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偶然の再会

 シイラを連れたエドモンドは何の連絡も無しにクロエの元にやって来た。勝手口のドアをリズミカルにノックして扉が開くのを待った。ドアの向こうからは少年の声がした。


「誰?」

「あー、クロエの父親だが、娘に会いに来た。呼んでくれないか?」

「……本物かどうかわかんないから、無理」

「は? 本物だぞ、エドモンド兵士長だ。アリアでもいいから呼んでくれ」

「わかった」


 少年が呼びに行って暫くするとアリアが来てドアを開けてくれた。


「どうしたんですか? 昨日来たばかりではないですか。……それに、その方はどなたです? 今の状況わかってますよね? 不用意に他人をクロエに近づけたくは無いのですが」


 アリアは迫力のある鋭い視線をシイラに向けた。シイラはさすがに夜の街で経験を積んだ女だけあって小娘の一睨みくらいでは動じなかった。笑みを見せるほどの余裕を見せて自己紹介を始めた。


「私はエドモンドの元妻の妹でシイラと言います。姪に会いに来たのよ。姉が何かしようとしているのは知っているわ。エドに情報を教えたのはこの私ですもの。あなた方の敵ではないとだけ言っておくわ。私は姉を恨んでいるの、誓って姉の味方になんてならないわ」

「アリア、彼女もダミヤンの被害者で、クロエの魔道具を必要としているんだ。話だけでも聞いてくれ」


「そこで待っていて下さい。クロエに話してきますから」


アリアは一度ドアを閉め、工房へ向かう。

 工房で作業していたクロエにエドモンドが来ている事を伝え、同時にイザークにも聞こえるように、一緒にカミラの妹が来ていると教えた。


「彼女もダミヤンの被害者だと言っていたわ。あなたの再生魔道具が必要なんですって。どうする? 会ってみる?」


 クロエは初めて聞いた両親以外の親族の存在を喜んだ。


「ええ、会ってみたいわ。イザーク様、良いですよね?」


 イザークは複雑な顔をしたが、頷いてくれた。クロエは勝手口に急ぎ、ドアをあけるとそこには父と、見た事の無い女性が立っていた。母の妹と言うから少し若いカミラを思い浮かべていたが、全然似ていなかった。地味だが整った顔立ちの優しそうな女性が自分を見て目を潤ませている。


「あなたがクロエね? 姉さんに似てるけど、ちゃんとエドにも似てるのね。二人の良い所を上手く掛け合わせた感じで、すごく可愛い子だわ。はじめまして、クロエ。私はあなたの叔母のシイラよ。会えて嬉しいわ」


 シイラは感激して目を輝かせた。会う前はこんなに嬉しく感じるとは思っておらず、カミラの娘を可愛いと思える自信が無かった。実際会ってみたらそんな心配は無用だった。会った瞬間に可愛いと思ってしまったのだから。


「はじめまして、叔母様。クロエです。母さんに妹が居たなんて知らなかったわ。あ、どうぞ、入って下さい。中でゆっくりお話を聞きます」


 クロエの案内でダイニングに通された二人は椅子に座るなり用件を話し始めた。


「クロエ、シイラもダミヤンの被害者で、だな、えーと」

「エド、いいわ、自分で話すから。数年前姉がダミヤンを連れて私の所に来たの」


 シイラはエドモンドに話した事とほぼ同じ内容の話を赤裸々に話して聞かせた。その時にはアリアも立ち会って一緒に聞いていていて、初対面の時の無礼を謝罪した。


「シイラさん、これから紹介状を書きますから、魔道具研究所の受付にいる女性に渡して下さい。その方が全て手配してくれると思います。病院で検査を受けて、必要な魔道具が揃い次第移植手術を受ければ即日退院できますよ。再生前でもきちんと機能しますから子供が欲しいなら直ぐ取り掛かっても大丈夫です。良いお相手が早く見付かると良いですね」


 クロエは笑顔でそう言うと、自分の部屋へ行き、早速紹介状を書き始めた。シイラはしみじみとエドモンドに話しかける。


「クロエは本当に良い子ね。姉さんはどうしてあんな可愛い子を手放せたのかしら。理解に苦しむわ」


 昼が近付き、ランスがお腹を空かせてダイニングにやって来た。


「腹減ったよー、クロエー、今日のメニュー何ー?」

「あ! もうそんな時間? ごめん、ランス、すぐ作るわ」


 慌てて紹介状を書いて台所に向かい、シイラに紹介状の入った封筒を渡す。


「はい、これを持って魔法省へ行ってくださいね。父さん達もお昼一緒に食べて行くでしょ?」

「ああ、良いのか? 久しぶりにクロエの手料理が食べられるのか、嬉しいな」


 そんな会話の中、シイラは呆然としてランスを見ていた。クロエはシイラの前に封筒を置き、昼食の準備に掛かろうとした。


「キリト? キリトでしょ? 私よ、ママよ。わからない? まだ小さかったし覚えてないかしら? すっかりお兄ちゃんになっちゃって。その目を見てすぐにキリトだと分かったわ。姉さんと私、それにクロエも同じ色だもの」


 シイラは椅子から立ち上がるとランスの前まで行き、しゃがんで顔をよく見た。


「違う、オレの名前はランスっていうんだ。おばさんの事なんか知らないぜ? 人違いだぞ」

「じゃあ、左腕に、並んだ二つのほくろがあるでしょう?」


 ランスはビクッとして左腕を後ろに隠し、一歩下がった。不安げにクロエの方を見て、シイラから逃げるようにクロエの後ろに隠れた。


「ランス、あなた腕にほくろ、あったわよね」


 クロエはチラッとランスを見た。するとなんだか怯えているように見える。


「オレはアニキの弟だ。キリトなんかじゃないぞ。今更出てきても遅いんだよ」

「ランス、もしかして記憶が戻った?」


 ランスはこの間の配達が遅れた日、富裕層の住む地域をグレンと手分けしてまわり、自分が置き去りにされていた路地裏で突然記憶が戻りその場で呆然と立ち尽くしていたのだ。グレンが待ち合わせ場所に中々来ないランスを探しに行くと、泣きそうなランスはこう言って誤魔化した。「道にまよっちまった。はは」

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