから、突き放す方がいい。
「……診療所?」
「噂のただで診てくれるお医者様か!?」
「じい様! 怒らせてどうするんだ!」
「うるさい! よそ者の言葉など信じられるか! あれはワシの田んぼだ!」
オレは一益に住人の名前と人数を記録させると、今更ながらに揉め出した村を無視して後にする。この村は無料診察からも、今後行う那古野や津島の工事からも除外する。
今日はエルを連れてきてないし、オレと一益と護衛の数人だけで、尾張出身者が居ないのも仇となったか。それにこの村には、ケティの患者も居なかったみたい。
ある意味いい勉強になった。新参者が代官になっても、簡単には従わないと。
多分帳簿にない隠し田の一つや二つはあるんだろう。オレの農業指導や新しい麦や米を植えるとなると、必然的に植える量を知られることになるからな。
前任の代官は無関心か癒着したのか知らないが、好きにやらせて帳簿にある分の税を回収していたのだろう。
「この記録は当てにならないね」
「そうでしょうな。要は毎年同じ分納めていれば、あまり煩く調べることはしてないのでしょう」
那古野城からこの時代の税の帳簿である、棟別銭帳を借りてきたけど。ざっと見てもいい加減で、誤魔化してるだろうことが分かった。
まともな検地なんてしてないんだろうし、人口とかもきちんと把握してないみたい。元々土地の権利も曖昧だし、織田家ですら実効支配してるだけだから、仕方ないんだろうけどね。
「まあいい。協力してくれる村だけで始めよう。今後も渋った村は除外する」
検地はともかく人口調査も嫌がるかな? 嫌がるだろうな。戦に人を取られるとか考えそうだ。
診療所も忙しくなってるしね。協力しない連中は、無料診察はしないことにしよう。家は薬は宇宙から運んでるから、タダみたいなものだけど。協力しない連中が当たり前のように、診察を受けられると思われても困る。
「しかしそれでは予定の数には、いかないかと思いますが」
「いいよ。ちょっと手間だけど直轄地を全部回って、ダメなら協力してくれるとこだけでいこう」
やっぱりオレは舐められてるんだろうか?
いっそケティの患者達から移住者を募り、まだ開拓してない場所に村を作った方がいいかもしれないな。
田んぼは水路を作るの大変だけど、麦と大豆とか芋の畑ならそんなに大量の水は要らないからやれる気がする。
この程度で怒っていたら、今後やっていけないだろうね。
ちゃんと協力してくれる人達を大切にしよう。武士も商人も農民も。
「足りなかったら、平手様の領地でも探してみてもいいかも。ちゃんと飢えないようにすれば、文句は出ないだろうし」
直轄地の三割は無理かもしれない。平手政秀とか津島や熱田とかの、協力的な人達の村でも探してみようか。
出来れば弾正忠家の直轄地からやって、織田本家の力を上げたかったんだけどなぁ。帰ってエルに相談しよう。
経済的な活動が上手くいってるし、清洲も簡単に取れたから甘く見てたかも。
最大の敵は農民かもしれない。
まあいい。来年の今頃には後悔してるだろう。向こうから頭を下げて来たら、人口調査と区画整理込みでやらせよう。
受け入れなければ何年でも放置してやる。
大変申し訳ありません。
私の力量不足により本作品は書き直します。
もしそれでもよろしければ、改訂版が宇宙要塞シリーズにあるのでそちらをよろしくお願いいたします。




