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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ねむりひめ

作者: 如月さん


ビルに太陽が刺さりつつある赤い背景を前に一人の少女は息を切らして走っている。



─大分遅れてしまった。


まさか学校の先生の頼み事がこんなにかかるなんて……ピアノレッスンまで時間が無い… こうなったら家から帰らずに速攻でレッスンまで行くか。

私はここからピアノレッスンへの道の行き方が載ったスマホを片手に、全力疾走で走る。


『──この先右です。』

ナビが教えてくれるが、全力疾走で走っているし、車の騒音もあるので音声を認識出来ないのと、酸素不足で何を言っていたか考えることが出来ない。


「はぁ、はぁ、あー…」


息を切らし膝に手を置いて上半身を下に向ける。

確かナビはなんて言ってたっけ……この先って言ってた気がするから右か左だよね。


周りを見てみると今いるところはT字路で右しかなかった。

しかしそこには[このさききせいちゅう]と黄色い看板が立てられていた。


(まぁ普通に考えて道路工事だと思うからこのまま行っても車じゃない私は止められることは無いよね。)


私はナビに言われたであろう通りにその道へ行くことにした。



……規制と書かれているのに工事は終わっていた。


シャベルカーは存在しないし、ガードマンはいないしとても工事をしているようには見えなかった。というのが正解かもしれない。

あまりにも不自然で不穏な雰囲気を感じてはいた。だが、


(まぁそんな事を考えていても仕方がない。今はとにかくピアノレッスンまで急がなくちゃ)


──頭に虫に刺されたような痒みに襲われ夏の始まりを感じながら少女は夕暮れの背景で走り続けた。





ピアノレッスンの場所に着いた時には日は暮れていた。

かなりギリギリだった。


扉を開けると何かのサビらしき部分が聞こえてきたので間に合ったと安堵を浮かべると初めて見る女の子がいるのに気が付いた。先週から始めたらしく今日から日程が決まって私の後なんだとか。

話を少しすると1時間位前からここで待っていたらしい。

見た目小学生なのに凄いよね……


「ちょっと加藤さん?」

メガネを掛けた先生が私を呼びかけた、身長の高い男性がこちら──を通り過ぎ小学生の女の子が座っているソファに「隣、いいですか?」と尋ねている。


「加藤さん!」


「は、はい!」

私はビクっとした後、スグに返事をして先生のところへ向かった。

それにしても汗がひどいから吹きたいな……そんなに走ったかな……

これじゃぁ、ニキビが出来ちゃうじゃない…


痒いところを少し引っ掻いて、ピアノの譜面を見る。


私は深呼吸して演奏を始めた───。










(………なんだろう、もうニキビ出来てきたのかな)

鍵盤を押し込みながら体のあらゆる所が少しずつ痒くなり次第には痛くなるところもある。

しかもその痛みは動く。まるで生き物みたいに


「………ッ‼」


-本来の曲の中では必要のないアクセントのようなものがついてしまった。



皮膚が貫かれそうだ。激痛が走った─

それでも私は続けることにしようとしたが弾いてる途中で先生が私を止めた。


「どうしたの?何かとても辛そうよ。」

真剣な目をした先生を見て私は申し訳なさを受けた。

皮膚が痛いとかそんな事を言うのはおかしい。絶対に怒られる。


昔から痛いから休むとか病気、熱で休むというのはあまり好きじゃなく休むのは良くない事だという習慣が付いたせいか、つい「なんでも、無いです」と言ってしまう。


先生は「そ、そぅ?辛かったら言うのよ」と言ったので私は軽くうなづき一度、二度、深呼吸して演奏を再開する。








「うん、いい感じね。」

先生は軽く拍手をして演奏を終わらした私を褒めてくれた。


「途中でリズムがばててる所も少しあるけどそこを克服すればコンクールもいけると思う」

そう言ってにこやかな笑顔を私に向けた。


コンクール……コンクールか




ふいに嫌な曲とともに過去が流れる


以前にもピアノのコンクールはやった事がある。

しかし周りの人の目線や先生の期待に潰されて私は大きな失敗をしてしまった。


それ以来”ドピュッシーの月の光”を弾くことは、もうできなくなってしまった。だけでなく小学校の合唱コンクールや演劇会みたいな物には失敗をすることを想像してしまい、酷い時には見えるはずのないものや聞こえるはずのないものが聞こえてしまう時もあった。




(コンクールは………なんか嫌だなぁ……でも先生は期待してるのかな……)



「……はい」

今は余裕が無い。余裕は無いのだが無視をするのも良くないので、その場しのぎのように流しておくが、少女の心情も知るよしもなく先生は少女首を締めにかかった。


「期待してるわ」


──ッ‼

私は目を大きく開いた。


いままでかろうじて保てていた冷静()が乱れ始める。



この人は期待するのかこんな私を…

小学校の頃、黒鍵から指が滑り間違えて白鍵の音を出してしまい血眼で怒ってきた時の先生を今でも思い出す。


また、怒られるのだろうか─


怒られるのは嫌いだ、例え自分のために怒っているのだとしてもどうしてもその怒ってれた人のことを嫌ってしまうから─



怒られるのは嫌いだ、いざ実行しようとしても失敗を恐れてしまい出来なくなってしまうから─



怒られるのは嫌いだ、自分は要らないのではないか。死んだ方がいいのではないかと、思わせてしまうから、嫌いだ─


こんな私は死んだ方がいいんじゃないか─…そう思ってしまった時もあるし、思い出しただけでも再び死んでしまえれば、と思ってしまい涙が落ちた。



しかしそれはそう思っている自分が悲しいからでも、怒られる恐怖を感じたわけでもないし…


本当に死んでしまおうとおもったわけでもない。




“痛かったのだ──“


心が?………違う。()が、だ。



何故か分からないけど、何かが私の体に攻撃をしている。

言葉にならない激痛が走る。



「だ、大丈夫加藤さん?!涙拭いて」

ハンカチを渡され涙を拭く、がその“涙が赤い“事に頭が働かなくなった。

完全に停止して再起動するのに時間がかかった。



え…?あかい、なみだ?


もう何が起こっているか彼女には理解できない。

1度平常心を失うとよほど出ない限り、戻ることはできない。

彼女のような普通の女子でこのような経験をすることなんて今までにないのだから。


頭の中は(何で)で埋め尽くされている。



「……今日はもう、休みましょうか」

先生の提案に言葉を返すことなく、頷き…歩いて帰る事にした。










「何だ!?あの女性は?」


「とても素敵な音を弾いてますね…」


「あの、ピアニストの教え子だって?!道理で上手いわけだ」


全てを弾き終わると後は歓声と拍手が鳴り響いた


……………


…………………………なにを想像しているのだろう。


あったらいいことを想像していた。


なぜそのような事を考えていたかと言うと、足が痛かったからである。

歩くたびに痛みが増していく足を見て、いいことを考えて少しでも紛らわそうとして生まれたのがこれだ。


………なんだろう…想像力の低さに驚いてしまった。



(本来であればピアノ中に喋るなんて絶対にあってはならないはずだ。

弾いてる人に失礼であろう“あのピアニストの教え子“?そうだよ一時期有名だったピアニストの教え子ですよ、それで上手いかどうかなんて別でしょ?何で自分の頑張りを認めないの?)


想像しているのは少女なのだから観客も少女の想像、つまり少女の思っている事に等しい気もするがそれに気づいてはいけない。


(にしても、なんでこんなに痛いのかな……)


何かいつもと違うことがあったか記憶を辿る───


席替えがあった…いやでもそれで痛くなるとは考えられない。


少しだけあの人と仲良くなれた、でも普通それなら足じゃなくて胸が……やっぱりいいや


先生に手伝いをさせられた、まぁ何も無かった…


自転車の鍵を失くした─関係ない。


走ってピアノレッスンまで来た確かに足は痛くなると思うけどそれなら筋肉痛とかだよね………今はナイフで刺された。みたいな痛みだから違う…?


駄目だ全然見つからない。

他になにか無いのかな?


何か原因が分からない事があると知りたくなるのが人の性だ………しかし時にそれは知らない方が良かったと思ってしまう時がある。


そういうもの(幻覚を見る体質)を持ってる人は特に──



目の前には一つの看板。まだ回収されていなかった。一見何の変哲もない只の看板─


[このさききせいちゅう]の看板がどうしても目を離すことが出来なかった。


きせいちゅう…規制中…寄生虫………ッ!

バリバリバリバリ─

何が起きたか分からなかったけど皮膚が破れる感じがした。


もしこのきせいちゅうが寄生虫って意味なら…

バリバリバリバリ─



また皮膚が破れる感じがした。


痛い──なんてものでは済まされない。


腕を見れない、自分の腕に寄生虫がいるなんて考えたら怖くて見ることなんて……ッ


また、破られる。


嫌だいやだいやだ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だいやだ嫌だいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ─




そこであることに気づいた。


さっきここで蚊に刺されたと思っていた頭皮から人間の皮膚とは思えない感じがする。ぐにょぐにょしていてぶよぶよしていて急に動くし気持ち悪い──


あ、これ──


頭から噴水の如く出血した。







「いやぁ……あれ、死んでないよね?」

とあるビルの屋上……そこに2人の人影があった。



「まぁ、元はただの幻覚症状みたいなもんだし目が覚めればあの女の子が見ていた蟲も消えて無くなるでしょ。」


帽子を手に取り人差し指でクルクルと回して蟲を送り付けた本人が他人事のように語る。


「そもそも、[きせいちゅう]なんて看板元々無いんだよ。[この先規制なし]はあるけど本当に規制する気があるなら[工事中]とか[通行停止]みたいな感じにしてあるから…少なくともこの地域は」


「君、此処にきて三日でしょ?どれだけ看板見てきたんだよ…」

それを聞いた黒いパーカーを着た声の高い子は呆れ笑うように「よっぽど暇なんだね」と付け足す。



「さて─見たいものは見たからおいとましますか、ここ屋上禁止だし、そもそもここのビルに関わりなんて無いからね。まぁ、ネタになりそうだから今回のお仕事はお疲れ様。はいこれ」


黒パーカーは分厚い茶封筒を帽子の人に渡し、スグに次のビルへ飛んでいった。


「こんな高さでフリーランニングなんて…怖くないんですかね?というか人間が道路一つ挟んだビルに飛ぶって本当に人間なのですかね……おや?」


封筒を開けていくら入っているかと確認すると中身は外国の通過だった。

しかも最近価値が下がり下がっていて日本円で1枚12円…が50枚……


これ以上価値が下がらないうちにと人間でない帽子の人はビルを飛んだ。










───目が覚めると布団の上にいた。

どこからの記憶があったか分からない。


昨日の記憶が思い出せない、確か─ピアノレッスンに………

頭がぼーっとする。どうしようもないくらいにだるい。誰もいない。これは自分の部屋ではない…部屋ではない?


ではここはどこだろう、とても眠い。


扉が一つあるけど行く気力がない。

なんかここにいた方がいい気もする。


知りたいけど知ってはいけない。

そう思ったから。



──彼女が倒れた後何が起きたかは分からないけど何が起きたとしても彼女はずっと眠っていた。


起きることは無い。頭の中から蟲が出てきたと思った時に脳を殺られたと思ったのだろうか。

傷一つない脳は脳外傷を受け、今まさに彼女は植物人間である。


向こう側(現実)の人の声は聞こえないからここがどこだか分からないしそうする力もなくただ布団の上で寝転がっているだけだ。


彼女は自分から助かろうとしないし、そもそも助かろうとも思ってない。


どうあっても目覚める可能性などない。


そこにある扉は目を覚ますためのものではない


開けたら死ぬ。


それを少女は知らないが開けようとは思っていない。

好奇心がもっと強くて開けてしまえばもう少女は火葬場だったかも知れない。



ホラーなのかどうなのか分からないのでとりあえずホラーにしときました。

本当はもうちょっと、というかメチャクチャグロそうなの書いてみたいけど表現力無いので……練習してます。

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